第449話 エデンからの脱出 9 帰ろうソルートンへ様




「エデンが……ここが俺のエデンなんだよ……! 離してくれっ……!」



「うるせぇ、黙れ万年童貞。さっさとこの島から出るんだよ」




 なんとか火の種族であるアインエッセリオさんと水の種族である銀の妖狐を説得し、俺とベスの力が他の蒸気モンスターに知られたわけではないと分かったのでソルートンに帰っても大丈夫だろう、となった。



 なったのだが、まだ人間の文化に慣れていないメイド二十人衆や、島で暮らす他の蒸気モンスターのみんなが急に名残り惜しくなりもう少し島にいてもいいかな、と思ったんだがなぜかラビコの拘束魔法で手足を縛り上げられてしまった。




「せめて一回だけ部屋に戻らせてくれ……! そんで十分間ぐらい一人にさせてくれもごごー!」


「はぁ? 何言ってんだか意味分かんねーっての。これ以上話をややこしくすんな! 帰るったら帰るんだよ!」


 この島に銀の妖狐が作ってくれたソルートンの俺の部屋にそっくりな部屋があって、そこにエロ本が一冊あるんだ……あれを最後に確認したい、と血涙を流して抵抗してみたんだが、怒りモードのラビコの手で問答無用で口を塞がれた。


 くそっ……こんなことなら格好つけずに初日に欲のままに自由にエロ本を見ておくべきだった。



 そういやこの異世界には画像加工ソフトなんてないもんな。


 ってことは売っているエロ本は無加工で全てが見えている可能性が大。


 いや、画像加工ソフトが無くてもアナログで加工は出来るか。


 ああもう、そういう疑問を全て綺麗さっぱり解決するためにも俺を一度部屋に戻してくれ……。


 ソルートンの俺の部屋に飾ってあるエロ本はロゼリィの封印があって絶対に見れないけど、ここのエロ本はノー封印でフリーダムだった。


 今ここでこのチャンスを逃したらもう一生エロ本を見れないかもしれないんだ……頼むラビコ、俺を見逃してくれ。



「……帰りましょう、マスター。結婚はどこでも出来ますから大丈夫です」


 銀の妖狐の横にいたバニー娘アプティがゆっくり歩き、ラビコの拘束魔法の光の帯で芋虫みたいになって転がっている俺をお姫様抱っこで持ち上げる。


 それを見た愛犬ベスが楽しそうに俺の腹に乗っかってきた。


 ああそうか、この島に来るときもこんな感じだったのかな。



 くっ……どう体をひねってもアプティの腕力からは逃げられそうにない……な。


 さらば、まだ見ぬエロ本。


 もしまたこの島に来たら、迷うこと無く一番に読むことをここに誓う。



「さっきから結婚とか何の話なんだか。一応確認しておくけど、アプティはここには残らない、でいいんだね」


 ラビコがちょっと怖い目でアプティを睨む。



 アプティの正体が蒸気モンスターというのは俺とラビコはすでに知っている。

 

 だがアプティが銀の妖狐の妹だったというのはラビコは知らない。


 つか知ったらどういう反応になるのか、恐ろしくて言えねぇ。


 さっきからアプティが普通に銀の妖狐の横にいたりするし、それを見てアプティがこの島の住人なんだろうとラビコは予想したのだろう。



「もちろん、それは今まで通りさ。さぁ行っておいで、僕の大事な彼を守るのにあの魔女程度では不安で不安で仕方がないからね、ふふ」


「てめぇ……」


 ラビコの問いに銀の妖狐がニヤニヤしながら答えるが、喧嘩売る感じはやめようぜ……。



「……はい、アージェンゾロ様。ですが、私だけでは守れない部分もあります……なので、マスターを守ろうと心から想っている協力者がいるのは、とても心強い、です」


 睨み合うラビコと銀の妖狐を無表情に見つめ、アプティがぼそっと呟く。


 そっか、アプティもラビコのことは仲間だと認めていたのか。


 うん、いい子だアプティ。今は手足拘束されてるから頭撫でられねぇけど。



「そう……うん、そうだね。ふふ、エルエルヴィを君のところに行かせてよかったよ。この島にいたときとは比べ物にならないぐらい心が成長している。言われたまま動くのではなく、自ら判断出来るようになったんだね。ふふ、嬉しいなぁ……君と一緒にいればもっと成長して、いつかは僕を継いで種族のリーダーになってくれそうだなぁ。うん、僕も負けていられないね、もっと、今以上に君に絡んでいって僕もぐぐっと大きく……」


「……マスターは私と結婚なのです。例えアージェンゾロ様であろうと、譲れません……」


 なんか良いこと言って感動の涙を流しながら銀の妖狐が俺に近付いてくるが、アプティが睨み牽制。


 おお……キモいお兄様を視線一発で止めたぞ。


 す、すげぇよアプティさん!



