あの鐘を鳴らすのは

 色々あって墓地に来ている。

 双子は、早速今日から剣の講習を受けるべく、冒険者ギルドに行っている。

 墓地は、殺風景な場所で所々に墓石が見える。新しい墓の横に小さな鐘が付いているのはなんだろう? 不思議。ベンチの所に座って、日向ぼっこをしているのが墓守? 


「共同墓地の場所はどこですか?」

「あ? おわ! でけぇ犬だなぁ。共同墓地は、あそこん穴だ」


 墓守が案内した場所には、穴が深く掘ってある。上から中を覗いても何も入っていなかった。


「そんで、遺体はいつ持ってくんだ?」

「今から出すので、驚かないでください」


 賊頭の首をさっと出す。


「い、いきなり出たな。どうなってんだ?」


 墓守は、死体に慣れているのか、さほど驚いていない。腰にぶら下げていたボードの紙に賊頭の特徴と日付を書いたら、首を番号のついた袋に入れて穴に投げ込んだ。

 共同墓地の前で手を合わせ、賊頭の冥福を祈る。碌な奴じゃなかったけど、転生できたら人に迷惑かけないになれるといいね。多分、賊頭の転生先はミジンコとかだろうけど…


 昨日は、賞金首イルゼを渡した後、食堂でピザ…はなく鶏のグリルしたのを双子と食べた。ユキとうどんの分も注文したけど、ユキたち用に早く生肉をゲットしたい。

 食事をした後、賊頭の首もあった事を思い出して、冒険者ギルドに戻った。賞金首ではないけど…一応ガークに渡そうとしたら『賞金首でもねぇ首をギルドに置いていこうとするな』と怒られた。

 何処かに埋めよう! とギルドを去ろうとしたら、ガークに引き止められて、この共同墓地を教えてもらった。


 やっとで首フリーになったよ。ギンちゃん、長い間ばっちい物を持たせてごめんね。ギンをヨシヨシと撫でる。


「今日は、また玉に苔を振りかけようね」

「ギン、コケ好きだえ~」


 ギンは、日に日に言葉がスムーズに出るようになっている。ベニの分身だからか、仕草がベニに似てきた。ベニ元気かな?

 さて、首も捨て…土葬できた。本日のタスクは一つ終了。次は市場に向かい、ユキたちの生肉探しと…私の食べ物探しかな? 毎日食堂で食べるのも気が引ける。それに…野菜が食べたい。とにかく生の野菜が食べたい。

 墓地からの帰り道、墓守に門まで見送られた。紳士だなって思ったけど…最近、墓荒らしが多いからだと言われた。疑われてたん? 墓荒らしなんてしないし。

 門の前には別の墓守がいた。ボーンボーンと二回鐘が鳴る。ちょうどお昼か。グーとお腹が鳴る。市場で買い食いするところあるかな?


「お、交代の時間か? 今日は、鐘に救われたぜ」


 墓守は、ニヤリと笑って次の墓守の肩を叩く。


「ちっ。運のいい奴め。偶には、お前が穴埋めろよ」


 この時は、何気なく聞いた会話だったが、この『鐘に救われた』というのは、墓の横の小さな鐘を指していた。この世界の医療はゆるゆるで、死亡確認もゆるゆるのため…土葬の際に、まれに人が生き返るらしい。鐘は遺体の手に紐で結ばれており、生き返った時に鐘が鳴る…鐘を聞いた墓守は急いで墓を掘りおこすそうだ…だから、ギリギリで助かった時には『鐘に救われた』と言うらしい。


 あー。早く日本に帰りたーい。絶対ここで死にたくなーい!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る