第540話 滞在の理由と国を動かした男様 ──十三章 完──
「二週間って結構あるけど、みんなは王都でやりたいことってあるかな」
カフェジゼリィ=アゼリィで夕食後、アリーシャやロージたちと別れ、俺たちはお城の豪華な来賓用の部屋に案内された。
どうにもハイラが、俺たちが今日の夜二十時に王都ペルセフォス駅に来るから! と神のお告げを受けたらしく、滞在用のお部屋をサーズ姫様に申請してくれたようで。
いや、事前に行動してくれたおかげでスムーズに宿泊先を確保出来たけど……ハイラさん、なんか恐ろしい方向に進化なされましたな。
「私は先生とずっと一緒にいます! がっつり有給取りますから!」
王都に着いた俺たちは、こちらの都合で申し訳ないが二週間ほど滞在して欲しいとサーズ姫様にお願いされた。
特に早く帰る用事もないので、ソルートンに帰るのが少し遅れるって手紙書いて王都に滞在しようか、という話になった。
誰もどころか、サーズ姫様発案の王都滞在はたいていブツブツ文句を言うラビコが反対しなかったからな。
ああ、出来たのか~とか不思議な言葉は言っていたが。
サーズ姫様は一度自室に戻られたが、ハイラは案内しただけではなく普通に部屋に居座っている。
我が愛犬ベスがクンクンとハイラを嗅ぎ、たまに見る人判定が出たようで、安心したように俺の足元に戻ってきた。
「いや、有給って……二週間もあるんだぞ。そんなに取れないんじゃ……」
「取ります! いえ、むしろ無理に取って、これを理由に騎士をクビになれば晴れて先生の正式な愛人としてソルートンに行けるんですぅ!」
俺が溜息交じりに言うと、ハイラが元気に断言し謎の未来図を明らかにする。
そういや以前、上司にあたる隠密騎士アーリーガルさんを無意味に五発ぐらい殴ればクビになる……! とか騒いだこともあったな。
うーん、ハイラは本当にやりそうで怖い。
「ニャッハハ! 相っ変わらず真っ直ぐ元気だなハイラは。アタシも後追い組だからよ、ハイラみたくなりふり構わずいかねぇとな! 王都でアタシのやりてぇことはただ一つ! キングはまだ誰ともヤッてねぇみたいだし、ここで一気にラビ姉たち先行組を蹴散らす既成事実を一発……!」
俺に絡むハイラを見た猫耳フードのクロが目を光らせ、獣のように俺に飛びかかってくる。
ちょ……俺がみんなに聞いた王都でやりたいことって、カタカナ表記のヤるとかそういうことじゃなくてだな……!
「どうしてかな~……どうして私が社長とまだやってないって言えるのかな~?」
飛びかかる獣の背後から手が伸びフードを掴まれ、首が自重で絞まりクロが悶絶。く、苦しそう……。
「社長とはずっと一緒にいるし~君ら雑魚どもと違って深夜に二人きりって時間もかなりあったし~私が社長とするチャンスって……結構あったんだよね~。普段は妙に紳士ぶって無理だけど~、暴走気味のときなら……あっはは~」
水着魔女ラビコが意味深な笑みを浮かべ俺に寄りかかり、わざとらしくエロいポーズを取る。一体なんの話だ。
「げっほ……くそ……そういや魔晶列車でよく深夜に二人で話しているのを見たけどよぉ……え、もしかしてあの後ヤった……」
クロが首をさすり起き上がり、俺とラビコを驚いた顔で交互に見てくる。
え、マジで? 俺ラビコとヤったの? 一切記憶にないけども。
もしかして課金で見れるとかいうえげつないやつ?
「ほ、本当ですか……? そんな……お、おかしいです! 私のほうがお付き合いが長いのに……」
それを聞いた宿の娘ロゼリィまでも驚きの顔で見てくる。
いや、お付き合いの長さでやるやらないは決まらないような……。
「ほーん、基本私は二番目でいいんです。では先生、ラビコ様の次は私とやりましょう!」
ラビコの発言に俺含む全員が驚く中、ハイラは動じる様子もなく興味なさそうに吼えた後、笑顔で俺に抱きついてくる。普段から私は愛人を名乗るだけあって強いな、この子……。
「…………いえ、マスターはまだ誰ともされていませんが……」
俺の後ろで無表情で立っていたバニー娘アプティさんがボソリ。
「なーんだ、やっぱウソかよ。大体ありえねぇンだって、キングが女を襲うとかよ。このクソへたれは例え女に裸で迫られても早口でなンか言って真っ赤な顔で逃げてくだろ。ったく、普段女とヤりてぇとか言ってるくせによぉ」
それを聞いたクロが肩の力を抜き一言。
いや、その……多分そうなると思うけど、俺普段から女とヤりてぇとか、男友達に言うようなこと言ってましたっけ? 俺の記憶には無いのですが。
「もう、驚かせないでください。私が何度それとなく誘っても乗ってこなかったのに、ラビコには応じたのかと思っちゃいました」
ロゼリィも安心したように息を吐き、いつもの笑顔に戻る。
「なーんだ。もう、ラビコ様はすぐにそうやって先生をおもちゃにするんですから」
ハイラまでもが納得しているが、え、何、なんでアプティさんの発言ってこんなに全幅の信頼を得てんの。当の俺が一言も否定コメント発していないのに。
確かにアプティは毎日深夜どんな頑丈な鍵だろうが突破して俺の部屋に侵入してきて勝手に布団に潜り込んでくるし、毎晩開かれる俺主催による感謝の孤軍奮闘カーニバルを影から無表情で眺めているらしいから、俺の性事情には一番詳しいんだろうけども。
お祭りって表現で楽しそうに聞こえるかもしれんが、一応言っておくが決してオープンタイプじゃなく、クローズドタイプの俺しか参加が認められていないお祭りだぞ。
一筋の涙と引き換えに毎日参加券がもらえるやつ。
たまに二枚以上使う……あ、うそです。
「ちぇ~。もっと社長が顔真っ赤にして慌てて否定して暴れるかと思ったのに~。呆けた顔になるだけでつまんな~い。アプティさ~もうちょっと泳がせても面白かったと思うよ~? キレた社長が本当に襲ってきたかもしれないのに~」
騒ぎの発端の発言者ラビコがつまらなそうに溜息。
こいつ……また俺で遊ぼうとしやがったな……。
「……失礼する……その、お風呂にはまだ行かないのか? ホラ、いつもお城の一階にある男女別のお風呂に行くじゃないか。待っていてもこないから、おかしいなと……」
用意してもらった豪華なお部屋で揉めていたら部屋のドアがゆっくり開き、なぜか汗だくで薄着なサーズ姫様が登場。
待っていた? あれサーズ姫様、自室に戻られたみたいだったので、てっきりもうお休みになられたのかと。
しかし……理由は分からないが汗だくのサーズ姫様か……うーん、服がピッタリと体に張り付いていて、エロい体のラインがはっきり見えますな……。
「あっはは~! ざっっんね~ん、お風呂は夕飯の前に施設で入ってきたんだよね~。待っていたってなにかな~? 男女別で社長が一人になる瞬間をってことかな~? さ~てどんな変態的な姿で待っていたのやら~あっはは~」
変態的? いや、サーズ姫様がこの薄着でいたら、それはもうご褒美だろ。ぜひ一枚……! とカメラ片手に血涙流しながら土下座ですわ。
「ちっ……別に何度入ろうが風呂はいいものだぞ? さぁ今から男女に分かれて犬を置いて、男の君だけはちょっと遅れて行ってみてはどうだろうか。大丈夫、そこにはこの世の楽園、素晴らしいモフモフの世界が君を待ち受けているのさ」
ちょっと火照った感じのサーズ姫様が右手で軽く俺の顎を持ち上げ、嫌な笑みを浮かべうっとりと言う。
楽園? 男女別にお風呂に向かって、俺だけちょっと遅れて行くだけでエデンに辿り着けるってマジ?
さすがペルセフォスが誇る王都、お城の中にエデンが常設されているのか。
……モフモフってのがちょっと意味分からないが、俺の夢が叶うエデンだと言うのなら、ぜひ行ってみたい。愛犬が一緒じゃないのが残念だが、まぁ仕方がない。あとでリンゴの一個もあげればベスも機嫌をなおすだろうし。
エデンかぁ、俺が心底尊敬しているサーズ姫様が言うんだ、絶対に間違いないだろう。
「はぁ……変態姫はいまだ健在か~。つかマジで社長を巡って私たちと戦いたいって言うんなら~まずその私欲全開変態行動をやめろって。あれ、社長マジで怯えてんだからな~?」
俺の顎に当てられていたサーズ姫様の右手を払い、ラビコが俺を守るように前に立つ。
え、俺が怯える? 別に汗だくのサーズ姫様って変じゃないだろ。かなりエロいし、俺にはかなりウエルカム、もっとカモンなんだけど。
「ふん、好きな男に情熱的に迫って何が悪いと言うのだ。……魔女め、やはりいつか始末せねばならぬ障害だな……砂浜ではもう一歩だったのだ。イレギュラー処理さえ誤らなければ今頃は……ちっ……まぁいい、これから二週間のうちに今までの失敗を踏まえチャンスを作ればいい」
