第490話 お姫様お姫様お姫様 1 子供向け体験型騎士教室の特別臨時講師様




「ぼくねーおおきくなったらきしになゆんだー」


「大丈夫、コウくんなら必ずなれるわよ、ふふ」



 ペルセフォス王国主催「体験型騎士教室」ソルートン会場。




 王都から現役の騎士が来てくれるという、不定期開催ではあるが人気のイベントだそうだ。


 タイミングが良ければ有名だったり人気のある騎士が来てくれ、王都から遠い地方に住んでいる人にとっては名のある騎士を間近で見れるまたとないチャンス。


 順番にペルセフォス国内各地を巡るらしく、次はこのソルートンという東の外れにある港街で開催されるということらしい。


 しかし問題なのが、子供用、子供向けという文言。



 冒険者センターの張り紙で体験型騎士教室が近々あると知ってから、俺は170センチ以上あるこの体を、どうにか子供に見せることは出来ないか、と奮闘してみた。


 ジャージの上着にしゃがんで入り、ちょっと体つきがこんもりしていて異様だけどどこにでもいる普通の子供、を試してみたが、水着魔女ラビコに爆笑されながら後ろから蹴られ転がったり。


 猫耳フードをかぶったクロ先生アドバイスの膝立ちで身長を下げたふうに見せるもやってみたが、その状態で歩こうとしたら膝が痛くて数歩でギブアップ。


 そんな俺の無駄な努力を見るに見かねた宿の娘ロゼリィが冒険者センターまで走ってくれ、わざわざ職員さんに詳しい話を聞いてきてくれた。


 職員さんが言うに、会場に用意する席のほとんどがもうすでに子供を持つ親からの予約でいっぱいになっている、と。


 しかし立ち見席と言われる、会場の後ろの方は子供じゃなくても参加していいんだとか。


 なんだよ、子供偽装しないでこのまま参加出来るんかい。


 最終手段として愛犬ベスに子供服着せて、抱っこしながら保護者枠で参加しようかと思っていたんだぞ。


 ラビコが終始俺の奮闘ぶりを大爆笑しながら見ていたが、あいつ絶対誰でも参加出来ること知ってて黙ってたろ。クロも。



 なんでそこまで子供向け教室に参加しようとしているんだって? 


 あのな、俺はペルセフォス王都で短期間ではあるが実際に騎士学校に通い、マジで魔法技術を学んだんだぞ。


 で、そこで分かったのが、俺にはレベルが高すぎて理解不能だったってこと。


 そりゃあ世界でトップレベルと言われるペルセフォス王都の騎士学校の授業だからな、当然授業内容もトップレベル。うん、俺には難しすぎて無理でした。


 しかし、今回のは「子供向け」。これ大事。


 ようするに、子供でも分かるレベルで楽しく学べる魔法教室が開かれる。さすがに子供向けなら、大きなお兄さんである俺は余裕で理解出来るだろ。


 つまりその日が異世界で夢見ていた、魔法使い俺、爆誕記念日になるのさ。俺を祝い、この日を世界の祝日に指定してくれても構わないレベルだ。


 ……才能が無ければ、いくら努力をしても無駄? それは……言うな。



 無駄だと諦めふて寝するよりも、夢を追い求め努力を継続する少年、を選ぶね、俺は。


 だって魔法使いたいし。






 数日後、ついに子供向け体験型騎士教室当日。


 ソルートンの中心部にある冒険者センターがある建物、そこの大きめの部屋が会場となっている。


 剣士系、遠距離武器系、魔法系に部屋が別れていて、俺は迷わず魔法系の部屋を選択。


 朝九時開始なのだが、俺は二時間前の七時から冒険者センターに並び小さな子供達に紛れ入室。


 さすがに王都から有名な騎士が来るということで、朝からソルートン中が騒がしい感じだった。


 昨日の夕方には王都から担当の騎士達が到着していたらしく、その騎士達が泊まった高級ホテル周辺は異常なまでの数の警備の騎士で溢れていたらしい。


 よく分からんが、そこまで警備が必要なほどの有名な騎士が来るんだろうな。期待が高まるぜ。



 部屋の前の方は子供達とその保護者が座っていて、半分から後ろが立ち見席となっている。なんとか立ち見席の一番前を取れたが、出来たら子供を押しのけて一番前に行きたいところだ。



「……体験型騎士教室……あれ、そういや……水の国オーズレイクでこのワード聞いたような……」


 もう少しで教室が始まるのだが、そこで俺がふと思い出す。


 みんなで水の国オーズレイクに行ったとき、島王都に渡る橋のところでその国の騎士だという女性と男性と話したな。


 確かリリエル=サイスさんとアルルシス=サイスさんという姉弟騎士。そこでリリエル=サイスさんから弟のメラノスがどうとか……それに対してラビコがメラノスなら国内の街を巡っての体験型騎士教室の講師も全てこなしていたとかなんとか……。


 メラノス=サイス。初めて王都ペルセフォスに行ったとき、今年のウェントスリッターを決めるレースで一番人気だった男。


 レースではハイラをわざとリタイアさせようとルール違反をしてきた野郎だ。



「……もしかしてそのメラノスが講師として来る、のか?」


 やべぇ、俺あいつの授業なら受けたくないぞ……。まぁ、違反を反省しその後真面目になったらしいけど……うーん、俺はどんな顔で会えばいいんだ。


 でも街の人が驚くレベルの警備が敷かれるほどの格か? あいつ。




「はい、お待たせいたしました。司会のお姉さんですよー。みなさん元気ですかー」


「はーい」

「げんきぃ!」


 色々考えていたら体験型教室が始まったらしく、ペルセフォスの騎士の服を着たお姉さんが入ってきた。知らない女性だな。子供達が元気に吼える。



 その後、講師として何人かの男性だったり、女性だったりの騎士が入ってきたが、メラノスはいなかった。


 次はメラノスが来るのかも、と何か別の意味で緊張していたから、教室の授業内容が全く頭に入ってこなかったんだが。





「はい、ではここからは特別臨時講師をお呼びしますよー。みんな驚く準備はいいー? ペルセフォス国内で知らない人はいないあのお方がなんと今回、特別に来てくれているのです!」


 司会のお姉さんが急に興奮しだし、部屋内にいる警備の騎士達の視線が鋭くなる。


 な、なんだ……もしかしてメラノスって実は結構人気の騎士だったりすんのか!?



「おっと、すごい紹介だな。今現在そこまでではないと思うが、いつか実績を上げ、国内で知らない人はいないという人物になれるよう日々精進していこう」



 紹介された女性騎士が入ってくると、司会のお姉さん、講師の騎士、警備の騎士達が身を正し敬礼。


 前列にいる子供達や保護者の方が口をポカンと開け、その女性騎士を見ている。



「元気かな、ソルートンの子供達。私はペルセフォス王国第二王女、サーズ=ペルセフォス。今日は楽しく分かりやすく、魔法というものを解説していこうと思う」



「おかーさんおひめさまだー」

「ほんものー? きれーなおねーさんー」


「……あ、頭を下げなさいコウくん! サーズ様の前よ!」

「おおおおおお! 本物、本物のサーズ様だ! こんな外れの港街に王族様が……!」


 部屋内の子供と大人が大騒ぎ。その騒ぎを聞きつけ、部屋の外にも人が大勢集まってくる始末。



「…………ファ……」

 

 いや、俺だって驚きで声が出ない。


 な、なんでサーズ姫様がこんなところに……。



 見間違うはずがない、本物のサーズ姫様がソルートンにいるぞ……。














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