第202話 俺の住む場所はリビング様
「いらっしゃいませ。これはこれはラビコ様、高級街にいい物件がありますがどうでしょう」
シュレドが日々着実に料理の腕を上げていくなか、俺はとある場所を訪れた。
『パーラ不動産』と言い、賑わうソルートン商店街の中にある建物や土地等の売買、賃貸を扱っているお店。
「どうも~今日は冷やかしさ~」
ラビコがニコニコで出てきた女性店員さんに答えるが、正直過ぎだろ。
宿屋ジゼリィ=アゼリィの横には道路が通っていて、その道路挟んだ向こうにあるかなり大きな集合住宅の建物、そこの入り口に「空きあり」と張り紙がしてあった。
そこそこ高級そうな建物で、ラビコに聞いてみたら一番値段が高いのはソルートン中心にある高級住宅街なのだが、宿屋ジゼリィ=アゼリィのあたりはそこまで相場は高くはないそうだ。
ではいくらぐらいなのだろうと、値段によっては俺の異世界での初めてのマイホームに……なんて夢を膨らませて少年はここまで来たのだ。ジゼリィ=アゼリィから歩いて五秒だし。
俺は十六歳だからお金があると言っても信頼されないと思い、成人で知名度もあるラビコについてきてもらった。
あとは保証人なんだが、ラビコが笑いながら「私がなってあげるよ~お互いお金はあるし~。でも何かあったら貸しが出来て色々強請(ゆす)れ……」と言ってくれた。後半部分は聞き流した。
お金の証明としてちゃんとソルートンの銀行の通帳を持ってきたぞ。
ああ、ソルートンのほうには五百万G、日本感覚だと五億ぐらいある。ちょっと使って減ってはいるが、月に千五百Gぐらいまでなら余裕だぞ。
ペルセフォス王都での物件探しを今度するが、比較のためにソルートンの相場も知っておきたい、ってのもある。
「宿屋ジゼリィ=アゼリィの横にある空き物件なんだけど~」
「はい、ありますよ。最上階、三階のバルコニーと屋上付き、お部屋は三つ、キッチンに高級魔晶石コンロが付いています。お得ですよー」
店員のお姉さんがニコニコ答えてくれる。
魔晶石コンロってのは、油や薪の代わりに魔晶石をエネルギーとして炎を出す調理器。油や薪に比べ管理が楽で便利な物なんだが、いかんせん高い。本体だけでも高いのに、さらにエネルギーとしてそこそこお高い魔晶石を買って用意しないとならん。
魔晶石は消耗品なので、毎日使うならそれなりの出費を覚悟しないとならん調理器具。まぁ、魔晶石コンロ買う人なんて基本金持ちと認識しているが。
ご飯はジゼリィ=アゼリィで食べるし、自分で調理はあんまりしないと思うから、あってもあんまり使わないと思うけど。
一応ジゼリィ=アゼリィの調理場には数個そのコンロがある。薪や油より火力が安定して使えるので重宝しているようだが、やはり燃料の魔晶石が高いのがネックで使用頻度は低いみたい。俺は炭の調理が一番好きだけど。
「どうだい社長~間取り見る限り悪くなさそうだけど~。つぅか住む家建てれるじゃん社長~どかーんと豪勢なの建てちゃえば~?」
まぁ、それはそうなんだが……十六歳で家建てるって、ちょっとプレッシャーがさ……。あと今日は聞きに来ただけだし。
「ふーむ、余裕で払える金額だったな。ジゼリィ=アゼリィの目の前だし、悪くないのかなぁ」
不動産屋さんからの帰り道、もらった間取り図を見ながら唸る。
基本ジゼリィ=アゼリィの食堂でたむろしているし、家借りても寝るぐらいしかしないから、狭かろうが広かろうがどうでもいいんだ。
「あとはジゼリィ=アゼリィに投資して食堂と泊まれる部屋増築して、そこに俺の部屋作るか……とか」
ジゼリィ=アゼリィに到着し、建物を眺める。川側に土地が結構空いているので、増築は出来そうだ。
「なんだか社長が頼もしい経営者に見えてきたよ~。このままだとローエンが安心してお酒探しの旅に行っちゃいそう~あっはは~」
それやったらマジでジゼリィさんキレるんじゃねーかな。
食堂のいつもの席に陣取り、テーブルに置いた紙に書かれた間取りと値段を眺める。うーん、ジゼリィ=アゼリィの目の前だし悪くはないんだよなぁ。
唸っていると、見ていた紙に影が迫ってきて綺麗な指がスッと一箇所を指す。
さらに影が近づいてきて、その指の隣を指す。
追加でもう一つ……な、なんだ?
「私ここ~あはは~」
「じゃあ、こっちです」
「……マスター、私はここを……」
何事かと見上げるとラビコ、ロゼリィ、アプティがそれぞれ部屋を指し、自分のだと主張し始めた。
借りてもいない三つある部屋が突然全部埋まった。俺以外の住人の手によって。
「ちょ……待てお前ら。なんで俺の家なのに三つの部屋が全部埋まるんだよ! 俺の居場所リビングしかないじゃねーか!」
俺が抗議の声を上げるとラビコがウンウン頷きロゼリィを指す。
「そうだよ~ロゼリィは自分の家がここなんだから、社長の家に住む必要ないじゃんか~。私とアプティは家が無いから~しょうがなく社長の家にお世話になるけど~。だから残り一個が社長の部屋かな~」
「う……あ、そ、そうです! ラビコはソルートンに借りている家があるって聞きましたよ! ラビコはそこに帰ればいいじゃないですか!」
ロゼリィが怒りの反撃。ああ、そういやラビコはソルートンのどこかに家借りているんだっけ。
「残念ながら、もう引き払ったよ~。だからもう社長に泣きすがってお願いするしかないんだよね~。体で払うから住ませてください的な~あっはは~」
「……マスターと私は一心同体ですから、一緒の部屋です……」
二人が揉めている隙にアプティが紙に「マスターと私の部屋」と書き込みをする。
「ちょっ……何勝手に決めてるのさ~! 公平に考えたら社長はリーダーなんだから、真ん中のリビングでいいんだって~」
並ぶときに真ん中がリーダーは分かるが、住む家の真ん中にリーダーがいる必要はないだろ。いや、そうじゃなくて何でお前らが俺の家に転がり込んでくるんだよ。
「くっ……そ、そうですね。ここは公平に真ん中ですね」
「……それが平和的でしょうか……」
「リーダーだし、いいんじゃないかな~」
「…………」
俺は頭を抱え、溜息をつく。
どうやら俺が家を借りるなり、買うには最低条件として部屋が四つ必要なようだ。
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