第471話 水の国オーズレイク 7 島王都のドックと記憶にある灯台下公園様




「ここが島王都か。確かにこっち側の建物は古いものが多いな」



 この国の騎士、リリエル=サイスさん、アルルシス=サイスさん達と別れ、俺達は橋を越え島王都へと渡ってきた。


 しかし、まさかこんなところでメラノスのご兄弟と出会うとは思わなかった。一族全員がどこかしらの国の騎士をやっているってすごいよな。



 途中、橋の真ん中辺りにあるセントラルラウンドを見たが、本当にちょっとした街だった。


 真ん中に噴水が置かれ、壁にそってお土産屋さんが立ち並び見ていて楽しかった。棒に突き刺さったハンバーガー、棒に突き刺さった焼いた肉、棒に突き刺さった果物とかが売っていて、みんな当たり前に手に持ち食らいついていたな。


 のんびりと湖の風を感じながら橋を渡り、対岸王都から島王都へ。





「正面の小高いとこに見えるのがオーズレイク城で~、左側に見えるのが船を作っているドックだね~。その向こうに見えるのがオーズレイクで有名な巨大灯台~っと」


 水着魔女ラビコが指差しで説明してくれたが、正面には城下街があり、対岸王都に負けないぐらいの人の多さ。


 その向こう、小高い山みたいになっているところにお城が建っていて、これがまたでかく、遠くから分かるぐらい美術的な装飾がすごい。大国と言われるに相応しい規模と金の掛かりよう。


 そしてドック。おお、あるある、作っている最中の巨大な船がずらりと並んでいるなぁ。男にはたまらん景色。


 ドックには港も併設されていて、何やら物々しい装備を積んだ軍艦らしきがズラリ。


 さすが造船で有名な国ってか。



「せっかくだから船が見たいな。ドックに行こうぜ」


「お任せ下さい師匠。我がローズ=ハイドランジェが所有する船は全てここで作られた物なのです。皆様ご存知、グラナロトソナスⅡ号もここで誕生いたしました! 積んでいるメインキャノンは現在オーズレイク海軍が誇る旗艦オーズルミエールと同様の最新魔晶石砲となっていまして、いつか師匠のお心を撃ち抜きたい想いを込め積んだ物でして……」


 俺の言葉にアンリーナがまた演技がかった身振り付きで演説を始めたが、メインキャノンを積んだ云々の由来は嘘だろ。


 俺その頃まだ異世界にいなかったし。



「……なので、二人の挙式のときには最初の共同作業として愛の号砲を上げ……」


 アンリーナの大げさな身振りで繰り広げられる愛をテーマにしたっぽい一人劇団が続いているが、周りの観光客が何かの見世物かと思って集まってきたぞ。


 手前に箱置けば、お昼代ぐらいは稼げそうな勢い。






「うっわ……軍港だな、こりゃ」



 劇団アンリーナは観光客に惜しまれつつ、二分という短時間で男女が熱い抱擁と口づけを交わすシーンまでいったので終演を迎えさせた。


 その先の夜のロマンスまで一人で演じようと興奮気味だったアンリーナの手を引っ張りドック方面へ。



「ま~オーズレイクは海軍が半端ないからね~。規模も技術も世界一で~アンリーナの会社ローズ=ハイドランジェが船の依頼をするぐらいのところ、かな~」


 島内の街道を歩き西方向にあるオーズレイクが誇るドックへ来たが、ラビコが言う世界一のってのが頷ける規模。


 整備された軍艦が並び、いつでも出港できそうな雰囲気。


 港のあちらこちらに巨大な固定砲台があり、軍艦と砲台で守りは万全といった感じ。


「す、すごいですね……別世界に来たみたいです……」


 宿の娘ロゼリィが口をポカンと開けて言うが、確かに宿の娘として育っていたら見ない景色だわな。


 ソルートンも港はあるのだが、あそこは漁船と貨物船、観光用フェリーが行き交う漁港&商港で軍港ではないからな。


「……鉄と油の香りがすごいです……」


 今は耳無しバニー娘アプティが無表情ながら不機嫌そうに言う。まぁアプティが好む紅茶の香りとは正反対な香りだわな。


「相変わらずここはすっげぇな。海の支配者って感じだぜ。キングも軍艦一隻買ってみたらどうよ、パーティー専用船なんて最高じゃね?」


 猫耳フードかぶったクロが金ならあんだろ? 的に言ってくるが、いや、軍艦って一夜成金程度じゃ買えないレベルだろ。


 本体値段しかり、維持費とか諸々さ。


 小さな漁船かプレジャーボートですら俺程度の所持金じゃきつそう。でもまぁ憧れはするが。


 ゲーム中盤で手に入れる船とか、一気に行ける範囲が増えてワクワク感最高なんだよな。



「船かぁ……」


「いけませんわ師匠。真面目なお話、軍艦は維持にかかる費用は相当なものです」


 大型高速魔晶船所持者であるアンリーナが苦言。

 

