第533話 クラリオVSラビコ=俺のルーインズウエポンがこんにちわ様




「せ、千里眼に神獣化!? そう言われるとダンジョンでの彼等の強さも納得出来るが……」



 ケルベロス地下迷宮を出た後、俺たちは救出したクラリオさんにお昼ご飯に誘われた。


 さて冒険者の国の料理はと期待していたら、肉の山盛り飯が出てきた。


 この国はパワー飯なのか……いや、さすがに冒険者センターの娘であるクラリオさんが用意してくれた高級お肉は美味しいぞ。それは本当にありがとうございます、なのだが、量が……ね。



 うーん、いますぐここに体育会系ガッツマンが五十人ほど異世界転生してこないだろうか。来てくれたら好きなだけ肉が食えるぞ。






「そうか……それはもはや空想物語に出てくる勇者ではないか……! 素晴らしい……私は幼少期、何度光の剣を持った勇者の物語を読んだことか……! あれが現実に……な、なぁ君! やはりこの国に留まって世界の人の憧れとなる勇者を演じて……」


「だ~からそれをやめろって言っただろうが!」


 俺の力の説明を受けたクラリオさんの目の色が変わり、興奮気味に迫ってくる。


 軽くキレたラビコが酒瓶をクラリオさんにゴツン。


「くく……い、痛いじゃないか……今のは冗談に決まっているだろう……」


「ウソつけ! ……ったく~、思い込んだら一直線なところは変わらないな~。いいかクラリオ~力を欲しがる人間ですらこういう行動を取るんだ。蒸気モンスターに目をつけられたらマズイって意味、理解出来るよな~」


 勇者、ね……俺にはそういう格好いい役は荷が重すぎだろ。


「……なるほど……確かに何かに利用しようと考えている人間、蒸気モンスター問わず、彼の能力が知れたら自分の物にしようと動く輩が多いだろうな。いや、すまなかった。約束しよう、この話は誰にも言わないと」


 クラリオさんが涙目で頭を抑え、俺に握手を求めてきた。


 え、俺? ラビコじゃなく?


「……誰にも言わないが、全くの別件で悪いが話を聞いてほしい。実は私ももう二十四でな……いい加減伴侶を見つけないとならいないんだ」


 は、伴侶? 


 クラリオさんがすげぇ握力で俺の手を握ってくるんだが……。


「この歳まで浮いた話もなし……いや、ここまで仕事一筋で来たせいもあるのだろうし、お見合いなんかも全て断っていたことで出会いを一方的に閉じていたのだろう。あとは……理想が高すぎたのかもしれない。どうも私は小さなころから勇者というものに憧れていてな。無意識にそれに近い男じゃなければ、と視野が狭くなっていたのかもしれない」


 え、何? あの、手、離して……いたた!


「別に男がいなくても冒険者センターの仕事は楽しいし、いいや。と思っていたのだが……くく……いるじゃないか……まるで絵本から飛び出して来たような男が……! な、なぁ君……金も権力もある年上のお姉さんは好きかい? くく、そう怖がるな……冒険者センターには君の個人情報のデータが全て揃っているって知っているかい? 逃げられ……ないよ?」


 ちょっ……! なに……この人急にドス黒い顔になってるんだけど! 


 個人情報を人質に取るのはヤメロ! 


 コ、コンプライアンス……! え、異世界にはそういう法令ないの? 



「話を聞いていたのかクソ爆破娘! そういうのをヤメロって言ったんだよ!」


 ラビコがマジ切れでクラリオさんに飛びかかる。


「だから別件だと言った! 彼の力の話は誰にもしない! 私が求めたのは将来の伴侶の話だ! 彼には今のところ特定の女はいないのだろ!? だったら私が持てるエサをちらつかせて誘ったって問題ないだろう!」


