迷いの森へゴー

 ユキたちに乗りガーザの街方面へ向かうフリをする。こちら方面は結構道が整っていて平地が続いている。今のこの早い時間帯でも行き交う商人や農民がいるのでユキとうどんもゆっくりと走る。

 隣にいるダリアに後方の様子を尋ねる。


「まだ見てる?」

「はい。まだ見えてると思います」


 振り向くと、小さいが双子たちが手を振っているのが見える。


「もう暫く進んで、誰もいない場所で迂回するよ」

「はい。分かりました」


 結局人気のない場所に行き着くまで30分ほど移動。ここまで来れば大丈夫だろう。

 久しぶりに使う双眼鏡で辺りを見渡すと、前方、ガーザの街方面から豪華な馬車と兵を引き連れた団体が見える。

 道路の脇には商人が馬車を停め、豪華な馬車が通り過ぎるまで深く頭を下げている。


「お偉いさんかな」

「それは何?」


 双眼鏡を指しながらバンズが尋ねる。黒芋以外にも興味持ってくれた?


「バンズも使う? ここの部分から見ると遠くまで観察できる」

 

 バンズが双眼鏡から見えた光景に驚きながらも興奮してそのまま私を見上げる。


「あれ? 見えなくなったよ」

「近いところは見えないよ」


 もう一度、双眼鏡から馬車を観察する。馬車の横の紋章は鹿みたいな動物。貴族かな。

 あれと鉢合わせするのはやだな。とてつもなくめんどくさそう。


「ユキ、うどん、迂回するよ」


 ユキを先頭に道から外れてロワーを遠回りしながら、人に見つからないように草原をユキとうどんがスピードを上げ駆け抜ける。

 以前のようにしがみつかなくてもバランス良く乗れてるけど、顔にバンバンと虫が当たるのでもう少しゆっくり走って欲しい。二匹ともハイテンションなので許してるけど——


「いったあああ」


 何かが額にぶつかったので剥がして見ると、虻っぽい羽虫。ぶつかった衝撃で潰れている。最悪なんだけど……

 今度から仮面でも被った方が良さそう。


「ユキちゃん! スローダウン!」


 ユキのスピードが更に上がる。おい、こらユキ! 待ってって!

 私の声は絶対聞こえているはずなのに、徐行のお願いなんぞ完全に無視され猛スピードで疾走。あっという間に森に到着。

 ユキから降りて顔を洗う。ユキちゃんめ!


「バンズ、大丈夫?」

「僕は下を向いてたら大丈夫」


 少し遅れてダリアとうどんも到着。ダリアも無傷だ。くっ! ユキを睨むがすました顔をされる。

 虫も全部落ちたし、済んだ事なのでもういいや。


「ここはいつもの森の入り口から大分離れているから、冒険者には合わなさそうだね。迷いの森まで一気に進もうか。あ、さっきみたいなスピードは無しだからね」

「ヴゥー」

 

 ヴゥーじゃないし、こっちがヴゥーって言いたい。

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