第446話 エデンからの脱出 6 それぞれの思惑と第三者の意見様
「王の力が他の種族に知られた? はて、何を言っておるのかのぅ」
俺がラビコの涙に誓い決意し、愛犬ベスの力を借りようと構えたが、火の種族の蒸気モンスターであるアインエッセリオさんが首を傾げ不思議そうな顔。
「あー……あのさ、それバラしたらここまで積み上げた僕と彼の初めての共同生活計画がパァになるんだよねぇ」
そして銀の妖狐がアインエッセリオさんの発言に大きく溜息。
俺はこの二人とも戦う決意で構えたのだが、なんだろう二人のこの反応。
二人に戦闘の意思はなさそうだし、ベスの頭を撫で待機を伝える。
「アインエッセリオさん、それはどういうことか詳しく聞いてもいいでしょうか。ああ、その間アーゾロ君は黙っているように」
俺は発言の意味を聞こうとアインエッセリオさんに話しかける。
と同時に、どうも良からぬことを考えていたっぽい銀の妖狐に警告の意味を込めて軽く睨んでおく。
「ほっほ、これはわらわの一人勝ちってやつかのぅ。王がわらわを求めておる……よいぞ、存分に心と身体に満足的快感を……」
アインエッセリオさんが眠そうな目でニヤと笑い俺にピッタリくっついてくるが、今はそういう冗談に付き合える心の余裕はないんですが。
「おや、王はこの手の話にすぐ乗ってくると思っていたが……なかなか身持ちが固いのかのぅ。そなた等、人の命は短い。ときに欲のままに動くことも後悔の無い生き方と思うが、ここは王の要求に従おう」
いや、普段の俺ならそういうのに激弱っすよ。
でも今はラビコを泣かせてしまった状況。思考が完全に真面目紳士です。
「詳しくも何も……と、ほっほ、そうか……キツネの魂胆が分かってしまったかのぅ。わらわの行動を利用しおったな? さすがキツネ、汚いのぅ……過去ずっと存在自体が苦手だったが、今後もずっと変わらず苦手な奴でいけそうで逆に安心かのぅ、ほっほ」
「ふふ、君等が何も考えずに行動し過ぎなんだよ。その頭は何のためについているんだい? 過去にやりすぎて粛清されたり、もうちょっと頭を使って欲しいものだね、火の一派には。これは僕が優しいから言うアドバイスなんだからね? じゃないと彼に嫌われてしまうよ? ふふっ」
二人がほっほ、ふふっと不気味な笑みで睨み合う。
「小賢しい行動がバレて王の怒りが落ちそうなのは、キツネのほうかと思うがのぅ。わらわ達は今動けぬ同族の彼等とは違う、そしてわらわは最初から真っ直ぐな気持ちを王に伝えてきた。偽りのないこの想いは確実に王の心に届いたはず」
いまいちこの二人の言っていることが理解出来ないが、まさに火と水、相容れぬ関係っぽい。
「キツネが自爆した今この時がわらわのチャンスかのぅ。王よ聞いて欲しい、わらわは嘘など言わない。この通り、わらわは王に忠誠を誓う」
そうアインエッセリオさんが言い、片膝を付き俺の手を取り柔らかな唇を押し当ててきた。
「…………マスター」
俺が状況を理解出来ず驚いていると、今までおとなしく過程を見守っていたバニー娘アプティが無表情ながら超不満そうな視線を俺に突き刺してくる。
俺なんもしていないって……。
「王よ安心して欲しい。王の力は他の種族には知られていない。あの戦いを見ていたのは近くにいたわらわだけ。もし他の種族に知られていたら、王の答えを待つなどとのんびりはしないかのぅ。王もあの土地で感じたはず、忌まわしき白き炎を。あれが放つ膨大なジャマーがわらわ達の活動をひどく邪魔してくる。あの土地ではわらわ達は魔力感知が鈍り、判断能力も落ち、油断すると眠気が体を支配してしまう」
デゼルケーノの白炎か。
そういやアプティがモロに影響受けていたよな。蒸気モンスターには結構きっついやつだったのか。
「白炎の妨害のおかげで、王の力のことを知っているのは近くで見ていたわらわだけ。だからわらわが直接王に会いにきたというわけかのぅ」
アインエッセリオさんの話、どうも嘘はないように感じる。
そしてこれを信じるのなら、俺はソルートンに帰っても大丈夫ってやつなんじゃ。
「さて……では僕は温泉で夜空の星の光を楽しむことにしようかな」
「おい待てアーゾロ」
銀の妖狐がそそくさと逃げようとしやがったってことは、この話、本当っぽいな。
「あ、もしかして今夜も一緒に温泉に入ってくれるのかい? そう、そうだよね、男同士裸で語り合うことが僕らの信頼をより強固に……」
「お前……これ全部知ってた上で、不安を煽るような言い回しで俺を丸め込みやがったな?」
君の力に気が付いた者が他にもいるかもしれない。そいつらが俺を求めソルートンに襲いかかってくるかもしれない。そして気付かれた以上、俺がいるソルートンは継続的に狙われることになるかもしれない風な感じで煽ってきていたよな。
それに俺も納得してしまったのもあるが、どう考えても弱みに付け込まれた感じがするぞ。
「まさか、僕は神じゃあるまいし全知の存在じゃないよ。火の彼女が君のところに来たことを踏まえ、最悪のケースを考えて行動したに過ぎないし、大事な君を守ろうとしたことは本当だよ。そこは……分かって欲しいな」
だからなぜ最後あたりで体をキモくくねらせるのか。
アインエッセリオさんが来たことを伝えたのはアプティみたいだし、そのアプティの相談を受けて銀の妖狐が行動したんだっけ。
蒸気モンスターは他の種族とはほぼ繋がりないみたいだし、アインエッセリオさんがどういう行動をするか読めないから俺を島に連れてきた、と。
うーん、でもデゼルケーノの白炎のことを銀の妖狐が知らないはずないし、アインエッセリオさんが言った、近くで見ていないと気が付かない、も分かっているだろうし……いや、アインエッセリオさん以外に見ていた蒸気モンスターの可能性を考えて……ああ! もう分かんねぇ!
「さぁ王よ、一人勝ちのわらわと共に行こう」
「ね、機嫌を直して欲しいな。この島には君が必要なんだ。仲間達も君を好いているし、基本ここで暮らして、ソルートンにはたまに帰ればいいじゃないか」
アインエッセリオさんと銀の妖狐が迫ってくるが、ここは第三者の意見を聞くべきか。
ってラビコには聞ける雰囲気じゃないし、銀の妖狐はバツ、アインエッセリオさんもバツ、ベスは喋れない。
となると……
「……アプティ、俺はどうすればいいだろうか」
俺はアプティのことは大事な仲間だと思っているし、信頼もしている。
そのアプティの意見を聞いてみよう。
「…………マスターは今日から私と結婚なんです……」
──そう、それでこそアプティだ。実に一貫としている。
ってよく考えたらアプティは銀の妖狐の妹だということが分かり、ガッツリ銀の妖狐一派の、寝ている俺をこの島まで連れてきた張本人だったっけ。
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