後出し
【キヨシも初めこそは怒っていたが、綺麗だと許してくれた。二人はやはり似ている】
勝手にタトゥーなんて彫られたら誰だって怒るって。聞けば、キヨシの手首に彫られたタトゥーは藤の花の形をしていたらしい。人によって柄が異なるのは面白い。
ダリアとバンズの手首には何が彫られているのだろうか?
「ダリアとバンズは、なんの花が彫られてるの?」
「花はないです。私の鍵は枝のみです」
「僕は葉っぱだけ」
「そうなんだ。私にはこんな花が咲いているよ」
手描きで紙にタトゥーの絵を描いてみたが……絵心ゼロのため、棒に石ころがついているようなゴミが仕上がる。
ダリアとバンズに加えて二人の父親も憐れんだ表情で慰めてくる。やめて。
捨てようと丸めたゴミ絵をギンが欲しがる。
「ギンちゃん、あげるけど……人前に出すのはダメだよ」
「だえ!」
不安だ。ギンちゃんのお宝セレクションの全てが不安だ。そんなことを考えていたら、ダリアたちの父親が、イシゾウに膝を突き礼をする。
「長老様、本日はありがとうございました」
【ホブゴブリン、家族が無事で良かった】
「はい、カエデさんには感謝しかございません」
ダリアたちの父親がこちらを向き、深々と頭を下げる。
イシゾウも威厳のある響くような声で言う。
【カエデ、ホブゴブリンの里は其方を歓迎することを宣言する】
「あ、ありがとう」
急に畏まった宣言に戸惑いながらも礼を言う。
イシゾウとの面会はこれで終了のようだ。帰ろうと入ってきた方向に向かう。
【まて、帰る前に紹介したい者がいる。二人とも入れ】
イシゾウがそう言うと、大理石空間の外で待機していた初めに出迎えてくれた二人が中へ入ってくる。
長老の補佐だと言う髪の長い50代に見えるホブゴブリンと20代に見える黒に近い暗緑色の髪の女性。女性は、やはり他のホブゴブリンと同族には見えない。
【二人を紹介する。私の補佐のホブゴブリン。それから——】
分かってるって! どうせ全員ホブゴブリンだろ。もう紹介の必要なんて——
【サダコだ】
「……は?」
【聞こえなかったか? サダコだ】
イシゾウが声の音量を上げ再び言う。
いや、イシゾウの声は聞こえてるって。疑問はそこじゃないから!
サダコが軽く頭を下げ挨拶する。
「初めまして、サダコです」
サダコはとても礼儀正しいが、こちらへ向ける瞳の奥からは憎しみのようなものを感じる。敵意には敏感なので気のせいではないと思う。人間が嫌いなのだろうか。今まで出会ったホブゴブリンは、皆フレンドリーだった。なぜ、サダコに敵意を持たれているのかは気になるところ。
「サダコは、ホブゴブリンって名前じゃないんだ」
【ホブゴブリンは木こりの息子の名前だ】
イシゾウに横から名前の言い間違いを訂正される。
イントネーションの違いから木こりをしているホブゴブリンの息子の名前を言ったらしい。めんどくさい! 誰か、このホブゴブリンの全員が同じ名前に聞こえてしまうのをどうにかして!
いや、それよりも今重要なのはサダコって女性のことだ。
「サダコって日本人なの?」
「私はホブゴブリンです!」
サダコが声を荒らげて言う。何か地雷を踏んだようだ。
【サダコ、カエデに理不尽に怒りを向けることは許さない】
「申し訳ございません」
サダコがシュンとした様子で視線を床へ向ける。
【カエデ、サダコはキヨシの娘だ】
は? はぁぁぁぁぁぁ!?
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