第240話 帰還祝いと俺の歩む異世界様 ──第4章 完──
「さぁ野郎ども、今夜はうちのパーティーさ。一人一時間までならタダで飲み放題といこうじゃないか。ああ、メシ代は払うんだよ、そこは守れ。守らないやつは骨折の二本や五本は覚悟しな、いいね!」
「おおおおお!」
「ジゼリィ姉さん最高っす!」
「飲むぞぉぉ」
ジゼリィさんの脅しと漢達の地鳴りを伴う咆哮で俺達の帰還祝いが始まった。
絵面的には山賊の酒盛り。
タダで飲み放題ということで、お店の外まで入店待ちの列が出来上がっている。
女性は……少ないな。
まぁこの筋肉祭り、世紀末覇者軍団の迫力は免疫ない人には厳しいか。あいつ等見た目はああだが、結構話せる奴等なんだぞ?
「旦那! さぁ食ってくれ、きっちり成長しているところを見せないとな!」
シュレドが俺達のテーブルに山盛りの料理を運んでくる。うん、見た目は言われないとイケメンボイス兄さんの作った物と思えるほどだ。
どれ味は……。
「うん、うまいぞシュレド。これだよ、これ。この味がないとジゼリィ=アゼリィじゃないんだよな」
出されたビーフシチューを食べると、口に広がるコクの深い味と香り。
肉はホロホロと柔らかく、舌でほぐれるほどのもの。相変わらずシュレドはシチューとか煮込む料理が得意だよなぁ。
「へへっ、やったぜ! でもまだまだボー兄さんには追いつけないから、もっと経験積まないととだめなんだ」
そう言うとシュレドは楽しそうに厨房に戻っていった。
楽しそうなだなぁシュレド。本当に生き生きと厨房で料理を作っている。これは何の心配もいらないっぽいな。
「あっはは~すごいね~シュレド。これもうこのお店の味じゃない。さすが兄弟だね~」
右に座る水着魔女ラビコがシチューを飲み込むように食べている。
さすがにしばらく美味いもの食べていなかったからなぁ。セレスティアのスルスル鍋は結構美味かったが、やはりこのお店の味は最高だぜ。
「美味しいですー。シュレドさんすごいです。これなら王都のカフェも大丈夫そうですね」
左に座る宿の娘ロゼリィも笑顔で出された料理を食べている。
ホント、ここの料理は食べると笑顔になるんだよな。ぜひこれをサーズ姫様やハイラに味わってもらいたい。
「……美味しいです」
バニー娘アプティも満足気に紅茶を飲んでいる。ベスも出されたスペシャル犬ご飯に大興奮。まさに獣のように食っているな。
「隊長! 旅のお話聞かせて下さい! セレスティアにも行ったとか聞きました!」
バイト五人娘の一人、ポニーテールがよく似合うセレサが興奮気味に走ってきた。
おや、今日は随分とおめかしをしているような。化粧がいつもと違う感じ。
見ると向こうで残りのバイト五人娘がくじ引きをしている。
ホールの仕事があるので一人ずつ順番に来るようだ。
「あっはは~罪な男だね~。ま、指輪組の私は高みの見物かな~あっはは~」
ラビコがバイト五人娘の行動に気付いたようで、ニヤニヤ笑いながら見てくる。
バイト五人娘はいつも本当に頑張って働いてくれている。今度本当に感謝を形にしないとならんな。
本当ならこの場に商売人アンリーナもいて欲しかったが、王都に残ってカフェ建設の指揮を取ってくれているからなぁ。
アンリーナにもきちんとお礼をしないとならん。
「おぅレンジ! 帰ったんだってなぁ、差し入れ持ってきたぜぇ!」
「レンジレンジ、甘いの食べたい甘いの。にひひ」
宿の入り口に大きな魚を数本担いだ海賊姿の兄妹が登場。
漁船に乗せて貰ったときに知り合ったガトさんのお子さん達。
魚をイケメンボイス兄さんが嬉しそうに受け取り、厨房で歓喜の声が響く。
日に焼けた色黒イケメン、兄のレセントがラビコの向かいに椅子を持ってきた。
ああ、レセントはラビコが好きなんだっけか。俺達が酒飲めないから、こういうときはラビコのちょうどいい話し相手になっている。
妹の推定年齢十二歳、シャムがとことこ歩いてきて俺の横に無理矢理座ってきた。
「レンジ、五年後な。五年後いい女になっているから、いるから。にひひ」
シャムがフルーツ盛り合わせアイスを頼み、可愛らしく笑う。
うむ、シャムは数年経ったらかなりの美人さんになっていそうだ。
「うわぁ、かわいい! この子、あ、そうか……! オリーブ、カメラカメラ!」
シャムのかわいさにやられたセレサが何かに気付いたようで、慌ててオリーブを呼びカメラをジゼリィさんから借りてきた。
「はいもっと寄って下さい隊長! シャムちゃん、お写真撮るからねー。はい、ニッコリ」
セレサがシャムの隣に座り、オリーブがカメラを構える。ん、なんか以前こんなことあったな。
「おおー、これは素晴らしいのです。どう見ても子連れ夫婦……セレサ早く私も撮るのです」
ファインダーを覗くオリーブが大興奮。
シャムは意味が分からずも笑顔。オリーブも同じ構図で写真を撮り、二人は満足気にホールの仕事に戻っていった。
その後、残りのバイト五人娘のヘルブラ、アランス、フランカルも同じく俺とシャムとの写真を撮っていく儀式に。
