フライングカエデ切望

 ここを出るといったものの、どうしようかな? ダリアとバンズは小さいし、ユキの背中に乗せてくれないかな?

 天井を見上げるが、ユキが降りてくる気配はない。よっぽどここの臭いが嫌だった? 

 自分の臭いを嗅ぐ。慣れたのとアドレナリンで気づかなかったが、女子というより……人間の臭いすらしない。ゴブリン臭だ。おえぇぇ。

 一旦異臭だと認識したら、喉詰まるような嗚咽感が押し寄せてくる。


「うぇ。二人とも早くここを出よう」


 ダリアとバンズ、この臭い平気なの? それとも妖精だから臭覚ないとか?

 気持ち悪そうに鼻を押さえていたら、ダリアに心配される。


「大丈夫ですか?」

「ダリアたちは、臭くないの?」

「……ずっと臭いです」


 あ、やっぱり臭いんだね。ここを出たら、シャワータイムだね。


 さてと……天井から入る光で、穴の中は結構見えている。天井の穴は、幸運な事に壁の延長部分近くから大きく空いている。

 壁を触ると、柔らかく湿っている土。硬い壁がないかと調べていると、隣にドサっとゴブリンが落ちてくる。壁に投げつけたゴブリンが剥がれて降ってきたのか? 心臓に悪いんだけど。センセティブなカエデちゃんハートがドキドキする。

 落ちたゴブリンの耳を切り落とし、再び壁を調べる。このまま階段状に上がっていく事は可能? 試しに石の魔石で杭を壁の中に打つ。飛び出した部分の杭を数回蹴るとぐらつく。これは、微妙。マミー、どうやって登ってたん?

 マミーの登っただろう部分の壁を調べる。こちらの壁はある程度硬そう。


「ここなら、杭の打ち込みできそう」


 石の魔石から壁に向かい杭を打ち込む。うん。地盤固そう。上までは、九メートルくらい? マンションの二、三階くらいの高さか。


 ゴゴゴとまた遠くから崩壊の音がする。ちんたらしている場合ではない。

 土の魔石で硬い土を吸収する。


「ダリア、バンズ、杭で階段作って上まで登るけど、行ける?」


 ダリアがバンズを心配した顔で見る。どうやら、バンズは高所恐怖症らしい。森で木登りとかしなかったの?

 

「怖いものは、どうしようもない。バンズ、狭い所は大丈夫?」

「狭い所は好き」


 ギンにシーツを出してもらい、中腰でバンズを背中抱っこしてシーツでしっかりと体が密着するように、クロスしながら固定する。


「バンズ、顔もシーツの中に入れるでしょ?」


 頷きながら、バンズが顔をシーツの中に入れる。これで、外に露出しているバンズの身体部分は脚だけになった。

 立ち上がると、バンズが思ったよりも重たかった。20キロ、いや25キロはある。


「じゃあ、登るよ。ダリア、付いてきてね」

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る