徘徊の情報

 オスカーとの謁見から数日後。今日は小屋の解体依頼を受け、依頼主の元に一人で向かっている。

 双子は、本日剣の講習の最終日。


 依頼主の家は、以前庭の掃除で訪れた向かい側の家だ。

 こちらは、以前の家より少し大きく庭の奥には古い小屋がある。庭にある椅子には——


「また、同じ爺さんじゃん」


 また人の家に無断侵入してんの? スルーだな。

 爺さんを無視して玄関の扉をノックする。中から今行くから待てと低い声が聞こえる。


「はいはい。おお! デカイ狼だな。冒険者か?」

「はい。小屋の解体の依頼できました」

「小させぇのに、力仕事が出来んのか?」


 ねぇ。なんで小さいっていう時に目線が十五センチ南見てんの? ねぇ


「……大丈夫」

「そうか。じゃあ、あの小屋を頼むな。俺は裏で作業してるから。あ! 親父! どこ行こうとしてんだ!」


 ここの爺さんかよ! ここ隣でもないし!

 外に向かおうとしている爺さんを依頼主が走って止める。


「じゃあ、作業始めますね」

「アンタ。悪いが親父を見ておいくれないか? 隣にいる息子を呼んで来るまでの間だ」

「えぇぇ」

「大丈夫、親父は良い奴だから」


 そう言い残し、こちらの返事を聞かないで依頼主が走り出した。

 ちょっと……徘徊ジジィと二人きりにされても困るんだけど。

 座ってた爺さんが立ち上がり、移動しようとする。


「あ! 爺さん、ダメ。ステイ」


 左右に動き、通ろうとする爺さんの行き先をブロックする。


「爺さん! お座り!」

「ああ? メシの時間か?」

「違うって!」


 爺さんに大人しく座ってもらう。爺さんの目が急に真っ直ぐこちらを見る。


「勇者キヨシの国から来たのかい?」

「え? 爺さん、なんて?」

「勇者キヨシじゃよ。ワシの母親が昔、勇者キヨシの下女をしておったんじゃよ。黒い髪に目、小柄な身体。母さんが話してた通りだ」

「そうなの? 他には何かいってた? 魔石の話とか」


 思わず爺さんの肩を掴んでしまう。爺さんは、少し考えて言い放つ。


「婆さんか。メシの時間か?」

「おい! ジジィ!」


 それからは、メシか尻が痒いしかいわなくなった。

 少しして、依頼主が息子と戻ってくる。


「大丈夫だったか? すまんな」

「爺さん、お尻が痒いそうです」

「あ、親父。今、連れていってやる」


 どうやら、爺さんはトイレのようだ。依頼主が爺さんをトイレに連れていった後、さっさと小屋を破壊する。

 勇者キヨシを直接知らなくても、キヨシを知っていた子孫や文献を辿れば何か有利な情報があるかもしれない。


「アンタ、もう終わったのか? 仕事が速いな。今日の爺さんの世話の礼だ。ゲンコツ飴だ」


 これもキヨシか? 黒い棒状の飴をもらう。舐めると、どこか懐かしい味がした。お菓子も、本当に久しぶり。


「ありがとう。凄い美味しい」

「そうだろ? 俺の婆さん直伝の飴だ」


 もうお婆さんは亡くなっているそうだ。そりゃ、そうだよね。

 依頼主も小さい頃に、お婆さんが勇者の下女をしていた事を聞いた事があったらしいが、詳しい事は何も知らなかった。


 帰ったら、双子にもゲンコツ飴をあげよう。

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