鼠御一行さま

 ああ! もう!

 なんなん! この液!

 

 樹液のような琥珀色の液体は触ってもベタつく以外は特に問題はない。ただ、ムワッとした甘い匂いが漂うだけ。単なる嫌がらせ? 何がしたかったん? 


「だえ!」


 ギンが肩の上でジャンプしながら怒る。急にあんな風な液掛け不意打ちをくらったら、流石に防ぎようもない。ギンとついでに黒い玉にも液が掛からずに済んだのが救いだ。特に黒い玉は洗うのが面倒そう。


「ギンちゃん、大丈夫だよ。特に害はなさそう。変な甘い匂いがするだけ。次あいつ出てきたら速攻で焦がしていいから」


 もうここの妖精は出会い頭に全部スパキラ剣でズタズタに切り裂いて行こうかな……ダリアとバンズの手前遠慮していたのもあるけど、会話して強制転移の可能性を避けたかった。

 でも、会話が成立する前にズタズタに切り刻めば万事解決じゃね?

 一つ目の悪霊妖精……まだこっち見てるし。あいつらから切り刻むか? 


「カエデさん、大丈夫ですか?」


 ダリアとバンズがユキとうどんから降り駆け寄ってくる。大丈夫だと伝えたが、服にべっとり付いた樹液をタオルで拭ってくれる。

 樹液は少しだけ取れたけど……


「ダメ。逆にタオルの繊維が服につく。タオルも洗濯だね。確か服の換えがあったはず——」


 え?

 チラッと見えた2匹の一つ目の悪霊妖精がやって来た森の方角に向かって指をさしている。


(何あれ? 気味が悪いんだけど)


「ヴュー」

「ユキちゃん、どうした?」


 ユキだけでなくうどんも一つ目の悪霊妖精が指差す方向を睨みながら唸る。

 ユキの上に立ち、双眼鏡を覗き指がさされた方向を確認する。


「砂埃? ん? んん? えぇぇ」


 はい。鼠御一行さま。

 多分、あれはハデカラットの集団。猛スピードで絡まり大きく膨れ転がりながらこちらへと向かってくる。最悪。何匹いるか知らないけど、砂埃が舞うレベル。

 一つ目の悪霊妖精があれを呼び込んだのかと睨みつけるがどこにも姿がない。おい! いなくなってるし!

 鼠ボール、多分じゃなくて絶対こっちを襲ってくる気満々なんだろうな。


「森の動物も妖精もちっとも可愛くない!」


「だえ~?」

「ギンちゃんは別枠だよ」

「あの……」

「ダリアとバンスも別枠」

「ヴュー」

「なに? ユキちゃん」


 ユキの圧を感じる。冗談だってば!


 徐々に巨大化する鼠ボールは、双眼鏡越しでなくとも肉眼でも見えるレベルまで膨らんでいく。

 ハデカラットの鼠ボールだと認識したうどんが歓喜の声を上げる。


「キャウン」

「うどん、ノー」


 うどん、後から好きなだけボールを投げてあげるから!

 素早くバンズをユキに乗せ声を上げる。


「ダリアもうどんに乗って、一気にホブゴブリンの村に行くよ!」


 ダリアとバンズもユキたちの上に乗った事で、肥大した鼠ボールが視界に飛び込み驚きの声を出す。二人の声は、すぐにユキとうどんの全力疾走で掻き消される。

 走り出してすぐに地面からもポコポコとハデカラットが飛び出してくる。

 ユキとうどんがハデカラットの頭が地面から出てくる度に氷柱で貫く。リアルモグラ叩きじゃん。


 背後を見ると鼠ボールが先程よりも二倍の大きさに膨れ、傾斜を転がりながら速度を上げる。

 モグラ叩きがなければ、ユキたちの足の速さで逃げ切れられただろうが——


「ユキ、うどん、二手に分かれて!」

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