サーズ姫様がラビコを睨み、ブツブツと呟く。
「あの……そういえばサーズ姫様に俺たちに二週間王都に滞在してほしいと言われましたが、その理由をお聞きしてもいいでしょうか」
後半サーズ姫様の声が小さかったのでよく聞こえなかったが、二週間って単語は聞こえた。
今俺たちがお城のお部屋にいるのは、サーズ姫様がこちらの都合で申し訳ないが二週間ほど王都に滞在してほしいと言われたから。
でも二週間って結構だよな。
そりゃあ王都は都会だしお店はいっぱいあるし楽しいところだが、さすがに意味もわからず長期間滞在ってのもスッキリしない。
理由ぐらいはお聞きしたいものだ。
「ああ、そういえば言っていなかったか。いや、なんとなく想像はついていると思うが……」
俺の質問にサーズ姫様が不思議そうな顔。
想像? さっぱり分からないのですが。
「あっはは~社長って女関係もそうだけど、結構鈍感なところがあるんだよね~。多分ハッキリ言わなきゃ分からないと思うよ~?」
ラビコがニヤニヤと俺を見てくる。
鈍感? 一体何の話なんだ。
「まぁ、そうだろうな。君はなんというか、求める方向性を間違えているというか、本やアイテムに女性を求めるのではなく、その爆発的な行動力を普通に私たちに向ければ皆が幸せになれるというのに……。鈍感とまでは言わないが、君の持つ優しさと欲が心の中で両方混在してしまい、若さゆえにコントロール出来ず、自覚なく自分も周りの誰も傷つけない方向に行ってしまうのだろう」
本やアイテムに女性を求める? エロ本とかのことですかね……うぐ……サーズ姫様にまで色々バレているのか……。俺のプライバシーってこの異世界に存在しないワードなんすかね……。
「はは、だが気にすることはないぞ。そういう不安定な少年を健全に誘う役目が年上の女性である私であり、そこにちょっと私の欲も足してお互いが笑顔で満足する行為を……」
「だ~から、何の話してんだよ。お前が一番欲をコントロール出来てないっての~」
ちょっと興奮気味なサーズ姫様が俺に近づこうとしたが、ラビコが杖を構え静止させる。
「ち……まぁいい。ああ、滞在してもらう理由だったな」
分かりやすい舌打ちをしたサーズ姫様がラビコの杖を払い、俺に笑顔を向けてくる。
うーん、サーズ姫様って時折意味が分からないことを言うけど、この笑顔はたまらんなぁ……。この笑顔を独り占め出来る男が羨ましいぜ。
「予算不足や色々な理由で長らく工事が中断されていた一つの計画があってな。それが最近とある人物の活躍により優先度が急上昇し計画が見直され、毎日お城に届く王都民の強い要望により予算の確保が通り、さらにはとある企業から多額の援助の申し出もあり、その巨大なプロジェクトが再始動したんだ」
巨大なプロジェクト? そんな国家的なことと俺たちが何の関係があるんだ?
「線路は計画が中止される前にソルートンの手前ぐらいまでは出来ていたので、あとはソルートン側に少し伸ばし、巨大な敷地を確保し駅を。そしてそれに直結する商業施設の計画を新たに加えた」
線路に駅……? はて、サーズ姫様は何を言っているんだ。
「ピンとこないか? はは、ではハッキリと言おう。これから二週間後に線路の整備が完了し、ソルートン駅と駅直結の巨大な商業施設が出来上がる」
ソ、ソルートン……駅? え、もしかして……
「理解したようだな。つまりソルートンに魔晶列車の駅が出来上がる二週間後、王都から出る記念の一番列車に君たちと一緒に乗ろう、ということだ」
王都からソルートンに行こうとしても魔晶列車はフォレステイが終点となる。
そこから馬車に乗り換え、半日かけてようやくソルートンに到着。
はっきり言ってこの馬車の十二時間は相当きつい。これがなくなるってことか。
そういえばだいぶ前、魔晶列車はソルートンまで作る予定が途中で計画は頓挫、結果フォレステイが終点となったとかラビコから聞いたような。
今回ソルートンから冒険者の国に行こうとしたとき、そういやラビコが最後に馬車に乗ってもよかったんだけど~とか言っていたな。このことを言っていたのか。
「マ、マジですか、す、すごいじゃないですか、ソルートンに駅が出来上がるって! 誰だか知らないけど活躍したっていう、そのとある人物に感謝だな!」
「はぁ~……鈍感ここに極まれり~。社長だっての、その人物~」
「ふふ、あなたなんですよ。そのすごい人物は」
「だからキングだけだってぇの、そんなこと出来る人物ってのは」
「……おそらくマスターかと……」
「ベッス!」
「君だぞ、その人物は。君が国を動かしたんだ」
「さすが先生ですぅ! これでいつでも私は騎士を辞めてソルートンに行けますね!」
誰だか知らんが、多分ルナリアの勇者さんあたりだろ、と俺が言おうと思ったらラビコ、ロゼリィ、クロ、アプティ、ベス、サーズ姫様、ハイラと、この場にいる全員に総ツッコミを受けた。
え……俺、なんかしました……っけ?
じ、次章に続く……
『異世界転生したら犬のほうが強かったんだが 十三章』
異世界転生したらルナリアの勇者が現れたんだが ── 完 ──
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