第412話 サーズ姫様へご報告とデータゼロ様
「おはようございます先生! サーズ様がお会いしたいと言っています! 道中私とベタベタしながら行きましょう!」
翌日朝八時前。
お城二階にある来客用の部屋のドアが勢いよく開き、ビシっと騎士の制服に身を包んだハイラが飛び込んできた。
「あ~? ド変態が何の用だよ、こんな朝から~」
ベッドから不満そうに水着魔女ラビコがのそっと起き上がる。
「いえっ、サーズ様は先生の都合のいい時間でとおっしゃっていましたが、私が早く先生に会いたかったので来てしまいました!」
そう言うとハイラはニッコニコ笑顔で俺のベッドに潜り込んで来ようとするが、俺の後ろからビュッと右手が伸びハイラの顔を鷲掴み。
「むぐぅっ! ア、アプティさん……昨日は協力姿勢だったのにぃ……」
横向きに寝ていた俺を背後から包み込むように寝ていたアプティが無表情に起き上がり、ハイラを
「……マスターの命令は絶対です……朝まで守るよう言われています……」
「ありがとうアプティ。もういいぞ」
俺も起き上がり、アプティの頭を優しく撫でる。
「……はい、マスター……」
アプティがパッと右手を離しハイラの顔面を開放。
「ぅう……もっと近接戦闘技術を磨かねば……そうしないと先生とラブラブな生活が来ないぃ……」
ハイラが顔を抑えながらモゴモゴ何か言っているが、サーズ姫様がお呼びとな。さてなんだろう。
ああ、昨夜の山賊の襲撃は見事回避したぞ。
大部屋の中から聞こえてきたヤるだの襲うだの。
さすがに身の危険を感じたので一階に戻り、厨房にいた筋肉モリモリ料理人シュレドに一緒に来てもらった。さらにお供に数名の体格のいい男性アルバイトさんにも来てもらい、お酒にデザートにフルーツを追加注文して持ってきてもらった。
ラビコにはお酒。他の女性陣にはナルアージュさん特製デザート盛り合わせを振る舞い、なんとか話題をそちらに持っていき危機を回避した。
ま、こういうときは
一番ガタイのいいシュレドが「む、無理っす! ラビコ姉さんに勝てる人間なんて旦那ぐらいっすよ!」とブルブル震えていたが、お前見た目「俺より強い奴に会いに行く」状態なんだからドンと構えてりゃいいんだって。その筋肉は飾りなのかよ。
「サーズ様、皆様をお連れいたしました」
「おお、すまないな。入ってくれ」
ハイラを先頭にお城上階へ。
さすがにお城の上階は窓から見える景色が素晴らしい。王都が一望出来るレベルだ。
街並みを見て思うが、王都には何度か来ているけどまだまだ行ったことのない場所があるなぁ。王都ですらこれだからな。魔晶列車が通っていない内陸とかいつ行けるのやら。
「なんだよド変態~。こちとら忙しい身の上なんですけど~」
部屋の中に入ると、ラビコが挨拶がてらにサーズ姫様を睨みつける。
「はは、彼が五日間学校に通っているあいだ、とても暇そうに城内や街をフラついていたと聞いたが?」
うん、さすがサーズ姫様。ラビコの先制攻撃をさらっとかわして、しっかり反撃ですわ。
「はぁ~? クロやロゼリィがお城の中とか街中を見たいって言うから案内していたんですけど~」
ほう。みんなお城の中とか街中を見て回っていたのか。
ロゼリィは王都に憧れていたみたいだし、女性同士で気ままに見て回れたんじゃないかな。俺がいるとロゼリィはすごい気を使って、自分の見たい物とかあんまり言わないんだよな。
「そうか、それは失礼をした。ペルセフォス王都は堪能していただけただろうか。私に言ってくれれば、我が自慢の
サーズ姫様がロゼリィとクロに微笑みかけるが、その仕草や雰囲気は正に王族様ですなぁ。ロゼリィが焦って身なりを正して頭を下げまくっているけど、それが普通の人の反応だよな……。
国王同等の権力持ちのラビコとか魔法の国の王女様クロとかいるから、サーズ姫様に対して麻痺しがちだけど。
「しかし驚いたぞラビィコール。まさかお前が学校で授業をした上、自分の手の内も晒してくれるとはな。どうだ、これを期にペルセフォス騎士達の魔法技術向上に尽力を……」
「や~なこった。社長にいいとこ見せようとして一回やっただけだよ~だ」
ラビコが不満気にそっぽ向くが、あの授業マジで学生さんに好評だったみたいだぞ。
実質国のトップみたいな立場で、現役最高クラスの魔法使いであるラビコの技術を生で聞けたんだからなぁ。
あれで学生さんのやる気は相当刺激されていた……ああ、職員さん達も。
「時間なんて有限なんだ。私のこれからの時間は全て社長の為に使うって決めているし~……」
「ラビコ。あのときは本当に格好良かったぞ。学生さんに真面目に教えている横顔とか最高にいい女に見えた。俺としてはまた格好いいラビコが見たいし、年に一回とか、そういう頻度でならやってもいいんじゃないかな」
マジで女教師姿のラビコはちょっと見惚れてしまったし。
実際ペルセフォスという国の未来を考えたら、優秀な教師ってのは大事になってくる。
特にこの国は魔法に関しては手薄みたいだし、お綺麗な机上の空論ではなく実戦で使える泥臭い技術ってのが語れる人材が重要なんじゃないかな。
ああ、思い出すとラビコの女教師姿良かったなぁ……今度そういう系のエロ本探してみるか。
もしかして俺って職業物エロに弱いんだろうか。
え、俺の性癖とかいらねぇ情報ッスか、あ、はい。
「うわうわっ社長ってば嬉しかった? そっか~惚れちゃったか~そっかそっか~。ふ~んそうだな~たま~にならいいかな~。飽きられないように変装してヤるってのもよく聞くし~水着が基本として、他の服も試してみよっかな~あっはは~」
ラビコがニッコニコ笑顔で右腕に絡んでくるが、変装してヤるとかの話なんて一切していないし、ペルセフォスの未来の魔法使い育成の為にって話なんだが。
「はは、さすがに君がいると魔女のコントロールが容易だな。年一回程度でも充分だ。ラビィコールが授業をしてくれて以降、来季分の騎士養成学校魔法専攻への応募が殺到していてな。彼等の期待に応えるよう、入学して浅い時期にやってくれると助かる」
サーズ姫様が笑顔でスケジュールに書き込みを始めたが、もしかして俺もサーズ姫様に乗せられたのか?
