ファンガス

 コモドドラゴン風のゴブリンマミー、再び甲高いクマゼミの鳴き声で叫ぶ。

 指示を出したのか、待機していた無数のゴブリンたちが前進を始める。

 待って待ってって!

 いくらゴブリンが弱かろうと、この数を相手にするのは……


「石バンバンスペシャル」

「石バンバンスペシャル」

「石バンバンスペシャル」


 石の魔石で、機関銃スタイルの連続発射を連打する。ユキとうどんの氷柱も、容赦なくゴブリンを直撃している。ダリアとバンズも精霊魔法の水で近づくゴブリンを押しのけている。今の戦い方としては、これしかない……これしかないの?

 ゴブリンに攻撃は当たってるし、数も減っている。でも、何しろ、その数が多過ぎる。ジリジリと、でも確実に距離を詰められ、後ろの壁に追い込まれている。このままでは、ゴブリンの夜食になってしまう。

 考えろ! カエデ!


「カエデ、キノコだえ~」


 ギンが、鮮やかな緑色のキノコを出してくる。ベニのキノコだ。

 ベニが、私を守る物だと餞別にくれたキノコ。ギンから受け取ったそのキノコを上に掲げるが特に何も起きない。勝手に結界的な効果を想像していたが、違う? あれ? ベニさーーーーん!


「食べるだえ~」

「え……」


 嫌な予感しかしない。絶対ヤダよ、ギンちゃん! 他の方法はないの!? 何とか別の方法をと考えていたら——


「きゃあああ」

「ダリア! バンズ、待って!」


 ゴブリンに引きずられるダリア。それを追いかけようとするバンズを止める。ダリアは、暗くともまだ見える位置、近いのでいける。素早く走りだし、ダリアを囲んでいたゴブリンをスパキラ剣で一掃。


「ダリア、立って! 走って!」


 光るギンを目印に、ダリアが後ろから走ってついてくる。ダリアは無事奪還、元の位置にも戻れたが……もうこれは時間の問題だ。

 ゴブリンマミーはというと、食料の山の上から高みの見物。キラリと光る二つの大きな目が山の天辺から見える。

 ギンから受け取った鮮やかな緑色のキノコも暗い中で発光している。あー、もう! これしかないの!?

 どうする、どうする、どうする。カエデ!


 いや、もう答えは一つなんだけどさ! 


「痛!」


 足元に激痛が走る。下を見るとゴブリンの影。集中を切らした所為で、ゴブリンが足元まできていたのを気づかなかった。

 痛さは、まだ続いている。ギンの光に照らされたゴブリンが、足首に噛み付いているのが見えた瞬間、何かが切れた。


 鮮やかな緑色のキノコを口に放り込む。味のしないキノコを咀嚼して飲み込む。さあ! 結界カモン!

 身体の芯から焼けるような熱と痛烈な痛みが全身を駆け巡る。痛みに耐え切らず、地面に倒れる。


「あ゛あ゛あ゛」


 分かってた! 分かってたよ! どうせこんな事だろうと思ってた! クソキノコのキノコなんだから!


 時間にしたら、数十秒だった激痛から解放される。悶絶してる間は、長く感じた全身の痛み。痛みが引き、止めていた息を必死に吸う。

 結界は?

 立ち上がり、こちらを見上げるみんなを見下ろす。


「あれ? なんでみんな、小さくなってるん?」

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