 ほら、さすがに常識的に考えて無理だよな。


「あ……も、もしかしてそれは師匠の愛の演出、でしょうか! 分かります、分かりますわ師匠! 師匠がお住みになられている場所は賑わう宿屋の一室、確かにそこはムーディーとは言いにくい環境。愛する二人が周りを気にぜず行為に没頭出来る空間としての船……! なるほど……それは素晴らしい、最高の提案ですわ! 分かりました、今すぐ我がグラナロトソナスⅡ号の一室に巨大なベッドを置き、愛の防音&ムーディー加工をいたしまして……! ……!」


 苦言から一転、何事かひらめいたらしいアンリーナが大興奮でガリガリとメモ帳に書き込み始める。


 なんだよそのエロ専用部屋としての船って考えは。


 思考が金持ち過ぎんだろアンリーナ……。いや、実際に本物の金持ちだけどさ、アンリーナは。



 さすがに軍港は観光で来て女性陣と長居する場所じゃないよな。俺はいつまででも見ていられそうだけど。




 興奮するアンリーナを抑え、ドックの隣にある巨大な灯台へ向かう。


 灯台の周りが広大な公園になっていて、島王都に来た観光客は必ず寄る場所だそうだ。




「うわーすっごい綺麗です。視界全部が湖になってしまいます」


 通称、灯台下公園と言われているらしい公園に到着。


 ロゼリィが笑顔で言う。


 広大な公園にも関わらず、花壇に樹木の整備がきちんと行き届いていてとても綺麗。


 湖が一望出来る広場の真ん中にでかい噴水があったので、そこの木のベンチに腰掛ける。



「この環境はすごいな。この景色なら水の国オーズレイクに来たって感じだぜ」


 目の前に広がる広大な湖。今日は晴れているので遠くまで見渡せる。


「湖の向こう、海の手前にも街があるんだな」


 遥か向こう、湖と海の境目のところに街が見える。


「ああ、あそこは湖から海に出る為に人工的に作られた運河になっていて~南北に別れた街になっているのさ~。カナリスポートっていう、あそこも大きな街で見応えはあるよ~」


 ラビコが俺の右隣に座り答えてくれた。


 ほう、運河の街ですか。それも面白そうですな。



「もうすぐお昼か。なんか屋台がいっぱい並んでいるから、そこで買ってご飯にしようか」


 公園の中には臨時で作られたような屋台がいっぱい並んでいて、かなり賑わっている。


 時刻は午前十一時過ぎ、ちょっと早いがお昼にしようか。



「今夜ナイアシュートが行われるからね~それ目当てで作られた屋台さ~。でもあれだよ~また棒に付き刺さった系だよ~あっはは~」


 へぇ、イベントとやらは今夜行われるのか。


 そしてラビコがニヤニヤしながら見てくるが、そうか……そういやここってそれ系のご飯が多いんだっけ……。


 さすがにまた顔汚しながら食うのは面倒だな。



「ああそうだ、そういやこの公園の近くにパン屋があってさ、美味かった……気が……」



「ん~? 確かに公園の北側にパン屋はあるけど~なんで社長知ってるの~? 初めて来たんだよね~」


 言っていて気付き、自分が変なこと口走ったと手で口を塞ぐ。



 そう、ラビコが言うように俺はこの国には初めて来た。


 当然この公園にも初めて来た。


 どこに何があるかなんて知らない。


 観光マップを見た記憶も無いし、なんで俺は近くにパン屋があるって思ったんだ?




 この街は湖に浮かぶように出来ていて、湖は海にも繋がっている。噴水が湧き上がる公園があり、俺はそこで誰かを待って……何だこの記憶……俺、この公園を知っている……ぞ……。














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