彼らの事情
「助けてくだだき……あ」
ゴブリン兄弟の大きい方が礼を言おうしたのだが、噛んでしまう。
「ありがとう」
小さい方のゴブリンが、大きい方の背後に隠れながらいう。
「ううん。感謝は、ギンにしてね」
「妖精女王さま、ありがとうございます」
妖精女王? ああ、ベニの分身だからか。ベニ、本当に妖精女王だったんだね。今更ながらだけど……。
「この子は、ギンだよ。ベ、キノコの妖精女王の分身? だったかな」
「分身さま!?」
やけに礼儀正しく、物腰も柔らかいゴブリンたちだな。ご近所さんに是非見習って欲しい。でも、ご近所さんと同じ種類じゃないよね?
「えーと。ゴブリンでいいの?」
近くで見たら、肌の色以外全然ゴブリンじゃないけど……。
「ホブゴブリンです」
ホブゴブリン……えーと、どこかで聞いた。
そうだ、そうだ。ベニが話題に出していた。確か、戦いを嫌い平和に森の何処かで暮らしている妖精だ。
ベニの無数の謎の噂話から奇跡的に覚えていた自分を褒めてあげたい。
ギンに撫でられる。ありがとう! ギンちゃん。
「森で隠居生活送ってる妖精だよね? なんでこんな所にいたの?」
「隠居生活……」
「住処がこの辺なの?」
「い、いえ。私と弟で木の実拾いをしていたら、悪戯好きの妖精から知らない所に飛ばされて——」
「僕が、言い付け守らなかったから……」
どうやら、いつもだったら無視する悪戯好きの妖精の声掛けを小さい方が反応、妖精に悪戯をされ知らない場所に飛ばされたらしい。邪悪な妖精だな。
飛ばされた先の周辺を歩いていたらゴブリンの巣に落ち、追いかけられていたそうだ。他の所も陥没してるん?
それに、悪戯好きな妖精って——
「迷いの森に住んでるん?」
「え、あの……」
「あー。秘密なんだ。いいよ、そこまで興味ないし」
やっぱり、あの森は避けて正解だったな。同じ妖精にこの仕打ち。カエデちゃんなんか良い鴨だったはず。
「兎に角、ここから出よう。話はその後ね」
落ちた穴から戻ろうとしたが、大きな地響きとともに穴に続くトンネルが地滑りを起こす。
「急いで! 奥に逃げるよ」
みんなでトンネルの奥まで逃げる。全員無事だが、これは……
「来た道は、戻れそうもないね」
石の魔石にドロを吸わせて道を作ってもいいけど、また地滑り起こして巻き込まれたら最悪だ。泥に埋まって死ぬのとか無理無理。
トンネルの天井を見上げる。ここに穴を開けても結末は、生き埋めのような気がする。
「二人が落ちた穴ってどこ?」
「え、と……」
迷路のようなゴブリンの巣を逃げてきて覚えてないという事だった。
「このトンネルを進むしかないね」
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