第236話 ソルートンに向かう朝と四年後はお酒を飲み交わしたい様


「大変残念で心配で生きた心地がいたしませんが、私は王都に残ってカフェ建設の業者手配に指示の仕事がありますので、ここで一度お別れとなります」



 翌朝五時、ペルセフォス駅でアンリーナに見送られ俺達は一旦ソルートンに帰ることになった。


 王都に来た目的はカフェの出店場所の決定だったからな、それは達成した。



 イレギュラーで魔法の国、セレスティアに行くことにはなったが、雪の夜空に打ち上がる魔法の花火は見れて良かった。


 ノギギとも知り合えたし、また行きたいなセレスティアには。



「悪いが頼むぞアンリーナ。俺は一旦戻ってカフェで腕を振るう予定のシュレドの様子を見ながらカフェの完成を待つよ」


 俺はアンリーナと固く握手をし、またの再会を誓う。


 まぁ、すぐにアンリーナもソルートンに戻ってくるだろう。




「うう、先生ー私もソルートンに行きたいですぅ。一生先生の側にいることが私の役目なんですぅ」


「はは、だめだぞハイライン。ウェントスリッターになった者はしばらく王都で力をふるってもらわないとな。しかし、ソルートンに行きたいのは私も同じだ。今度何かしら用を無理矢理作って行こうと思っているので覚悟をしておけ、はは」


 共に見送りに来てくれているハイラがゴネるが、サーズ姫様に釘を刺されてしまう。後半のセリフでハイラが期待に満ちた笑顔になったが。


 まぁ、いつかは二人をソルートンにご招待したいが、二人共王都での仕事が忙しいだろうからなぁ。


 機会があったらソルートンで、イケメンボイス兄さんの料理を味わって欲しいものだ。



「朝早い中、お見送りありがとうございます。近いうちにまた来ますので、その時はご挨拶に向かいます」


 俺は愛犬ベスが入ったカゴを抱えサーズ姫様とハイラ、アンリーナに頭を下げ列車に乗り込む。


 ロゼリィも三人に丁寧に頭を下げ別れを告げる。アプティは無表情に俺の後ろについてくる。



「じゃあ頼むよ、サーズ。アンリーナをこちらの代表として丁重に扱ってくれよな~」


 最後に列車に乗り込もうとしたラビコがサーズ姫様に言葉をかける。


 うへ、ベスがカゴの中でお腹減ったアピールが始まった。落ち着け、個室入ったらリンゴやるからな。



「ほう、お前が私の名を呼ぶとは珍しいな。思わず背筋に変な汗をかいたぞ。アンリーナ殿はこちらでしっかりとおもてなしをしようじゃないか」


 サーズ姫様がラビコの言葉に軽く驚いた顔をし、アンリーナの肩に手を置く。


 ベスが吠えて二人の言葉があまり聞こえないぞ、こらベス落ち着け。


「ふん、うちの社長の計画なんだから~私が頭下げて済むならいくらでも下げるって言ってんだよ~」


「はは、あのわがまま魔女ラビィコールが頭を下げるか。いいだろう、お前がそこまでするなら友として最大限に支援をしよう。……なんというか、彼と出会ってから随分と変わったな。いや、褒めているんだぞ。とてもいい女の顔になっていると思ってな」


「……ふん。うちの社長は渡さないからな~って、そういう意思表示だってことさ~」



 やっとラビコが列車に乗り込んできた。


 なにやらサーズ姫様と話していたが、なんだったのだろうか。まぁ、二人は仲が良いし心配はいらないと思うが。




 朝五時半発、フォレステイ行き特急列車がペルセフォス王都を出発する。最後尾の個室の窓からサーズ姫様、ハイラ、アンリーナに手を振る。




「……あれは本気だな。これはこちらも出し惜しみせず全力で行かないと、この戦いには勝てそうもないぞ、はは」


「ううサーズ様、私ラビコ様に勝てる自信がないですぅ。ど、どうしましょう」


 



 列車は翌日の朝五時半すぎに終点のフォレステイに着く予定。



「いやぁ、特急って楽だな。ちょっとかかるお金は厳しいが」


 このロイヤルな個室を取るのにかかるお金は六千G。大体六十万円ぐらいの感覚だろうか。


 はっきり言って高い……が設備の良さと部屋の広さ快適さは素晴らしいので、どうしてもここを選んでしまう。


 あと俺に付き合ってもらっている女性陣に大変な思いはさせられないしな。



「あっはは~いやぁ社長様々だね~。私さ~最近毎日楽しくて仕方ないんだよね~早く社長が二十歳になってお酒を飲めるようになったらもっといいんだけどな~」


 ラビコが笑いながら駅で買ったお酒の瓶を掲げてくる。


 残念がら俺はまだ十六でお酒は飲めない。


 そうだな、ラビコと飲むのって楽しそうだなぁと思う。


「年齢的にあと四年待ってくれ。そうしたらケルシィで高級酒グインホークなんか買って飲もうじゃないか」


 あのお酒好きローエンさんが崇めるお酒だ、味に間違いはないだろう。



「あっはは~それはあと四年は俺の側にいろって宣言かい~? 食べごろの女をキープって結構なことだよ~あっはは~」


 う、そういう意味では……。


 出来たら俺の側にいては欲しいが、うーん。


「わ、私だってあなたとお酒を飲んでみたいです! 四年と言わず、いつまでも待ちます!」


「……了解しましたマスター。あと四年は側にいろ、ですね」


 そう言って三人の女性に囲まれる俺。足元ではベスが絡んできている。リンゴ寄越せの合図だろうけど。



 まぁ、こんな日がもう四年続いたっていいだろ。


 俺の異世界生活はまだまだ始まったばかりだ。










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