第70話ニーナの家族紹介

「まあ、まあ、貴方達なんて顔をしているんです? もう大人なんですからしっかりなさいませ」


 ニーナはポカンとして自分を見つめる弟子達に笑顔を向ける。


 ベンダー男爵家の子供達は無駄に顔が良い。


 それは6歳児のニーナも当然の事だ。


 クスクスと口元を隠し笑うニーナは美少女そのもの。


 その上セラニーナが身に付けた淑女としての品の良さがある。


 けれどそんなニーナの見た目に反して、その抱える魔力は莫大な物だった。


 セラニーナの弟子として生きたベランジェもシェリルも、そしてニーナの護衛として鍛え上げられたクラリッサもアルホンヌも、その異様な少女に只々目を奪われていた。


「そちらの方達は初めてお会いしますわね。お名前をお聞きしても?」


 弟子達四人が現実を受け止めるのを待つ間、ニーナは残りの三人に声を掛けた。


「はい! ニーナ・ベンダー様! お会いするのをとっても楽しみにしてましたー! 僕は呪い課に在籍してましたチュルリでーす。宜しくお願いしまーす」

「フフフ、チュルリさんね。可愛い子だこと、宜しくお願い致しますわね」


 チュルリは可愛すぎるニーナの笑顔にキュンとなる。


 会いたかったニーナ・ベンダー様がこんなに可愛いだなんてっ!!  


 と内心大喜びだ。


「ニーナ様、初めまして、俺は呪い課にいましたチャオです。お会い出来て光栄です。宜しくお願い致します」


 チャオがそう言って頭を下げると、チャオとベランジェだけが一瞬キラキラと光った。


 ニーナは二人がお風呂に入っていない事が分かったのだろう、綺麗好きなニーナがそれを見逃すはずは無かった。


 チャオとベランジェはここで丸裸にされてお風呂に放り込まれなかった事を喜ぶべきだろう。


 ニーナなら遠慮なくやりそうだ。


「チャオさん、貴方も呪い課の方なのね。とても心強いわ、これから宜しくお願い致しますわね。あ、でもお風呂にはキチンと入って下さいませね。お金は貯めても良いけれど、バイ菌を溜めるのは許さなくってよ」

「は、はい! 気を付けます!」


 ニーナは笑顔を浮かべているが、その目は笑っていなかった。


 その迫力に普段飄々としているチャオがギョッとする。


 どんなに見た目が可愛くっても、目の前にいるのは得体の知れない何か。


 ニーナ・ベンダーの恐ろしさをチャオはこの一言で理解した。


 それに何よりもベンダー男爵家には大切な姉のシェリーと可愛いメイドのザナがいる。


 汚らしい男性は近づけません! とニーナは本気でそう思っていた。


「あ、あの、ニーナ様初めまして、事務課のグレイスと申します。今はベランジェ様の補佐をしております。宜しくお願い致します」


 グレイスは事務課で鍛え上げられた75度ピッタリのお辞儀をしてニーナに挨拶をした。


 ニーナはその様子を見て微笑む。


 決して自分の良い補佐になりそうな青年だと、グレイスに狙いを定めた訳ではない……筈だ。


 ベランジェのお世話ができるだなんて……仕事が出来るいい子でしかない。


 ニーナはそう気が付いていた。


「フフフ、グレイスさん、ベランジェは手が掛かる子でしょう? 補佐は大変でしたでしょうに、有難うございますわね」

「い、いえ、そんな!」


 可愛い。


 ニーナ・ベンダー様は可愛すぎる。


 その見た目に騙され、グレイスはあれ程怯えさせられた呪いの葉書の件など忘れ、スッカリニーナに魅了されている。


 可愛いは無敵。


 ニーナは色んな意味で最強の存在だった。


「フレーべ、裏庭にいる私の家族を呼んで来てくださる?」

「マダム、畏まりました」


 ニーナがフレーべに家族を呼んで来てと頼んだ事で、弟子達がやっと覚醒をした。


「「「「家族?!」」」」


 と四人の驚く声が部屋に響く。


 今やニーナよりかなり年上の弟子達を前に(困った子達ね)と優しく微笑むニーナの姿を見て、チュルリとグレイスは頬を染める。


 可愛い。


 ニーナ様笑顔がマジ可愛い。


 そんな中チャオは周りの事など気にすることもなく、美味しいお茶に舌鼓を打っていた。


 これまでのどのお茶よりも美味い。


 お茶好きのチャオはそれだけでもこの場に付いてきた甲斐があると喜んでいた。




 そしてフレーべに連れられて裏庭を満喫していたベンダー男爵家御一行プラス、カルロが部屋へとやって来た。


 先ずは元気いっぱいのシェリーが皆に挨拶をする。

 

 ここ迄ベンダー男爵家でシェリーは淑女教育を頑張って来た。


 その成果の見せ所だ! 


 まあ、部屋へと元気いっぱいに飛び込んできたところには目をつぶろう。


 そこは顔面偏差値の高さでカバーする。


 ニーナの微笑みが ”静” ならば シェリーの微笑みは ”動” だろう。


 タイプの違う美少女の登場に弟子たち一行は目尻が下がった。


「えーと、ニーナのお弟子さん? こんにちはー、ニーナの姉のシェリー・ベンダーです。宜しくお願いいたします」


 皆シェリーの挨拶を受けて、うんうんと笑顔で頷く。


 可愛いは正義。


 シェリーは文句なしに可愛かった。


「こんにちはー、ようこそいらっしゃいました、ニーナの兄のディオン・ベンダーです。宜しくお願い致します」


 ニカッと笑ったディオンは、いたずらっ子っぽい笑みを浮かべ皆に挨拶をした。


 兄なのに可愛い。


 男の子と分かっていても可愛くって仕方がない。


 この美少年がニーナの兄と聞いて皆納得だ。


 ディオンもシェリーも皆とにかく顔が良い。


 下手したら街を歩いただけで誘拐されるレベルの可愛さだ。


 ただし、ディオンの纏うオーラは既に騎士そのもので、それもそんじょそこらの騎士では相手にならないほどの物だと分かった。


 その様子にクラリッサとアルホンヌがニヤリと笑う。


 久しぶりに鍛えがいがありそうな人間に会えた、そう思っている笑みだった。


「ニーナ様のご友人方、初めまして、ラベリティ王国第一王子、アランデュール・ラベリティでございます」


 アランが名乗ると、またまたニーナの弟子たちご一行はポカンとなった。


 そう我関せずだったチャオでさえ、お茶を噴き出しグレイスにぶっ掛けていた。


 隣国の王子が何故?


 ニーナ様は一体何をやっているんだ?


 弟子たちご一行はニーナに会ってからのほんの数分間、可愛そうなことにとにかく驚いてばかりなのだった。

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