第437話 キツネ達のエデン 5 オミヤゲ工場と耳撫での列様
「美味い」
「……美味しいです」
果樹園、畑を見た後、でかい滝やちょっとした池などの観光スポット的なところを銀の妖狐に案内してもらう。
その間頭に周囲の地形を叩きこんだが、今俺がいる場所が本当に海にぽっかり浮かぶ島だということが分かった。
歩き疲れたので建物に戻りお昼ご飯。
「島の近海で取れた新鮮な魚貝を使っているからね! 当然なのさ!」
バニー娘アプティと向かい合ってお昼を食べるが、本当に美味い。
建物の内装も宿っぽい作りだし、出てくるご飯もイケボ兄さんの物と変わらない味なので、目を閉じたらここがソルートンのジゼリィ=アゼリィだと思えないこともない。
キツネ耳をぴょこぴょこ動かし俺達が食べる姿をニッコニコしながら見ている女性蒸気モンスター。彼女はランディーネさんと言い、頻繁にソルートンのジゼリィ=アゼリィに足を運び兄さんの作る料理の味を覚えたそうだ。
海鮮スープに海鮮パスタセット。大きな貝が贅沢に使われた一品で、ダシが強過ぎず、実に日本人である俺好みの味に仕上がっている。
この人すごいな……人間でもなかなかイケボ兄さんの技術を再現出来る人は少ないのに、人間の文化を知らなかった蒸気モンスターであるこの女性は見事に再現出来ている。
正直、宿の料理人として誘いたいぐらい。
まぁちょっと格好が料理人なのにナース服っていうアンバランス感はあるが。
しかしなぜナース服なのか。
いや、俺はいいと思うけど。エロいし。
昼食後、銀の妖狐から島内は自由に歩いてもらって構わないと許可を貰ったので、アプティとベスを連れ外へ。
すると、俺の部屋(偽)を出たときにズラッと並んでいた短い浴衣みたいな服を着た女性が二十人、俺の後を付いてくる。
「……あの、別に逃げ出す気は今のところないですよ」
俺の監視役だろうが、ソルートンに帰るのはしばらく無理だろう。
ここにいる蒸気モンスター全員を相手にどう逃げるというのか。それに例え島を脱出しても外は海。
そして俺がいるとソルートンのみんなに迷惑がかかる……。
「いえ、監視ではありません。私達はご主人様の身の回りの世話をするよう命じられています。困ったことがあればなんなりとお申し付け下さい」
立ち位置的にリーダーっぽい女性が応える。
二十人の女性のうち五人が俺の左右後ろ三メートルほどの距離に分かれ、残りの十五人がさらに五メートルほど距離を置いて立つ。なんか俺を中心とした二重の半円が後方に出来上がった感じ。
監視ではなくメイド的な役なのかな。
まぁ俺の横にはずっとアプティっていう銀の妖狐に情報筒抜け監視役がいるか……。
そしてご主人様ときたか。
社長に師匠にマスター、先生にキングに王。そしてご主人様か……一体俺の役職とか肩書きってのは何になるんだ。一回でいいから自分のステータス画面ってのを見てみたいぞ。
ああ、ちなみに俺の冒険者カードに記載されている職業は「街の人LV2」だ。
「こっちの建物は何になるんだ?」
宿っぽく作られた建物を出て右手にある、五階建てぐらいの大きな石造りの建物。
一見倉庫風に見えるが、これはどういう建物なんだろうか。
「あ、こっちはね、みんなでオミヤゲってやつを作っているんだよ」
俺の真後ろに立っていたメイド二十人衆の一人、短めの髪でとても元気そうな女性が笑顔で建物を指す。
オミヤゲ? 漢字でお土産ってこと?
「私もたまにお手伝いするんだけど、すっごい綺麗なガラス細工が出来るんだよ」
ガラス細工、か。島内で使うコップとか?
