無視、虫、蒸し。寧ろバグ
いじけているイーサンは無視して、部屋に戻る。
「「カエデ! おかえり」」
「下にイーサン来てたよ」
「え? そんな時間になったかな?」
「早く来たみたい。今日のお昼は、イーサンと食べて」
分かったと返事する双子。
稽古の準備が出来た双子をイーサンと送り出し、ダリアとバンズと共に工作の時間に没頭する。
その間、ギンは玉の上で根を張り、ユキとうどんはベッドの上で昼寝。
ダリアが不思議そうに首を捻る。
「カエデさん、これで完成なのですか?」
「うん。いい感じじゃない? どう思う?」
「……いい感じだと思います」
パパマイロの甲板には、千切れたゴブリンの耳を繋ぎ合わせ釘で展足した昆虫標本のような物が完成した。良い出来だ。
昨日、夕食の時に近くに冒険者に、ギルドは千切れたゴブリンの耳も買い取ってくれるのか聞いたら、千切って数を誤魔化す冒険者がいるので、ある程度の形になってないと却下される可能性があると聞いた。狩ったゴブリンは最後の一匹まで報酬が欲しいじゃん?
ギンに入れている荷物を整理。ゴブリン耳標本を収納してもらう。
「お昼を食べてからギルドに行こうか?」
「僕も手伝います」
バンズが黒芋を準備し始める。相当気に入ってるじゃん。
宿の厨房を借りられたので、使おうとするが——
「何これ、凄いムシムシするんだけど!」
厨房の中がサウナみたいになってる。
かまどには大量に煮込まれているシチュー? や蒸されている肉。とにかく湿気が凄い。
「おう! よく調理にくんな。今日は、まとめて作り置きしてんだよ。このかまどなら空いてるぞ」
「このオーブンに入ってるのは何?」
「これか? 水パンだ。普通のパンよりな食が進むって好評でたまに朝に出してんだよ」
「いくつか買えますか?」
「おうよ」
湯煎焼き技術がある事に驚く。蒸し器がないのにこれがあるって……。勇者キヨシか? どことなくちぐはぐした文化に疑問はあるけど——
「あの、カエデさん……」
「どうした?」
ダリアとバンズは湿気が苦手、というより、これほどの湿気があれば隠匿の魔法が解けてしまうと言われたので先に食堂に向かわせる。バンズが残念そうにしていたが仕方がない。こんなところで、変身が解けるバグなど起こされても困る。
ユキたちも湿気は苦手のようだ。うどんが『クゥーン』と悲し声を上げ不快を主張する。
「ユキとうどんも食堂にいって。あの二人が変なのに絡まれないように見張ってて」
隠匿の魔法は光の屈折を利用した魔法? 考えても分からないので、黒芋と野菜を蒸す。今日は、フライパンで出来るフライドポテトも作る。
「これもだえ~」
「菜の花みたいな野菜は、お浸し風にしよっか? 醤油しかないけど」
完成した料理を食堂で待つ二人に運ぶ。今日は、私も野菜でいいや。毎日肉ばっかりからの休息。
たくさんの蒸し野菜にフライドポテト、菜の花のお浸し風をテーブルに並べると二人の表情がパッと明るくなった。
水パンと言われた物を口に入れる。うん。甘くない蒸しパンだ。
「オイオイ。草しか食わないなら大きく育たんぞ」
ガハハと笑いながら、自分の胸を揉み通り過ぎる冒険者。
クソ虫が!
二人が心配そうにこちらを見る。
「大丈夫。無視だよ、あんな虫。無視無視」
先ほどの冒険者の事は忘れ、食事に集中する二人を見ながら和む。フライドポテト、うまっ。
ーー
今日は6/4の【むしの日】にちなみ、たくさんの『むし』を絡ませてみました。
ゴキちゃんズたち、元気で過ごしていると良いですね。
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