第191話 アンリーナの船へ様
「マスター……おはようございます……」
「あ、ああ。おはよう……」
アプティに優しく起こされ、俺は寝袋から這い出る。
あれおかしいな、ラビコが横にいたはずなんだが。
見るとラビコはベッドの上でスピースピー寝ていた。
「マスターの安眠を妨げる障害はすぐにどかしました……ずっと私が横にいましたのでご安心ください……」
「そ、そう……」
走る列車の窓から差し込む朝日が眩しい。
目をしかめつつ、部屋内に備え付けられている時計を確認する。午前七時、ううーん……到着予定は十時ぐらいだからもうちょっと寝ててもよくね? まだ誰も起きていないし。
椅子に座ってぼーっと外を眺めていたら雪景色もすっかり消え、ランヤーデに近づいているのが分かる。部屋内の暖房もすでに止まっていた。ベスも起きてきて、俺の膝の上に乗る。
「みんな起きろー八時なるぞー」
八時過ぎ、みんなを起こし列車を降りる準備開始。
午前十時ちょっと前に到着し、俺達はランヤーデ駅に降りる。
混雑する駅舎を移動し外へ。
大丈夫、もう変な歪んだゲートがあっても近づかないぞ。アプティががっしり俺の服掴んでいるし。
「すぐに港に向かってアンリーナの船に行く。帰ってきたことを知らせたら、あとはアンリーナの指示に従うぞ。お土産は港に行く途中に買うことにする」
皆が返事をし、港へ歩き出す。
「シュレド、お酒のグインホークってどこで買えるのかな。宿のオーナーの好物でさ、お土産に欲しいんだ」
「お、グインホークか。あれうまいけど高いんだよなー。あ、ホラそこの商店で売ってるぜ」
シュレドがすぐ先の商店を指した。入ってみると、お店の一番奥の棚に数個それらしき箱入りのお酒が売られている。
千G払って購入し、背中のリュックに詰める。
これでローエンさん喜ぶぞ、宿のみんなには何にしようか……。
ちらちら店内を見ていたら、お酒がたっぷり染み込んだパウンドケーキがあったのでそれを五個購入。あとはかさばらない小物を買おう。
ロゼリィと相談し、お酒を使った石鹸と保湿クリームを宿の女性スタッフ用に、お酒を使ったハンドクリームと酒瓶の小さなミニチュアが付いたネックレスを男性スタッフ用にすることに。みんなもそれぞれお土産を買って、いざ港へ。
「あ、師匠ーお待ちしておりましたわー! マルタートとお聞きしていましたので、もっと日数がかかるかと思っていました」
港に泊められた多くの船の中でも一際目立つ赤いフォルムの豪華大型高速魔晶船、そこのデッキからアンリーナが元気に手を振っている。
「げっ……これってローズ=ハイドランジェのマーク入ってるが……旦那、これって本物の……」
シュレドが驚きの顔をしている。
ああ、そうかアンリーナの説明をしていなかったな。
ラビコが軽く説明をしてくれ、シュレドが余計に驚く。
「ローズ=ハイドランジェの時期当主とお知り合いとか……旦那って何者なんだ……」
うどん屋で知り合った。
ペルセフォスのカフェ計画もローズ=ハイドランジェと共同で進めるつもりだぞ。まだ決定ではないが、アンリーナに相談する予定。
「師匠ー、あぁ……この感じ、師匠ですわー」
乗船口から船に入り、待ち構えていたアンリーナに抱きつかれた。相変わらずいい服に、いい香りがする。
「待たせて悪かったアンリーナ。そして彼が王都のカフェの料理人候補のシュレドだ」
アンリーナの頭を撫でつつ、シュレドを紹介。
シュレドがズバッと勢いよく頭を下げ元気よく挨拶をし、二人が握手をする。
「なるほど、ジゼリィ=アゼリィのあの料理人の弟さんですか。それなら安心して王都のカフェを任せられそうですわね。私のお店の併設出店とジゼリィ=アゼリィとローズ=ハイドランジェの共同開発メニューも彼の腕にかかっているわけですね」
「おお、任せてくれ! 俺は多くの人に料理出して、いっぱい笑顔がみたいんだ。それにあの都会も都会、王都ペルセフォスに住めるなんて条件良すぎだしな!」
シュレドが厚い胸板をドンと叩きやる気をアピール。うむ、頼もしいぞ。
「こちらの商談も終わっていますので、明日の朝四時ごろの出航を予定しております。皆様それまではご自由にしていてください」
アンリーナが船のクルーと話をし、出港時間が決まった。
よし、帰るぞ我が街ソルートンへ。
実は魔王のところからソルートンの港に俺の頭だけ帰ってはいるが、全身はこれから帰るぜ。
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