「それと、君はそういうのに弱いのか? これはいいことを聞いた。では私も今度はそっち方面で攻めてみようか。まずは女教師、と」
なにやら懐から手帳みたいのを取り出し書き込んでいるが、え? サ、サーズ姫様の職業物ッスか!? それはヤバイ……それは……ヤバイ。俺の妄想がオーバーラン。
「それで本題だが、君を呼んだのは騎士養成学校に体験入学してみた感想が聞いてみたくてな」
おっと、妄想の中でサーズ姫様を着せ替えしている場合じゃなかった。ラビコも何か気が付いて睨んできたし。
「あ、はい! この度は俺なんかに特別なはからいをして頂きありがとうございました! 残念ながら自分の実力不足が祟りご期待には応えられず、昨日行われた冒険者センターでの魔法使いへの転職試験は落ちてしまいまいした」
これに関しては本当にお礼を言わねばならん。
本来なら有り得ない時期に有り得ない制度を使って短期で学校に通わせてもらったわけだし。
「それは残念な結果となったな。しかし君はその程度では諦めないんだろう? 冒険者センターでの試験は毎月やっている。来月もその次の月にもチャンスはある。今回は五日間という短期ではあったが、次はしっかり準備期間が取れると思う」
サーズ姫様が冒険者センターのスケジュール表を見せてくれるが、毎月やってんのか。
「どうだろう、君が騎士養成学校にまた通いたいというのならすぐにでも手配するが」
「いえ、大変ありがたいお言葉ですが、いくら学校に通おうと肝心の魔法が使えないんじゃ同じことの繰り返しになってしまいます。これ以上サーズ姫様にご迷惑もお掛け出来ませんし、まずは魔法というものが発動できるよう自力で努力してみようかと思っています」
確かに騎士学校で学ぶことは為になるが、今はデゼルケーノからの帰り道の身。この疲弊した体を癒やすために、まずはソルートンに帰りたい。
やっぱ俺の家はあの宿だ。
サーズ姫様のお気遣いは本当にありがたいが、ジゼリィさんにローエンさん、イケメンボイス兄さんに正社員五人娘に会いたくなってしまった。
「一旦ソルートンに帰ってたっぷり休んで頭を冷やして、それからまた一から考えてみようと思います。騎士学校はとても楽しかったです。同世代の友人も出来ましたし、サーズ姫様のおかげで貴重な経験が出来ました」
なぜか知り合ったその二人は、今日からカフェジゼリィ=アゼリィのアルバイトさんになるそうだが。
「ふむ、そうか……私の欲を言ってしまうと、君に少しでも長く王都にいてほしくて引き止めている状況だ。しかしこれ以上欲をかいてしまうと、君に愛想をつかされてしまいかねないか。愛というものは、ときに冷やし会わない期間を設けたほうが再会のときに激しく燃え上がると聞くしな、はは」
愛とかよく分からんが、何の話なのか。
「そしてその学友二人のこともハイラインから細かく報告を受けているぞ。初日の報告書は裏に授業内容のメモが多量に書かれていて驚いたよ、まぁ読みにくくてな……はは。二日目以降は筆圧の調整が効いていない憎しみの文字で、その二人が何回君に話しかけたか、視線を何度送ったか、何回君に触ったか等、まぁ事細かに書いてあったよ」
ハ、ハイラさん……あなたが来たのって確か今後の
聞く限りラビコの授業を真剣に受けて、アリーシャとロージが俺に仲良くしてくれたことに怒りを覚えた私怨報告書じゃねーか。
未来の一芸枠受験希望者のみんな、すまない。
俺は真剣に授業をやっていたのだが、ハイラがまるでデータを取っていなかった。
この制度導入は相当遅れそうだ。
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