迷いの森

 迷いの森に入って一時間ほどが経過。

 無事に進んでいるが、確かに独特な雰囲気を放つ森ではある。

 滅多に人が足を踏み入れないのか、原生林が生い茂る神秘的な森だ。魔物の気配もしない。

 ユキたちには乗らず徒歩で足場の悪い道を進む。ユキに乗り、これだけ生い茂った森を走るのは危険だと判断。主に私の顔が……

 気掛かりな顔で森を進むダリアを呼び止める。


「ダリア、大丈夫?」

「はい。森が以前より活性化していて驚いているだけです」


 ダリアが言うには、森が以前より成長しているらしい。私にはそれがどう言う意味かよく分からない。


「そうなんだ。里の近くもこんな雰囲気?」

「里の近くは平原です」

 

 森なのに平原? 行けば分かるか。

 今の進むスピードだと予定よりも時間が掛かりそうだけど……何故なら、ダリアは辺りを執拗に警戒、バンズはしっかりと目を閉じダリアの手を握って歩いている。

 前回もバンズが妖精に反応して転移させられたと言う話なので対応としては間違ってはいないだろうけど……


「バンズ、あと二日も目を瞑って歩くの? 逆に危ないと思うけど」

「でも……」

「ギンもいるし大丈夫だよ。多分」

「分身さまを信じます」


 ベニはギンがいれば迷いの森も大丈夫だと豪語していた。肩に座りながら足をブラブラさせているギンを見ると、やや不安にはなる。


 更に進むこと数時間、生い茂った部分の森を抜け、湾曲した形の木々が無数に蔓延るエリアに到着した。空気は澄んでいて美しい景色のはずだけど、木の曲がり方が歪で背中が少しゾワゾワした。


「なんだか落ち着かない感じの場所だね」

「ここは『曲がりの木』の区画です。悪戯妖精が多い場所なので気を付けて下さい」

「了解。ここを越えるのはどれくらい時間がかかりそう?」

「以前と同じならそんなに時間は掛かりませんが、森が成長しているので色々と変わっているかもしれません」


 ここならユキたちに乗って進める。一気に曲がりの森を抜けてから野営の場所を探そう。

 ユキに跨がろうとしたら、カサカサと茂みから音が聞こえた。

 魔物? 唇に人差し指を置き、アイスピックを右手で装備。息を飲むダリアとバンズの背後の茂みに進む。


「ギン、どう?」

「悪戯妖精だえ~」

 

 姿を確認したいが、無視を徹底するということだったので、茂みから離れダリアとバンズと視線だけで会話する。


(悪戯妖精、さっさと無視して行くよ)


 ダリアとバンズもコクコクと頷き静かにユキたちに乗った。

 さっさとこの歪な森を抜けよう!


【ねぇねぇ、どこ行くの?】

「森を——あ」

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