第156話ナレッジ大公領への帰宅

「アレク、レイモンド殿下、ベンダー男爵領での呪いの件では大変お世話になりました。呪いの事が片付きましたらまた王城に挨拶に参りますわ。その時は宜しくお願いいたしますわね」

「ニーナ様、勿論でございます。王都へいらした際はご連絡下さいませ。何が合っても駆けつけます」

「アレク……気持ちは有難いですけれど、貴方はこの国の王なのですから、執務を一番に考えて下さいませね。ああ、そうそう、大聖女神殿の事を宜しくお願い致しますわね」

「ええ、勿論でございます。目を光らせ司祭たちを見張って……いえ、再教育致します。私にお任せください」

「フフフ……頼もしいこと……」

「ニーナ様、王家の呪いの件、宜しくお願い致します」

「ええ、レイモンド殿下が無事に王位につけるよう、出来るだけ早く呪いを解いて見せますわ。ウフフフフ……こんなにも心が躍る仕事は久しぶりですの、”縁故の呪い”も”払拭の呪い”も掛けられてからこれほど長い時間が経っているのですもの、とても強力な物になっている事でしょう……ウフフフフ……解けた時にどうなるか……こればかりは私にもまだ分かりませんわ……ウフフフフ……」


 六歳の女の子が品よく笑っているだけなのだが、アレクとレイモンドはニーナの浮かべる笑顔を見てゾッとした。


 怒らしてはいけない相手を怒らせてしまった、ミラ・シェアードとジギスムント・ナンデス(シェアード)には、敵ながらも同情さえ感じていた。


 ミラとジギスムントの魂は、きっと今も成仏することなくセラの森の中を彷徨っている事だろう。


 長年の呪いの効力のせいで、二人の魂はもう魂と呼べるものでは無くなっているかもしれない。


 そう、きっと怨念のような状態で生きているのだと思う。


 彼らのその汚れた魂がニーナと対峙した時、きっと酷く後悔することだろう……


 もしかしたら反省するかもしれない。


 その時の魂の痛みはどれほどの物か……


 普通に死を迎えられなかったことを、存分に後悔することだろう。


 地獄に落ちた方がましだった……と、二人ともそう思うかもしれない。


 アレクとレイモンドはニーナがクスクスと楽しそうに笑う、幼く可愛らしい少女のような笑顔を見ながら、絶対に自分たちはニーナの敵には回らないように気を付けようと心に誓った。


