第295話 ジゼリィ=アゼリィ王都進出計画 11 恐怖の深夜温泉様 1


 えーと、ここまでの回想としては色々あってトラブルもなくソルートンから王都に着いた──


 ではダメかね。



 いや、大きく間違ったことは言っていないはず。


 実際王都に着くまでトラブルはなかった。色々起きたのは王都に着いてからだしな。



 駅に着くと、夜にも関わらずハイラとサーズ姫様が出迎えに来てくれ、お城の前に出来ていたカフェ、ジゼリィ=アゼリィではアンリーナがスタッフと共に歓迎してくれた。


 綺麗に表現するとこうだろうか。実にスマートだ。



 カフェに着いてからは、何やら揉め事が起きそうだったので、集まってもらったスタッフさんには帰ってもらうことに。


 その後指輪がどうのと揉め事になり──





「ははは、別に私は指輪を寄こせと言っているわけではないぞ。少しでも私に感謝の気持ちがあるというのなら指輪を寄こせと言っているんだ」



 どう聞いても同じことを二回言われただけだと思うが、サーズ姫様が笑顔で俺に迫ってくる。


「ずるいですよ、やっぱり! 前から気になっていましたが、どうして私には指輪がないんですか? ソルートン組だけ優遇とか許せません!」


 湯上がりのバスタオルの上に慌てて着た制服姿でハイラも攻め寄ってくる。


 計算したかのように着崩れしていて、すっげぇエロい。


 その様子を余裕の表情で見ているソルートン組の女性陣のみなさん。


 シュレドはどうしたものかと俺とラビコを交互に見て、助けようか助けを求めようかしていたが……。


「あー……俺としましてはソルートン宿屋連合の一員なので、最終的にロゼリィお嬢と一緒になっていただければそれでいいような」


 と、雇われ料理人シュレドはオーナーの娘であるロゼリィの後ろに立ち、逃げた。




 増援も望めないので、とりあえず俺はサーズ姫様とハイラを頭を撫で抑え、時間がもう二十二時近いので泊まる場所を確保しないと、と言うと、サーズ姫様が真顔を俺に向けてくる。



「確保も何も、すでにお城の客室はあけてあるぞ。クマさんだって用意してある」


 用意してあるクマさん、というのは意味が分からないが、今から宿を探す時間も無いのでお世話になることに。




「では行こうか、我が国自慢の飛車輪でお城までご案内しよう」


 ありがたいことに空飛ぶ車輪こと、飛車輪に乗せて運んでもらえることに。


 実はお城の敷地内は複雑な構造になっていて、お城を囲う分厚い防壁が七枚あり、歩いて行くとこの七枚の壁にそって迷路のように歩き回らないといけない。これが短縮出来るのは大変ありがたい。


 サーズ姫様の飛車輪のほうにラビコ、ロゼリィ、アンリーナ、アプティが乗り、ハイラの飛車輪のほうに俺、ベス、シュレドが乗る。


「うっはは! すっげぇ! すっげぇぞこれ! これが飛車輪か、これはすごいっすね旦那!」


 飛車輪に初めて乗ったシュレドが大興奮。


 乗ったのはお城の七枚目の防壁からお城の入り口までの一瞬だったが、自分の体が夜空に浮かび上がる感覚は何度乗っても感動する。


 ジェットコースターみたいで怖くはあるが、最初に比べ、ハイラも上手くコントロール出来るようになったのでだいぶ安心して乗れるようになった。


 この乗り物、マジで欲しい。




 いつも使わせていただいているお城二階の客室に案内してもらい、荷物を置く。



 何度か泊まらせてもらっているが、相変わらず豪華絢爛。

ここは本来お城に来る身分の高い人向けの部屋で、俺みたいな街の人が泊まれる場所ではない。


 広い部屋内には天蓋付きの大きなベッドが四つ並び、ロフト的に二階もあるような状況。キッチン、小さなお風呂、トイレ完備。これもうここに住めるレベル。

 

 さすがに女性陣で一部屋、俺とシュレドの男組で一部屋を貸してもらったぞ。


 アンリーナは近くに宿を取っているようだが、今日からこっちにするそうだ。


 お店の土地を提供してもらったり、お城に泊めてくれたりと、本当にサーズ姫様には感謝だ。



 聞くと、お城には騎士達に二十四時間開放している温泉施設があるそう。


 かなりの大きさの大浴場のようで、今の時間ならほぼ誰もいないらしく、入らせてもらえることに。


 借りている客室にも小さなお風呂はあるのだが、やはり旅の疲れは大浴場で流したい。


「あ、俺は部屋にあるお風呂でいいっす。寝る前にちょっと明日に向けてレシピの整理をしたいんすよ」


 そう言ってシュレドはさっさと部屋の小さなお風呂で汗を流し、持ってきたカバンから分厚いノートを出しレシピの調整を始めた。偉いなぁ。





 温泉にはちゃんと動物用のも別にあるようなので、俺は笑顔で愛犬ベスを連れ温泉施設へ歩く。


 バスタオルとかは温泉に備え付けられていて、自由に使っていいそうだ。さすが王都のお城様だぜ。



「そいうやペルセフォスには動物部隊ってのもいるんだっけ。俺みたくパートナーと一緒に入りたい人も多いんだろうな」


 簡易地図片手にお城の通路を歩く。


 今頃は女性陣も女湯に入っているんだろうか。


 覗きに……いや無理だな。やめておこう。



 さすがに王族が住まれているお城。


 こんな遅い時間だろうが通路の各地に騎士が配置され、俺みたいな不審者がいないか目を光らせているし。


 何度か来ているので見慣れた騎士も多く、俺は軽く挨拶しながら一階の温泉へと向かう。




「…………あれ?」


 二階から豪華な階段で一階に降りるが、二階にはたくさんいた騎士の姿が見えない。


 明かりはしっかり灯っているのに、大きな通路はシーンと静まり返り、ちょっと不気味。



「なんだろ、こっちはお城で働いている騎士の、しかも温泉施設の男湯方向だから警備も少ないのかな」


 不審者やどこぞの悪い侵入者がいても、いきなり男湯にはこないか。


 不審者なら女湯のほうが目指すべきホットスポットだろうし。あーまたロゼリィの裸、見てぇなぁ。



「しかし不気味なくらい静かだな、なぁベス……」



──ボトッ──



 あとはこの先の通路を右に曲がればいいだけだ、と愛犬の頭を撫でると、ベスが軽く警戒体勢を取った。


 なんだ? と通路の先を見ると、T字路のところに何か大きなものが落ちている。



 人型に見えるが……。








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