海賊兄妹が持ってきてくれた巨大な魚は刺し身として、食堂のお客さんに振る舞われた。
「ありがとう、レセント、シャム。おかげで美味しい刺し身が食べられるよ」
俺が二人にお礼を言う。
なんかいつも悪いなぁ、差し入れしてもらってしまって。
「おう、いいってことよ。同じ船に乗った魂分けた兄弟だ、何を遠慮することがあるかっての。食え食え」
レセントが豪快に笑う。
鍛えられた筋肉に健康的に焼けた肌、そしてどう見てもイケメン顔。
うーん羨ましい。
「レンジ、私もみんなみたいに指輪が欲しいぞ、欲しいぞ」
シャムがラビコ、ロゼリィ、アプティの左手薬指に光る指輪を見て俺にねだってくる。さ、さすがに推定十二歳の子にはあげられんぞ。
「お、大人になったらなシャム。ホラ、アイス食え、アイス」
「にひひ、じゃあ五年後な、五年後。楽しみ楽しみ」
アイスを笑顔で食べるシャム。うーん、かわいいなぁ。
「はぁ……あなたはどれだけの女性の面倒を見るつもりなのですか……」
ロゼリィが今までの様子をじーっと見ていたようで、深い溜息をつく。
「あっはは~もう諦めたほうがいいよロゼリィ~。社長ってこういう人だし~いや、これが私が大好きな社長だね~これも含めて愛せるよ、私は」
ラビコがニヤニヤと笑い、俺に抱きついてくる。
それを見ていたレセントががっくりと肩を落とす。
「あ、愛……! な、なるほど……こういうこと含め全てを受け入れることが愛……! 私未熟でした……。が、頑張らないと!」
妙に納得したロゼリィが鼻息荒く抱きついてくる。
え、俺諦められてんのかい。
「……マスターが人気です。私はテクニックで応戦しますね……」
アプティが変な手つきでボソっと呟く。
なんというか俺ってよくこの状況でやりくりしてるよな。
たまにトラブルは起きるが、どうにか関係は保てているようだし。
異世界に来てロゼリィに出会い、ラビコに出会った。
そこから俺の異世界が広がり、ペルセフォス王都にお酒の国ケルシィ、魔法の国セレスティアにまで行くことが出来た。
俺は今とても楽しくこの世界を満喫している……いや、この世界で楽しく生きている。
これからどうなるかは分からないが、みんながいればどんな困難だろうがどうにかなりそうな気がする。
俺にはベスという最強の愛犬もいる。この先も俺はベスと共に歩んでいこう。
ゆっくりでいい、自分のペースで笑顔で、同じ方向に歩んでくれる友を大事に想い進んでいこう。
いつかその大事な想いが愛に変わるかもしれない。
俺にはまだ早いかもしれないが、近い未来にその大切な日が来ることを願い、この異世界を歩んでいこう。
「ロゼリィ、ラビコ、アプティ。俺について来い、そして俺の側にいてくれ。俺はこの世界の全てを見るまで冒険者はやめない」
「はいっ! 私はどこまでもついていきます。私を変えてくれたあなたに返さないとならない恩がたっくさんあるんですから」
俺の宣言に優しく微笑んでくれるロゼリィ。
「あっはは~でっかい宣言だね~いいさ、付き合うよ~。こんな楽しいことはそうないからね~信じているよ、社長」
ラビコがコップに入ったお酒を掲げる。
「……四年後までは側にいろと言われました。従います、マスター……」
アプティがじっと俺を見つめてくる。
ありがとう、みんな。
さぁて、カフェ計画頑張らないとな。
そして次はどこに行こうか。
まだ行っていない国はたくさんあるんだ……ああ夢が広がるなぁ、異世界って最高にいいところだぜ。
第四章 ――異世界転生したら魔法の国があったんだが―― 完
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お読みいただき感謝!
これにて「異世界転生したら犬のほうが強かったんだが」第4章、異世界転生したら魔法の国があったんだが、が 完 となります。
今回は西にある「魔法の国」に行くお話でした。
ペルセフォス王都へのカフェ出店場所探しの目的で王都に来たのですが、お姫様のお願いで魔法の国セレスティアへ。
雪の積もる寒い国で見る魔法の花火は、主人公くんパーティーの良い思い出になった模様。
ノギギという魔法の国で一番の魔法使いと知り合い、通信システムの相談をするも、今回は進展ならず。
ラビコが語り、魔法というものの仕組みを少しだけ理解した主人公くんですが、彼が魔法を使える日は果たして来るのか・・・
森の街フォレステイ付近で主人公くんが見た二度の「夢」。
あれは本当に夢なのか。夢で出会った女性は何者なのか。
ペルセフォス王都の図書館で読んだ魔法と魔晶石の歴史。
今後少しずつお話が進んで行きそうです。
無事ソルートンに帰還し、主人公くんが次に目指すものは・・・
さぁ次話からは「第5章」となります。
またゆるりとお付き合いいただければ幸いでございます。
よろしければコメントや評価などよろしくお願いいたします。
影木とふ
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