カステラ
ダリアとバンズの母親に連れられて向かったのは丘を利用した穴蔵ハウスのひとつだ。ちゃんと窓がついており、家の周りは草花で覆われていた。
ダリアたちの父親は、今日の捜索隊が出発する前に知らせに行くと急いでどこかへと走っていった。
ダリアとバンズは子供並みの身長で彼らの両親はダリアたちより身長は高いが私よりも低い。でも身体はずっしりとしており力が強そうだ。実際、あの村の近くで会った中年ホブゴブリンの抱えていた木材の量も半端なかった。
「ここが私たちの家よ。フェンリルの二匹はどうしましょう?」
ダリアの母親がちょっと困った表情でユキたちを見る。
「外で大丈夫です」
「そうね。家の中は彼らには窮屈でしょうね」
家の中に案内されたけど、全体的に作りが小さい。座るよう言われた椅子に座ると心地よかった。こちらの世界の人族は高身長。ロワーでは椅子も長身に合わせて作ってあったので、私の足の長さだと殆どの椅子が爪先立ちだった。この椅子、ちょうどいいじゃん。
ダリアとバンズもテーブルを囲んで座る。二人とも帰宅できたことに安心しているようだ。
「二人とも良かったね」
「「はい!」」
ダリアの母親がトレーに飲み物と四角い形をしたカステラらしき食べ物を運んでくる。
「夕食はまだだけど、お腹が空いたでしょ? カエデさんもどうぞ」
「ありがとうございます」
お茶だと言われたのは、赤い色をしていた。飲んでみるとルイボスティーのような味のお茶だった。
カステラは甘さ控えめだが美味しい。
ダリアとバンズも口いっぱいにカステラを頬張っている。このカステラの雰囲気は水パンに似ている。道理で二人は水パンを好きなわけだ。
「ギンも~」
「うんうん。ギンちゃんもね」
ギンにカステラを少し切り分けると、その上で根を張って停止した。水パンもだけど、ギンちゃんに人の食べ物を色々与えて大丈夫なのかな?
左肩の黒い球に視線を移す。これもカステラあげたら食べる?
試しにカステラを切り、目の前に出すが反応なし。球に押し込んでみるとカステラが吸収されていった。
これブラックホール的な奴? 内ポケットに入れていた、以前握りつぶした駄作の絵を黒い球に押し込んでみる。普通に吸収されたが、秒で丸まった紙が吐き出され顔に当たる。
くっ。ブラックホールではないが、なんか嫌な感じ。
ダリアの母親が微笑みながら尋ねてくる。
「妖精女王様と黒い妖精様もカステラを気に入っていただいて嬉しいわ。カエデさんも、もう一切れいかが?」
カステラは、ここでも同じ呼び名で呼ばれており勇者キヨシ臭がすると思ったら、案の定そうだった。元は肺の病気の薬と教えられて作った物らしいが、ホブゴブリンは妖精、『人の病気なんかにはかからないのに』とダリアの母親が笑う。
「薬と言われたけど、今はみんな美味しいから作るのよ」
「勇者キヨシはいつここにいたの?」
「そうね。いつだったかしら? そんな前ではないのよ。人族の時間——」
ダリアの母親の言葉を遮るかのようにドアがバァンと乱暴に開き、一人のホブゴブリンの青年が入ってくる。
「ホブゴブリン、ホブゴブリン! 二人とも無事か!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます