森で拾った二人

第23話お客様

 ベンダー男爵家に森で拾った二人の客を連れて戻り、先ずは泥まみれの状態を綺麗にする為お風呂に入って貰う。


 ベンダー男爵家の屋敷は水が豊富で、遠慮なく水を使う事が出来る。


 客室の浴槽にたっぷりと水を張ると、ディオンが魔法でお湯にする。


 今は日常的に家事魔法を使い訓練を行っていた。


 けれど少しだけディオンの魔法の威力は強かったようで、お湯にしたのは良いが、沸騰寸前の熱々になってしまった。


 流石にこれは客人が可哀想だと、ニーナがサッと魔法で調整をする。


 ディオンは失敗したことが納得いかなかった様で、ファブリスの部屋と、自分の部屋のお風呂で再度挑戦するのだと、勢い良く客間を飛び出して行った。


 残されたニーナとファブリスは客人と向かい合う。


 取りあえずゆっくりと話をするのは夕食時で良いだろう。


 先ずはどう見ても、暫くお風呂に入っていないと分かる程の汚れと臭いを、二人にはどうにかしてもらいたかった。


 ファブリスも同じ意見だったのだろう。


 二人に着替えを渡すと、浴室へと押し込んでいた。


 それを見送った後、ニーナも森での汚れを落とす為に自室へと向かう。


 ニーナ達が客人を連れて帰って来たことで、メイドのザナは大忙しだ。


 シェリーは有難い事に廊下に落ちた皆の泥を魔法で掃除していた。


 シェリーはすっかり家事魔法の掃除は習得出来ていて、廊下はとても泥の付いた靴で歩いたとは思えないほど綺麗になっていた。


「お姉様、お掃除有難うございます。魔法とても上達されましたね」

「ほんと?! ニーナもそう思う?!」

「本当ですわ。お姉様もお兄様も、短期間で驚くほど成長されていらっしゃいます。これならば学園入学前にかなりの魔法が使えるようになりそうですわね」

「えへへ、やったー、ニーナに褒められるとあたし……私、とっても嬉しいのっ!」

「フフフ、私もとても嬉しいですわ。あ、そうそう、お姉様、今日は大物のお土産がございますのよ」

「お土産? えー、ニーナなになになに?」

「フフフ……私、これからお風呂に入りますの、お姉様も宜しければ一緒にいかがですか? そこで森のお土産のお話をいたしましょう」

「うん! 入るー!」


 ニーナはシェリーと手を繋ぎ、自室へと話をしながら向かう。


 森で沢山の魔獣を倒したことで、少し疲れていた体が、シェリーの笑顔を見ると癒される。


 シェリーは今日ザナとどこを掃除したのか、そしてロイクの庭の手入れを手伝った話など、嬉しそうにニーナに教えてくれた。


 ニーナは森で出会った魔獣の話をし、お土産に美味しいカリュドーンを捕まえて来たこと、それに蜘蛛魔獣モノリスも捕まえた事、それからドラゴンには残念ながら会えなかったことも話した。


 背中をお互いに流しっ子しながら姉妹は話に花を咲かせる。


 内容が魔獣の解体のやり方では無ければ微笑ましいところだが、ニーナはどんな時でもこれからのシェリーに必要になることを話す癖があった。


 町中では普通の姉妹を演じられるようにと、そんな注意するものはこの屋敷にはいない。


 シェリーやディオンの教育ばかりに気持ちが行ってしまうニーナは、すっかり自分が幼い子供だという事が抜けているのだった。


「あー、私も早く森に行きたいなー」

 

 ニーナが魔法でシェリーの髪を乾かしていると、シェリーがそんな事を言ってきた。


 それを聞きニーナは今日の森での様子を考えた。


 ディオンは魔獣を前にしても特に怯えた様子もなく、急所を教えればそこを狙い攻撃することが出来ていた。


 そしてファブリスは、放っておいても森の中で一人で生きていけるタイプだ。


 自分の気配を消し、魔獣さえも騙すことが出来るだろう。


 そう考えればシェリーを森へ連れて行く事は、それ程難しい事では無かった。


 ニーナは髪を乾かす手を止め、シェリーに声を掛けた。


「お姉様、次回は一緒に森へ参りましょう」

「えっ? 良いのっ?!」

「はい。お姉様も少しづつ魔獣を倒す練習をした方が良いでしょう。森に住むベンダー男爵家の子なのですから」

「うわー! やったー!」


 シェリーのはしゃぎようは可愛かった。


 ニーナは微笑ましくそれを見つめ、シェリーは室内で創作ダンスを踊っていた。


 そして二人は継ぎはぎがあるとはいえ、それなりに可愛いドレスを着て食堂へと向かった。


 お客様を食事にお誘いしたという事で、ディオンやシェリーのマナーの練習に丁度いい。


 ファブリスにお願いをして、ディオンにもそれなりの服装を整えて貰う。


 カトラリーをきちんと使ってのディナーに、二人を慣れさせたかった。


 ニーナが初めて二人の食事姿を見た時のショックは言うまでもないだろう。


 それからはせっせとおやつを作り、夕食では美味しい食べ方だとマナーを教え、二人には最低限のマナーはし込めたはずだった。


 それを今日自分の目で確認しようとニーナは思っていた。



 食堂に着くと客二人は既に待っていた。


 白いシャツに男性物の有り触れたズボン姿だが、二人の立ち姿には品があった。


 森で半分腰を抜かしていた人間と同一人物とは到底思えない。


 本来ならば森へなど足を踏み入れる必要のない人間。


 二人の姿を見てニーナはそう感じていた。




 ニーナとシェリーが食堂にきたことに気が付くと、二人の男性は頭を下げて来た。


「先程は助けて頂き有難うございました。ご挨拶が遅くなりましたが私の名はアラン、そして横におりますのがベルナール。姫様のご厚恩に心よりお礼申し上げます」

「アラン様、ベルナール様、どうぞ面を上げて下さいませ。私は姫でもなんでもございません。私はベンダー男爵家次女、ニーナ・ベンダー。そしてこちらが姉のシェリー・ベンダー。それと先程森で会いましたのは兄のディオン・ベンダーと、我が家の執事ファブリスですわ。困っている時はお互い様ですもの、どうぞお気になさらず気軽にお過ごしくださいませ」


 ニーナの言葉に二人がまた頭を下げると、ディオンが勢い良く部屋へとやって来た。


「腹減ったー!」


 と客人の前でも普段通りのディオンの姿を見て、笑顔を浮かべながらも心の中で頭を抱えたニーナなのだった。

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