「てめぇ……! この男に手を出すんなら、本気で私と戦うことになると思え!」


 ああ、いい大人の女性二人が取っ組み合いになったのだが……ど、どうしよう……。


「にゃははは! いいぞもっとやれ! 揉めろ揉めろ! 見ろよキング、めっずらしくラビ姉が感情的になってンぞ!」


 猫耳フードのクロが大爆笑。


 あのクロさん、出来ましたら魔法の国のお姫様の立場を使って、ペルセフォス王国の国王と同権力を持つ大魔法使いラビコと、冒険者センター次期代表のクラリオさんの二人を止めてくれないですかね。


「ああ、し、下着が見えてますよ……」


 宿の娘ロゼリィがオロオロと言う。


 え、今なんて? 下着……ってよく見たらクラリオさんは露出の多いドレスだから、転がって取っ組み合いをすると、お、おパンツ様が見えているじゃないですか!!


 ……ああ、異世界の神よ、僕はいつも貴方様を心の底から信仰していますので、どうか画素数の高いカメラを今すぐ俺によこしやがれ。ロゼリィが持っているカメラはエロ用だと借りられないんだよ!


「……マスター、紅茶はまだでしょうか……」


 バニー娘アプティさんは興味なし。落ち着いて紅茶を所望されている。


「ベッス、ベッス……」


 愛犬ベス様は、取っ組み合って転がる二人を見て、チラチラと俺を見てくる。


 これはここに混ざって遊んでいい? の顔だな……。いや、混ざって止めてくれるならいいけど……。



「ラビコに先越されるのが許せないってんだ! 男に全く興味なかったくせに……気付いたら私が思う最高の勇者を連れてきやがって……! 自慢か!? 行き遅れている私への当て付けか! この……私だって早く結婚したいんだ……隣にいて優しく微笑みかけてくれる男が欲しいんだよ!」


「だったら金にものいわせて笑顔の男の銅像でも作って毎晩抱いてりゃいいだろ! たんに性欲満たしてぇなら他当たれ! たった一回会っただけで好きになるわけねぇだろ! 私は違うぞ、ず~~っと一緒にいて、見た目も性格も笑顔も声も全部本気であいつが好きなんだ! 絶対に邪魔させねぇ!」



 どうしよう、これ。


 二人共すっげぇ感情的なんだけど……。


 クロも言っていたが、ラビコがこんなになるの珍しいな。そういやダンジョンで私の元仲間を助けて欲しい、とか頭下げてきたが……。


 おそらくラビコにとって辛かったであろう蒸気モンスターとの長い戦いの旅を乗り越えた、本当に大事な信頼している友人なんだろう。


 じゃなきゃここまで感情表に出して本気になれないだろう……多分、きっと。


 本当は仲良しなんだよね?



 ……それはさておき……止めるにしても、もうちょっとクラリオさんのお美しい生のお尻様のラインを堪能してから……



「おい……なにを年増のケツで興奮してんだよクソ童貞! 露出の多さならいつも水着の私だろうが!」


 おごっ……! しゃがんで低い姿勢からの紳士の深い思慮ポーズでクラリオさんのお尻様を眺めていたら、ラビコが俺に飛びかかってきたぞ……や、やめろ!


 つかクラリオさんのこと年増とか悪く言いすぎだ!



「いてて、こ、興奮なんてしてないっての!」


「……じゃあなんだよこの下半身は~! おりゃあああああ!」


 なんとか興奮状態のラビコを抑えようとしたが、なぜか下半身から心地よき冒険者の風が。



「う、うわ……す、すご……へ、へぇ……こうなっているのか……な、生で初めて見た」


 取っ組み合いをしていたクラリオさんが真っ赤な顔で俺を見てくる。なぜか視線は下半身だけど。


 あれ、ロゼリィとクロもクラリオさんと同じ顔してんぞ。


 アプティは無表情で頷きながら凝視。



「…………う、うわあああああああ! な、なにすんだラビコ……!」


「ほら見ろ~! 大興奮状態じゃないか~!」


 よく見るまでもなく、俺の股間のルーインズウエポンがこんにちわ。



 すごいな、俺の自前のルーインズウエポンは『女性の喧嘩を瞬時に止められる能力』がSSランクで効果バツグンらしいぞ。




 ……この後露出マンとして捕まらなければ、次話も紳士諸君に会えるだろうか──











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