第126話呪い会議
さてさてシェリーとディオンが空のお散歩を楽しんでいるころ。
ニーナはシェリル、ベランジェ、チュルリ、チャオ、そしてファブリスと、この国の王であるアラン、そして呪い課長のブラッドリー、それから王の元補佐官で、今やニーナの下僕? いや、奴隷? いや、建前上は補佐? とでもいうべきだろうか?
そう、あの自称名推理家のバーソロミュー・クロウも、この場に一緒にいて、今皆で緊急会議を開いていた。
そう、その名も ”呪い会議”。
ベンダー男爵家の呪いを解くため、呪いに詳しいメンバーが招集された。
そう、その名も ”呪い調査隊”。
大聖女神殿で借りて来た(奪った訳ではありません)歴代聖女名簿や、王立図書館で借りた『呪い、呪われ、呪、呪い、あなたにピッタリの呪いを授けましょう』というタイトルの本を出し、呪い調査隊のメンバーは、今真剣に会議をしている所だ。
新参者のアレク、ミューがいるため、ニーナがこれまでの自分の推測を皆に話す。
ベンダー男爵家は、元はベンダ-大公の領地だったこと。
それが地図上からも、貴族名簿からも消され、セラの森までも現在の地図には載っていなかったこと。
そして一番重要なことは、ベンダー男爵家だ。
呪いを受けた事でこの国から隔離されているのか、放置されていたのか。
捨て置かれたニーナたちの母親であるアルマは、実は貴族学校にも通っていなかったのではないかとニーナは推測していた。
それにこのベンダー男爵家の連鎖する呪い。
これはベンダ-大公が、王子であったことが深く関係しているとニーナは睨んでいた。
ベンダ-大公は呪いを理解し、全てを背負い王家から離れ、ベンダ-大公領に移り住んだのだろう。
そして呪いは時間が経つほど強力なものとなり、ユビキタスの町を飲み込んだ。
あの呪いは人々の負の力を使い、呪いをかけたものが亡くなった今も、より深く、より濃い呪いとなっている。
そして文字の無かったベンダー男爵家。
これはこの呪いの存在を世間に知られまいと、元の呪いとはまた別の人間が掛けた呪いでは無いかとニーナは睨んでいた。
それがベンダー男爵家が大公家から男爵まで落とされ、無きものとして扱われていた理由では無いかと思っていた。
話を聞き、アレクがハッとする。
「ママン……いえ、ニーナ様、もしや私の母が亡くなったこともこの呪いと関係しているのでしょうか?」
「ええ、アレク、ベンダー男爵家は隔離されたことで、情報がきちんと行き届かなくなったのではないか? と私は思っております。その為、呪いをベンダー家だけでは防ぎきれなくなった。大聖女神殿からの祈りも、もしかしたらセラ(ユビキタス)の森までは届かなくなったのかもしれません……」
「もしかして……私の妻が亡くなったことも……?」
「ええ……貴方が即位してすぐにエレオノーラは倒れましたね……それはベンダー男爵家が呪いを抑えきれなくなったからでは無いかと私は思っております……」
「そんな! ではもし今レイモンドに王位を譲ったら……」
「ええ、今度はレイモンドの妻であるオフィーリアが呪いを受けることでしょう……今のベンダー男爵家は母がおりません……ベンダー男爵家の跡を継ぐ者が決まっていない今、呪いは全て王家に降り注ぐ可能性があります……」
「そ、そんな……」
アレクの母はアレクの父が即位し、数年で亡くなった。
元気だったアレクの母はある日突然倒れ、そのまま帰らぬ人となった。
それがまさか昔から続く呪いが原因だったとは、アレクは全く気が付かなかった。
それに妻のエレオノーラも。
アレクが即位し、やはり数年後に突然倒れそのまま亡くなった。
ベンダー男爵家の受けている呪いは体中に痣が出来る物らしいが、王家の者は突然命を奪われるもののようだ。
それはベンダー男爵家が抑えきれなくなった呪いがそのまま降りかかり、その場で命を持っていかれる、そんな感じなのだろう。
それも呪いを掛けられた本人ではなく、愛する人の命を奪う呪い。
母も妻も亡くしたアレクは、呪いをかけた人物と、それを隠蔽しようとした人物に対し、今酷い怒りが込み上げていた。
絶対に許さない!
子孫がいたら全員打ち首にしてやる!
愛するものを二人も奪われたアレクの憎しみは、物凄いものだった。
「アレク、落ち着きなさい……今はまだ私の仮説でしかないのですよ……」
今のアレクはフーフーと息遣いが荒くなり、握りこぶしを作っている状態だ。
もしアレクの妻や母に、ベンダー男爵家の父、エリクのような症状が出ていたとしたら。
セラニーナ時代のニーナが、いち早く呪いの存在に気が付いていたことだろう。
けれど妻も母も、何の前触れもなく突然倒れた。
だからこそ誰も気が付かなかったのだ。
誰かは分からないが、深い憎しみを王家に向けていた。
醜く、狡猾で、人をあざ笑い、悲しむ姿を見ては喜ぶ。
アレクはそんな残酷な呪いをかけた人物が、憎くてしょうがなかった。
「アレク……」
ニーナは涙を流すアレクの手に、そっと自分の手を重ねた。
ニーナの家族も、弟子たちも、もう誰も悲しませはしない。
ニーナは自分がこの呪いを必ず解く、そう決意していたのだ。
ただし……
母がいない今、ある変更をしなければならなかった。
そう本当の意味でのベンダー男爵家の跡取りは父親のエリクではなく、ニーナの母のアルマだ。
母がいない今、成人していないニーナたちでは跡取りを名乗ることは出来ない。
けれどそれを王であるアレクの力を借り、変更しようとニーナは企んでいた。
そうすれば呪いも全てニーナに掛かってくる。
まあ、先ずはニーナの仮説をしっかりと裏付けしてからの話にはなるが……
神にまでなったと言われているセラニーナが遂に本気を出した。
それは途轍もなく巨大な力で有る事だけは間違いないのだった。
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