「おお、これはすごいな」
倉庫みたいな建物に入れてもらうと、そこには作業台がずらっと並び、長い鉄の棒を持ったみなさんが汗だくになりながら炉の前で何やら作っている。
手前辺りに出来上がった作品が並んでいて、色鮮やかなコップや工芸品が置かれている。
これは普通に観光地にあったら思わず手に取るレベルの美しさ。
小さなアクセサリー的な物もあるな。ケルシィ領のフラロランジュ島とか、ペルセフォスのティービーチとかで見たような物もある。
なるほど、こういう物も作って出荷しているのか。
銀の妖狐め、結構手広く商売やってんじゃねぇか。
「ガラス以外にも木製の物や石材、陶器、鉄、布を利用したオミヤゲもいっぱい作っているんだ。結構売れていてさ、ご主人様も観光地のどこかで見た商品があるんじゃないかな」
短めの髪の女性が、自身の右手人差し指にはめているガラスの指輪を笑顔で見せてくる。
「これ、私が作ったの。綺麗でしょ」
「ほぉ……これは綺麗だなぁ。花っぽい模様が中に入っているのか。これは俺も欲しいぞ」
ガラス製の指輪には模様が施されていて、これがまた綺麗。普通に欲しいと思える。俺がそう思うぐらいだし、女性にはたまらん商品じゃないのかな。確かにこれは売れていそう。
「……ふぅん、さすがあのゾロ様が親愛している人間なだけはあるなぁ。私の手とか怖がらずに普通に触ってくるんだね」
おっと、思わず女性の手を触ってしまっていた。
指輪が見たかっただけで、エロい気持ちではないぞ。
もちろん、ついでに目の前にあった大きめなお胸様もじっくり見させてもらったが、偶然だ。
女性がニヤっと笑い、ポケットから似た模様が入ったガラスの指輪を俺の右手人差し指にはめてきた。
「あげる! 話では色々聞いて興味持っていたけど、実際会ってみたら余計に興味湧いてきたかも。ご主人様ってすっごく面白そう。ゾロ様がお気に入りになるのも分かるなぁ」
「お、おう。ありがとう……」
買ったら結構な値段しそうな物だぞ、これ。いいのかな。
「…………マスター、私のバニー耳、どうぞ……」
いきなり背後から声が聞こえ、俺の頭にコスプレ衣装のバニー耳カチューシャが乗せられた。
「うわっ、アプティさん……こういうのは女性がやるから似合うもんじゃ……」
振り返るとアプティが無表情に立っていたが、あれ……ちょっと不機嫌そう。
珍しいな。
「そういやアプティには自前の綺麗なキツネ耳があるんだもんな。分かった、これはありがたく貰っておくよ。ソルートンに帰れたら新しいバニー耳を俺が買ってやるからな」
よく分からんが、アプティがいつもつけていたバニー耳を貰ったぞ。
ローズ=ハイドランジェ製のシャンプーのいい香りがする。
これは……あれだな。夜の一人想像プレイで使えるな……って冗談、冗談だ。
俺がそう言いながら頭を優しく撫でてあげると、アプティが無表情ながらも安心したように頷く。
「……本当ですか、嬉しいです……あ、耳は……」
アプティの頭にはキツネ耳が生えていて、撫でようとするとどうしても耳に触ってしまう。フワフワで触っていて気持ちがよかったのでつい何度も撫でていたら、アプティがほうっと吐息を漏らした。
「…………」
アプティが顎を上げ、撫でられて気持ちが良い猫のように目を細め動かなくなる。
あれ、気持ちよかったのかな。
よし、もっと撫でてやろう。
「い、いいないいな! ご主人様、私もして欲しいな!」
指輪をくれた女性が我慢出来ない、といった感じで興奮しながら自らの頭を俺にこすりつけてくる。
それを見た他のメイド二十人衆もフンフン鼻息荒く後ろに並び、俺の前に行列が出来上がった。
なに、これ……。
よく分からないが、俺は左手でアプティの頭を撫でつつ右手で二十人衆の頭を順番に撫でることに。
うーん、彼女らは人型蒸気モンスターとはいえキツネ耳とか尻尾あるし、こういうところは動物っぽいのかな。
「ベッス、ベッス!」
そして愛犬ベスが二十人衆の列の三番目に横入りしたのだが、これは飼い主として順番を守れと注意するべきなのだろうか。
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