上手くまとまった?

 そういえば、ガークの家に招待された時に不思議水を息子の水差しに入れたんだった。

 

「あ————……ち、違うよ」


 急にやや忘れていた事を振られたから、吃ってしまう。

 ガークの表情は、私が何かやったと完全に確信してる。


「嘘がヘタクソすぎるだろ。数日であんなに回復するなんてあり得ない事だ。その数日の間で可能性がある異質な存在はお前だけなんだよ」


 異質な存在って……またディスられてる?


「いや、成長とともに治るとかあんじゃん?」

「先週までベッドから起きるのも一苦労だったのに、そんなに早く治るわけないだろ。イーサンの怪我を治したのもお前だろ」


 ガークが息子のショーンの回復を語り始めた内容では、猛スピードの回復力で無事に治ってきてるっぽい。以前は家の中を歩くのも息切れで困難だったのに、昨日は外を散歩できるまで回復したという。

 さすが、不思議水。イーサンの時よりも短時間での回復には驚いたけど……


「無事に回復に向かっていてよかったね」

「ああ、後は失った体力を付ければ問題ないと薬師も——って、おいコラ!」

「えぇぇ」


 盛大に舌打ちをする。そのまま話を流そうとしたのに……治ったならもういいじゃん。


「めんどくさいって顔すんじゃねぇよ。いや違うな……」


 ガークが急に背中をピンと張り、頭を下げる。


「え?」

「今日来たのはカエデを責めるためではない。礼を伝えにきたのだ。何をしたか知らんが、お前が何かしたのは分かっている。本当に、本当に感謝する。カエデは息子の恩人だ」


 ガークが更に深く、顔がテーブルに付きそうなくらい頭を下げる。

 カウンター越しから従業員の女の子が、ガークが頭を下げているのに驚きながらこちらに注目している。食堂の客は殆どいなくてよかった。

 ガーク、冒険者ギルドのそれなりの重要ポジションにいるの忘れてない? これ以上、要らない注目を浴びたくないんだけど!


「ガーク、頭上げてって」

「恩人だと認めるのか?」

「ガーク、恩人とか大袈裟だから」

「大袈裟ではない」

「えぇぇ」


 認めるまで頭を下げ続けんの? 感謝の押し売りじゃん! 迷惑なんだけど! 

 恩人認定されたくないが、ガークには頭を上げてもらわないとな。


「あ、素っ裸の女がいる!」

「何!?」


 顔を上げ辺りを見回すガークをニヤニヤしながら見ると渋い顔をされる。


「ガークも男の子だね」

「……年上の男を揶揄うんじゃねぇよ」

「実際、顔上げたし。大丈夫、ローザには内緒にするから」


 ガークがため息を吐きながら頭を抱える。


「お前と話していると力が抜ける……大事にしたくないのは分かった。だが、息子の恩人には変わりない。謝礼も準備するつもりだ」


 お金? お金は好きだけど、今のカエデちゃんは小金持ちなんだよね。色々とじゃんじゃん金が入ってくる。怖いくらいに……ガークからわざわざ毟り取る必要のないくらいに……

 それよりも——


「お金はいらないから、マルガリータに報告するのだけはやめて」

「ギルド長か……だが、イーサンの件で既に勘づかれてるぞ」


 なんとなくそんな気はしていた。シーラには散々疑われ根掘り葉掘り聞かれたが、適当に流していたら諦めたのか最近は何も聞いてこない。マルガリータは初めから特にそのことに関しては聞かれていないのが逆に怖い。


「何も言ってきてないし、あくまでも疑ってるだけでしょ? ガークが報告すると確信に変わるからやめて」

「これは、個人的な事なのでギルドに報告の義務はない。安心しろ」

「なら良かった」


 マルガリータへの報告を回避できて安堵している私にガークが笑いながら言う。


「カエデにも苦手な事があったんだな」

「あれを苦手じゃない人いるの?」

「逆らえる奴は、ほぼいないな」

「だよね」


 ガークに他に私のために出来ることはあるかと聞かれたけど、特にないと伝えた。


「駄目だ。借りは必ず返す。困った事があれば言ってくれ。俺が出来ることはやる」

「……そう言うなら、分かった」


 ガークとの話も落ち着いた頃、買い物に行っていたダリアたちが大量の水パンを両手に戻ってくる。

 大量の水パンを見たギンが肩の上で興奮しながらジャンプする。

 水パン人気すごいね。

 明日は、遂に迷いの森に出発だ。








 

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