第25話素直な二人

「わ、私どもは……その……」

「アラン様……」


 アランが何か言いかけたところで、ベルナールが首を振り言葉を制す。


 そんな二人の姿を見て、この二人はやはり貴族としては劣等生だとニーナは思った。


 先ずはアラン。


 ニーナからの質問に動揺し、それが顔に出て居る。


 そしてベルナール。


 主の言葉を制すのも勿論だが、ベンダー男爵家に着いてニーナたちと向きあうまでは、二人で話す時間は十分にあったはず。


 なのに主と何の打ち合わせもせずにいた事は従者としてはあり得ない。


 それはアランとベルナール二人に言えることだが、これでは何か有りますと自ら言って居る様な物だ。


 そしてもしこの二人を庶民の世界へと放りだせば、すぐに騙され落ちて行く事だろう。


 世間知らずで有り、貴族の世界の事も分かっていない。


 この二人が相当な箱入り息子であることはニーナにはすぐに分かった。


 そしてそんな頼りない子達を、今晩一晩だけでこのベンダー男爵領から追い出すことは出来はしないとニーナは溜息をついた。


 けれど……


 この二人が居ればベンダー男爵家の役に立つことはニーナには分かっていた。


 後は二人がどの道を選ぶか……だろう。



 二人を落ち着かせるために一つ咳ばらいをすると、ニーナは微笑んだ。


 その横でディオンはあれだけ食事を摂ったにも関わらず、出されたクッキーに手を出し、シェリーもまたドレスが汚れようが無いクッキーならば大丈夫だろうと、二人でむしゃむしゃと食べていた。


 ニーナはそっとファブリスに目配せをし、これからアランとベルナールに話をすると教えた。


 話を聞きニーナの事を可笑しい子供だと思ってこの二人が出て行ったとしても、別にベンダー男爵家には何の問題も無い。


 ここに残ると言えば、それはニーナとって都合がいいだけだ。


 こちらから寄り添ってみようとニーナはそう考えて居た。



 ニーナの小さな咳ばらいを聞いて、コソコソとやり取りを広げていた二人はハッとして押し黙った。


 そして居心地が急に悪くなったような表情を浮かべ、これからどうしようかと悩んでいるように見えた。


 直ぐに顔に出る二人の様子に笑みを浮かべながら、ニーナは話を始めた。



「お二人とも落ち着いて下さいませ。私は別にあなた達の秘密を教えろと言っている訳ではございません」

「あ……そ、そうです……よね……」


 指で頬を掻きながらアランは苦笑いを浮かべた。


 きっと本当は全て吐き出してしまいたかったのかも知れない。


 けれどそれは本人が前を見れる様になってからで良いだろうと、ニーナは思っていた。


「アラン様、ベルナール様、お二人は私に聞きたい事はございませんか?」


 自分達は何も言えないのに、ニーナ達の事だけ話して聞かせろと言うのも申し訳ないと思ったのか、二人は困った表情になった。


(フフフ……本当に顔に出る方達ですわね……)


 ニーナがどうぞ遠慮なくご質問下さいと言えば、アランが恐る恐る口を開いた。


「あの……貴女は子供ですか?」


 その質問にはニーナでは無く、ディオンとシェリーが答えてくれた。


「ニーナはねー、6歳だよー、あた……私は8歳です」

「俺は10歳です。それで二人は俺の妹とだよ」

「ああ……妹……? ですか……えーと、それは……本当に?」

「本当だよ。でもね、ニーナは凄いの、私にお勉強教えてくれるんだよ」

「俺もニーナに魔法習って強くなったんだー、今日だってあんな強い魔獣倒せたんだー」

「確かに……君は強かった……」


 ディオンの言葉に二人は納得顔で頷く。


 ニーナにしてもディオンの成長は予想以上だった。


 騎士としての動きでは無いかも知れないが、もう暫く森通いを続ければ、ディオンは近いうちに一人で森に行ける実力を持てる事だろう。


「お兄ちゃんももしかして強くなりたいの?」

「えっ?」


 シェリーの言葉にアランは目を瞬く、”強くなりたい” その言葉にアランは反応した。


「ベルナールの兄ちゃんは? 強くなりたいの?」

「ふぇ?」


 アランを見つめていたベルナールは急にディオンに話を振られ驚く。


 そしてアランとベルナールは見つめ合うと幼い二人に頷いて見せた。


「だったらね、ニーナに相談するといいよ」

「そう、そう、ニーナは聖女様だから何とかしてくれるよ」

「「聖女様?」」


 アランとベルナールは驚きニーナを見つめる。


 聖女見習いならまだしも、6歳の聖女など聞いた事が無いからだろう。


 二人に見つめられたニーナはニッコリと微笑む。


 ディオンとシェリーの言葉に肯定も否定もしない。


 正しく言えばニーナ自身は聖女ではない。


 元聖女だ。


 けれど二人には今はそんなことはどうでも良い事だろう。


「アラン様、ベルナール様、今後のご予定はございますか?」


 二人は黙り首を振る、これからの当ては何も無いようだ。


「暫く我が家に滞在されませんか?」

「えっ?」

「勿論我が家では頼れる両親が病気がちですので、お手伝いをしていただか無ければなりませんが、それでも宜しければ幾らでも我が家に居ていただいて構いませんよ」


 二人で相談する時間が必要だろうとニーナは思ったが、それは要らぬ気遣いだった様だった。


 アランとベルナールは頷くと頭を下げて来た。


 こうしてベンダー男爵家には、森で拾った新しい家族がまた増えたのだった。

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