第20話 ベスの強さとお弁当販売計画様


「金が尽きた」


「ベスッ」



 愛犬ベスと抱き合う。




「ふ~ん? ベスほどの冒険者なら、国で募集している大規模戦闘に傭兵登録すればすぐに~……」


「だめだ! ベスは俺の大事な家族なんだ……」


 俺の隣でトロピカルジュースを飲む魔法使い、ラビコの言葉の途中で俺は叫んだ。



「でも~聞いたら少し前にベスをダシにレースで儲けようとしていたとか~。ね~社長~」


「う……あ、あれは一時の気の迷いで……危険がないと判断して……」


 俺がつまみ出されたことに怒ったベスが、大会運営者スタッフに吼えてしまって退場になったやつ。



「あのレース昔から知っているけど~結局は強い者の勝ち、なレースだったような~? 途中で相手の妨害自由で、結構過激なレースだよ~?」


 そ……そうだったの!? よ、よかった退場になって……。


 どうりでドラゴンが優勝していたわけだ。




「なぁラビコ」


「んん~?」


 俺はこの世界に来て以来、ずっと疑問だったことを聞いてみた。



「白銀犬士って、何」



 冒険者センターで見てもらった結果、ベスは上位職の白銀犬士と判定された。ホエー鳥のとき、その強さの一部は垣間見たが。


「う~ん、昔何匹か見たことがあるけど~騎士さんと組んで戦う近~中距離アタッカーかな~。いかんせん私は魔法使いだから~戦う場所が違って詳しくは分からないかな~。でも国単位で戦う大規模戦闘で普通に主力になるぐらいの~アタッカーだね~」


 国単位の戦闘で主力張れる実力……す、すごいんだな、ベス。


 ま、ベスはそんな危険な所には送らず、俺が愛でるけどな。



「なーベス~」


「ベスッ」


 二人また抱き合う。





 さてなんにせよお金が必要だ。手近から当たってみるか。



「すいませーん。仕込みの手伝いでバイト代出ないですか……ね」


 宿屋の調理担当のイケメンボイスさんに懇願してみた。



「ああーそれ助かるかなー。オーナーに頼んでみるよ」


 やった! 少しでも貰えれば十分です。相変わらずいい声だなぁ。






「じゃあジャガイモの皮むき頼むね」


「あいっさー! お任せを!」


 ここの宿屋兼酒場はかなり人気があるらしく、いつも混んでいる。イケメンボイスさん以外にも何人も料理人がいて、いつも忙しそうにしている。まぁ食べたら分かるわな、おいしいしここの料理。


 うず高く積まれたジャガイモを見ながら、ふとあることを思いついた。そういやここってテイクアウトって無いよな。


 俺がいた日本ではテイクアウト系のお店は当たり前だが、この世界ではあまりないんだよな。コンビニも無いし。




「あの……提案があるんですが」


「なんだい?」


 イケボ兄さんに簡単なお弁当を個数限定で販売してみないか、と相談してみた。


 時間が無くて、お店まで来れない人の層の開拓は出来ないか、限定販売というプレミア感で買ってくれる人もいるかもしれない、とか。




「なるほどなー考えたこともなかったなぁ」


「ここってお酒売ってるから、正直ガラの悪いお客さんが多いんですよ。でもここで持ち帰れるお弁当を販売することで、お店に入るのを敬遠していた女性客を取り込めると思います」


 イケボ兄さんは感心しながら俺の話を聞いてくれた。



「分かった、それ僕もすごい興味があるよ。オーナーに予算の相談をしてみようかな」




 かくして、お弁当販売で新たな客層開拓計画が始まった。









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