「ほっほ、確かに王とずっと一緒にいれば強くなれそうな気がするのぅ。王の元にわらわのグループ全員を連れてきたいところだが……王には待って欲しいと言われているから、ここは我慢かのぅ」


 火の種族のアインエッセリオさんが餌をお預けされた犬のようにしているが、グループとやらに何人いるか知らないが、それはやめて下さい……。


「これで恐れていたキツネが王を独占する事態は防げた。仲間達に報告もせねばならんので、ここで一回帰るとするかのぅ。落ち着いたらまた王の元に挨拶に訪れたいと思う」


 そう言うとアインエッセリオさんが視界から消え、海の上を走り沖の方に行ってしまった。




「……つくづく社長って不思議な人だよね。人間だけでなく、蒸気モンスターの強者ですら集まってくる。本当に世界を変えてしまう存在になってしまいそうだなぁ……最初はただのエロ少年だったのにって、それは今も同じか。うん、変わってないね、社長はいつだって社長だった。あっはは。さ、事の締めに社長のありがたいお言葉をいただこうかなぁ~」


 走り去るアインエッセリオさんを目で追っていたラビコが小声で何か言い、やっといつもの笑顔に戻り俺を見てきた。


 前半は声が小さくて聞き取れなかったが、後半の締めがなんたらは聞こえた。


 締めってもな……。



「……マスター、ご命令を」


 俺をお姫様抱っこしているアプティも無表情な視線を送ってくる。



「はぁ……ま、色々あったけど、やっぱ俺の家はソルートンのジゼリィ=アゼリィなんだよな。今もこれからもずっと、それは変わらないと思う。その……俺を守ろうと動いてくれてありがとうな、アプティ。そしてラビコも、こんなところまで迎えに来てくれて嬉しかったよ。そして心配もかけてしまった。ごめんな。ソルートンに帰っても大丈夫なら、俺は帰る。いくぞアプティ、ラビコ。いざソルートンへ! 俺について来い!」


 俺は手足を拘束されたままなので、芋虫がうごめくように体を使ってソルートンの方角を見る。


「手足拘束されて、アプティにお姫様抱っこされた状態でついて来いとか言われてもねぇ……社長は言う内容と状況を合わせてくれたら格好いいと思うんだけど~。ま、それが私の社長か、あいよ、帰ろっかソルートンに」


「……了解いたしました。結婚なので、生涯マスターについていきます」


 あれ、結構格好いいセリフ言ったつもりなんだけど、ラビコがやれやれ顔なんだけど。


 あとアプティの結婚ってやつ、放っておいて大丈夫なやつなんだろうか。



「またおいで。僕等はずっと君の帰ってくる場所を守るよ。次までにはもっと君が満足出来るようにしておくからね。本屋とか、ふふ」


「ご主人様ー! また絶対に来て下さいよー! 今度はもっと綺麗な指輪あげますからー!」


「ああ、残念です……お部屋の管理はお任せ下さい。その……お早いお帰りをお待ちしております、ご主人様」


 銀の妖狐、短髪元気娘ドロシー、メイドリーダーのアーデルニさんが俺に声をかけてくれた。



 多少後ろ髪を引かれる思いだが、また会えるさ、きっと。



 次もし来れたら、アーデルニさん達が綺麗に保っていてくれた部屋を満足顔で見て、ドロシーのもっと綺麗なガラスの指輪付けて、ウッキウキで新たに出来るであろう紳士の本屋へ行こう。


 うん、楽しみだぞ。


 そこに銀の妖狐がいなければ最高の場所だな。




「さっきから気になってたけどさ、指輪って何。あとアプティの結婚とか」


 ラビコがニッコニコ笑顔で近付いてくるが、そのへんは俺のひと夏の孤島での秘密のアバンチュールってことにしておいて……くれない雰囲気?


「アプティ、ダッシュだ! 説明めんどいからラビコを振り切るぞ!」


「……お任せ下さい、マスター」


「あ、逃げんな! こんな短期間で結婚だの指輪だのどういうことなのか説明しろっての!」


 アプティの目が紅く光り、足のごつい武具が怪しく光る。


 次の瞬間俺の体に横Gが一気にかかり、気が付いたら海上をアプティが跳ねるように走っていた。


 なるほど、こうやって海を走ってこの島まできたのか。ベス、落ちるなよ。



「待てこの浮気男! ここらで一回シメとかないと、種族すら越えて各地で女作りそうだし~!」


 後ろからラビコがものすごい勢いで飛んで追いかけてくるが、なんかこういうのも懐かしい感じ。




 俺はラビコの後ろの、小さくなりつつある島で手を振ってくれているメイド二十人衆や銀の妖狐に視線を送り、小さな声で「またな」と呟いた。












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