 特にニーナが世界一大切にしているディオンとシェリーの事は、何が合っても王家で守らなければ! と、二人は心に決めたのだった。



「皆無事に魔法陣の中に納まったようですわね……」


 大量にあったミューの引っ越し荷物も無事に魔法袋への収納が完了し、皆魔法陣への移動が完了した。


 それを見てニーナもフヨフヨと浮きながら魔法陣へと移動する。


 ディオンとシェリーはウィルフッドとアンジェリカと別れのハグをし、危なく二人を失神させる寸前まで追い込んだ後、元気一杯に魔法陣へと飛び込んでいた。


 ニーナの弟子であるシェリル、ベランジェ、アルホンヌ、クラリッサも慣れた様子で勿論魔法陣の中だ。


 そしてグレイスはミューの荷物移動を手伝っていたので、ミューと共に先に魔法陣に乗っている。


 そしてチュルリとチャオも、これからベンダー男爵領改め、ナレッジ大公領での呪いの解呪が待っているので、ご機嫌な様子で魔法陣の上にいる。


 ファブリスは勿論ニーナ待ちだし、アランとベルナールも準備万端だ。


 そして最後にニーナが魔法陣に乗った事で出発準備は完了だ。


 家族が待つナレッジ大公領へとこれから帰る。


 皆心なしかワクワクとしている様子だった。



「アレク、ユージン殿に宜しくお伝えくださいませ」

「勿論でございます」

「それからキャロライン様にも、ミューの事をお任せ下さいとお伝えくださいませね」

「畏まりました」

「では、皆様、御機嫌よう……」


 そう言ってニーナが魔法陣に魔力を流せば、一瞬でナレッジ大公領に移動した。


 風景が王城の庭から、見なれたベンダー男爵家の庭へと移ったと思うと、そこには大好きな家族が待機して待っていた。


 メイドのザナ、料理人のエクトル、そして庭師のロイク。


 ほんの少し離れていただけだが、皆の顔を見ると不思議と懐かしく感じる。


 そして先に移動していたシェリルの御者のドラゴも家族と一緒に居た。


 その周りでぴょんぴょんと飛び跳ねて喜んでいるのは、お喋り人形のチャーターと、赤髪が特徴の人形プルースだ。


 皆の帰りが嬉しかったのだろう。


「ケタケタケター」という笑い声と「姫じゃ、姫じゃ!」と喜ぶ声が聞こえる。


 そして……


 そんな皆の横で、椅子に座り微笑む一人の男性がいた。


 ディオンそっくりな顔に、ニーナと同じ亜麻色の髪とオーキッド色の瞳。


 そしてその浮かべる笑顔が、無駄に美しい美男子。


 そう、ニーナ、シェリー、ディオンの父親であるエリクが、出迎えの家族の輪の中にいたのだ。


 椅子には座っているが、笑顔を見れば元気で有る事が分かる。


 ニーナがベンダー男爵になった事でエリクの呪いは無事解けた様だ。


 ディオンとシェリーは父親であるエリクの姿を確認すると、凄い速さで駆け出して行った。


「お父さんだ!!」

「父さん!!」


 ディオンとシェリーは飛びつくようにエリクに抱き着いた。


 四年ぶりの意識のあるエリクの姿に、二人の美しい瞳からは大粒の涙が零れる。


 そんな二人を抱きしめながら、エリクも涙を流している。


 自分が呪いを受けていたことを知っていたのかもしれない。


 だからこそエリクは尚更子供の事が心配だったのだろう。



「ディオン、シェリー、無事でよかった……」

「おとうさぁーん、良かったよー!」

「父さん、父さん、父さん!」


 感動的な家族の抱擁を目の当たりにし、皆がほろりと涙する。


 そんな中ニーナは抱きしめ合うシェリー、ディオン、エリクの下に、そっと近づいて行った。


 自分は本当の娘のニーナでは無い。


 恨まれるのではないか。


 体を返せと言われるのではないか。


 少しだけそんな不安があったため、普段ならばフヨフヨと飛んで移動するところだが、ニーナは幼い足で歩いている。


 そう、一歩一歩、ゆっくりと、ニーナの事を嫌っていないかとまるで確かめるかのようにゆっくりと三人に近付いて行った。


 ニーナにはそのほんの少しの距離がとても長く感じた。


 何故ならエリクの反応が一番怖かったからだ。


 ニーナはセラニーナだが、この体の中で寝ている姿しか見ていなかったエリクのことを、父親として確かに愛していた。


 だからこそ、嫌われたくないという恐怖があったのだ。


「ニーナ……」

「……お父様……」


 ニーナはエリクに声を掛けられ、自分の小さな体が、そして心が、エリクの姿を見て喜んでいるのを感じた。


 セラニーナとしては意識のあるエリクとは会ったことはないのだが、ニーナ本人の心が、そして体が、しっかりとエリクの事を覚えていたのだ。


「ニーナ……さあ、おいで」


 ニーナもシェリーとディオンと同じように、広げられたエリクの胸の中へ飛び込んだ。


 エリクの優しくもあり力強くもある抱擁に、ニーナの心はほっこりと温かくなる。


 セラニーナ時代、一度も感じることが出来なかった父親の愛情。


 こんな風に抱きしめられることなど無かったかもしれない……


 ニーナは今エリクの父親としての深い愛情を、腕の中に抱きしめられる事で強く感じていた。


「ニーナ……私を、そして家族を……救ってくれて有難う……」


 エリクに抱きしめられたニーナは、その温もりの中で素直に涙したのだった。




☆☆☆



おはようございます、白猫なおです。本日もよろしくお願いいたします。(=^・^=)

エリク父さん登場です!ディオンによく似たイケメンパパです。歳は32,3ぐらいかな?呪い明けでまだ元気が有りませんが、実際は若く見える予定です。ロイクと名前間違えそうで怖いです(;'∀')気を付けますね。

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