第472話 水の国オーズレイク 8 イベントを見る場所と水着必須? 様




「どったの社長~?」


「あ、い、いや何でもない……」



 初めて来た水の国オーズレイク。


 それなのにこの既視感は何だ……。



 いや、噴水がある公園の北側にパン屋がある立地なんてそう珍しくはない。


 多分、日本のどこかで見た景色と重ねてしまったんだろう。


 水着魔女ラビコが不思議そうに覗き込んできたが、わざわざ相談するような内容でもないし適当に誤魔化しお昼にした。




 商売人アンリーナと猫耳フードのクロがそのパン屋まで行ってくれ、噴水周りのベンチに座りパンをいただく。


 そのパン屋で一番人気だという、近海で取れた新鮮な海老やら貝などを焼いた物が入ったやつを食べたが普通に美味かった。


 もちろん突き刺さっていた棒は引き抜いて食ったがね。




「それで、アンリーナが見たいっていうイベントはいつあるんだ?」


 既視感については後で考えるとして、せっかく気分転換目的で観光に来たんだ、今日あるっていうイベントを楽しもう。


 公園内には臨時で出来たっぽい屋台がズラリと並びお客さんで混雑しているが、もしかしてもうイベントは始まっているのか? 


 確か以前聞いた話では花火がどうとか言っていたから夜なのかな。



「はい師匠、水の国オーズレイクが国を挙げて行うイベント『ナイアシュート』はこの後夜十九時からになります。それでその……見る場所はどちらを希望されますか?」


 まぁ花火ってんだから夜だわな。


 え、どちら? なんか見やすい場所候補があるのか?


「観覧イベントが開かれる会場は今いる灯台下公園になるのですが、湖に近ければどこだろうと見ることは出来ます。そしてここだと、ダイナミックさを味わうには最高なのですが、かなり濡れる……ことになりまして……」


 花火なのに濡れる……? 


 よく分からんが、水をかぶるってことか?



 濡れる……ふむ、それはあれか、イベントによって女性陣の服が濡れてしまい、紳士の心を持つ俺には全く興味が湧かないのだが、女性の皆様のエロい下着なんかが透けて見えてしまうというエロゲーお約束イベントってやつでしょうか。


 ふふっ……そんな使い古された前世紀のイベント程度じゃあ、百戦錬磨童貞である俺の心にはチリンとも響かないのさ。



「イベントのダイナミックさを肌で感じることは出来ませんが、泊まっているホテルのお部屋からだと混雑を気にせず、突如師匠の興奮が抑えきれなくなりましても、すぐに愛する二人はムーディーに抱き合うことが出来……」


「ここで見よう。なぁアンリーナ、君はこのイベントが見たくてオーズレイクまで来た、そうだろう。何かの計画の参考にしたいと言っていたが、そんな遠くから安全に見て本当にナイアシュートというイベントを満喫したと言えるだろうか。否、現地に来てこの体に刻むことでしか分からないこともある。アンリーナ、君がお仕事で世界を巡っているのはなぜだ。現地に行き、現地の空気を吸い、現地の人と直接話すことでしか分からないことがあるからだろう。遠く離れた場所から机上の紙に書かれた数字を見て判断? そんなのは三流以下の人間がやることだ」


 アンリーナの言葉を遮り、俺は自前の超紳士論を語る。


 アンリーナは目を見開き聞いているが、後ろにいる水着魔女ラビコは「あ~あ、ま~た始まったよ。はいはい……濡れて透けて見える私達の下着が見たいのね~」と言い、ヤレヤレ顔。


 ……ラビコさんよ、あなたは俺の心が読めるのか。



「そ、そうでしたわ……! 申し訳ありません師匠……このアンリーナ、初心を忘れ、イベントを遠くから楽に見ることで済まそうとしていましたわ……現地におもむき皆様と顔を合わせ信頼を築くという商売の基本を忘れ私は……!」


 おお、さすがアンリーナ。


 君は汚れちまったラビコさんとは違い、なんて素直で良い子なんだ。


 俺は手で顔を覆いうずくまってしまったアンリーナの頭を優しく撫でる。



「大丈夫、君は自分の間違いに気付いた。俺と一緒にやり直そう、さぁ立つんだアンリーナ」


「は、はい師匠……! 私の身も心も、全て師匠の物なのですわ……! もうここで構いません……二人の愛のロマンスを皆様にお見せいたしましょう!」



「はいは~い、面白劇団終了~。なんで最後ここでやる話になってんのさ~。ほらほら、さっさと水着買いに行こ~」


 俺とアンリーナが見つめ合い、アンリーナの左手が俺の股間に伸びてきたところで水着魔女ラビコがその手をつかみ、二人の愛を引き離す。


 なんでアンリーナの手が俺の股間に伸びて……え、水着? なるほど! 最初から水着なら濡れてもいいもんな! 


 ロゼリィの水着姿を見たい、とっても見たい!



「……ちぃ……もうちょっとでしたのに……。分かりました、ではここでイベントを見るということで、対策として濡れてもいい羽織る服と水着を用意いたしましょう」


 ラビコの提案に舌打ちしつつ、アンリーナが島王都の城下街方面を指す。




 濡れる、というのがどういうことなのかさっぱり分からないが、女性陣の水着姿が見れるのならなんでもOK。


 お金も俺が出すから、ぜひエロい感じのをお願いします。













  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る