第177話 異次元空間の主 1 買出しと歪んだゲート様
「バナナうめぇ」
翌朝、俺は皆を連れ商店街へ向かう。
宿で朝食サービスがあったのだが、キャンセルして食材が売っているお店に来た。
「うん。おいしいね~調理しないほうがおいしいってのもあれだけど~」
ラビコがバナナを口いっぱいに頬張り、房ごと買ったバナナからもう一本もいだ。
ここのランヤーデは、来るときに寄ったフラロランジュ島から新鮮な果物が運ばれてきているらしく、商店街に果物が多く売っていた。これを買ってそのまま食べるのが一番美味いんじゃないか。
「リンゴもおいしいです。あ、この桃なんか最高です!」
ロゼリィも笑顔でモリモリ果物を頬張っている。アプティはリンゴを皮ごとバリバリ噛み砕いている……一応俺が果物ナイフで皮をむいているんだが、アプティは丸ごとが好きなようだ。
商店で買い込んだ果物を持って海が綺麗に見える公園のテーブルを利用させてもらっている。
一緒に果物ナイフと簡易皿も買って、ちょっとした遠足気分。
ベスにも小皿に果物を取り分けてあげたら、一瞬で食いきった。お腹空いてたのか、まぁ昨日はほとんど食べれてなかったからな。
「しょっぱい物も食べたくはなるけど、今は我慢だな。食べ終わったら防寒着を買いにいくぞ」
「は~い、桃あっまい~」
「ふぁい、はぁーおいしいです」
「……このぐらいの固さがいいんです……」
のんびりしてたら全部食われそうだ。俺も戦いに参戦だ。
食後、商店街にあるサンマートというお店に。
いろんな服が大量に並んでいるな。これから北にあるマルタートに向かうと店員さんに言ったら、モコモコの服が並んでいるゾーンに案内された。
「私これがいいです、すっごいかわいいんです」
ロゼリィが選んだのは白い物でフードについているフワフワも真っ白。白が好きなのだろうか。
ラビコは紫の、アプティは無関心で選ぼうとしなかったが、イメージで黒を選んであげた。
俺はオレンジな、もう異世界ではこの色で行こうと心に決めた。ベスはどうしようか……犬の服なんて売ってないし人間用の腹巻をお腹に巻いてやるか。
あんまり長居するつもりもないし、あとは靴とかマフラーとか揃えればいいだろう。
どっかり買い込んで宿へ戻る道すがら、駅を下見に行くことに。
「ここがランヤーデ駅さ~ケルシィは魔晶列車が発達しているから、列車でたいがいの場所にいけるのさ~」
駅は多くの人で溢れている。
雰囲気は王都ペルセフォスの駅とは違い、雑多な感じ。
王都は綺麗で建物やらのデザインが洗練されていたが、こっちは大雑把というかなんというか雑で色も暗い。
「うーん、俺……ソルートンとペルセフォスが好きだわ」
「あっはは~慣れるとこの雑多な感じがクセになるんだけどね~。まぁ実際、ケルシィの若者はペルセフォス王都に憧れを持っているよ~。毎年多くの若者がペルセフォスに仕事を求めて移住するケースが多いかな~」
俺がボソっと呟くとラビコが裏事情を教えてくれた。なるほど、それはそれでお酒造りの後継者問題と人材不足に田舎の過疎化とやらが問題になっていそうだなぁ。
券を買う場所やマルタートまでの値段を確認していると、混雑する駅舎の中にポツンと開いた空間が見えた。
なんだろう、これだけ人で溢れ歩くのにも大変そうな混雑なのに、一ヶ所ぽっかりと誰も近寄らない空間が見える。
「…………?」
なぜかみんなそこには決して目を向けない。
見えていないのだろうか。よく見ると何やら歪んだ丸い物がその空間に浮かんでいる。
なんだあれ。
「社長~? どったのふらふらと」
俺は興味か怖いもの見たさでその空間に近づいて行く。
なんで誰もこの場所を見ようとしないんだ?
人の背丈ほどの空間の歪んだ丸い物が浮いている。
「ベスッ!!」
ベスが吼え、俺のズボンに噛み付き後ろに引っ張る。
「……!! マスター! それが見えるのですか!? いけない……!」
アプティが珍しく焦った感じで俺を止めようと腕を掴んでくる。
え、どうしたんだ二人共。なんかまずいこと……。
丸く歪んだ物の中に急に見たこともない紫の空の景色が浮かび、俺の体が吸い込まれていく。
「な、なんだ……!? 吸い込まれ……」
「!? 社長達の体が透けて……え、消え……た……?」
もの凄い力で歪んだ空間に吸い込まれ、ラビコとロゼリィの姿が遠く、小さくなっていく。
二人が慌ててキョロキョロしているが見え、俺の意識が暗闇へと落ちる。
「なんだよ……これ……くそ…………」
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