頭脳戦 2

 賊の男の足音が近くなる。チャンスは一回だ。この位置なら、茂みが多く、洞窟の方からは見えないはずだ。一回で仕留めなければ…叫ばれたら、他の奴らに気づかれる。石の魔石は、音が出るので使えない。スパキラ剣を握る手に力が入る。息を潜み、その時を待つ。狙いは喉に一突き。口に中が乾き、心臓がうるさい。


かしら? 返り血っすか? また豪快に切り刻んだんですか? たまにはおれ——」


 自分でも驚くほどに、身体が自然に動いた。かはっと空気が抜ける音を出した喉にはスパキラ剣が深く突き刺さっている。男と目が合う。口から溢れる血に窒息しながら、困惑している。喉で剣を回転させると、男はそのまま地面に倒れた。男を転がし茂みに隠す。


「おい! いつまで遊んでんだ! 何かいたか?」


 倒れた男の剣を茂みから振り、以前狩っていた兎を投げる。


「なんだよ。ただの兎かよ。後で食うか」


 落ちた兎を拾いにきた男が、屈みながら首を垂れる。スパキラ剣で、ピンポイントに頸部けいぶを刺す。倒れた男の腕を引きずり、死体を隠す。重たい…職業が暗殺者になる前に早く街に辿り着きたい。

 洞窟の前にいるのは残り三人か…カイは、殴られ続けて気を失ったようだ。

 残りの賊に更に接近し、賊首の頭を茂みから出す。残り三人の賊が、ビクッと立ち上がり、こちらまで歩いてくる。


「…かしら…?」


 流石に気づいたかな。でも十分近い。石の弾丸で、三人を仕留める。


 パァンパァンパァン


 ちっ。一人は、胸を外し腕に当たる。騒がれる前に茂みから飛び出し、グサリと刺す。洞窟からは、まだ誰も出てこない。顔を上げると、調理をしていた女性たちと目が合う。


「シッー」


 口に人差し指のジェスチャー、こちらでも通じるのか? 女性と子供は、コクコクと頷く。


「カイ!」


 カイに駆け寄り、安否を確認する。良かった。生きている。エディも、数発殴られたのか、気絶している。カイに不思議水をかけ、頬を叩く。起きない。棒で口をこじ開け、不思議水を中に注ぐ。


「ガガ、ガハッ、ゲホッ」

「気がついた?」

「え、カエデ? 賊は?」


 息絶えて転がっている賊を見て安心するカイ。いや、まだ何も終わってないからね!

 カイとエディを縄から解放する。囚われていた女性が言うには、中にはまだ十人ほどの賊がいるらしい。


「貴方達は、茂みに隠れていて」

「いえ、手伝います」

「…エディはどうすんの? 邪魔なので、他の二人と茂みに隠れてて。特別にうどんを護衛につけてあげる」

「は、はい」


 うどんは、きっとカイよりも護衛ができる…はず。大丈夫。うどんは、出来る子だから…

 カイがエディを抱える。女性たちも、うどんに驚きながら茂みに隠れる。カイは悔しそうに下唇を噛んでいるが…ちゃんと魔法を使い始めたばかりの、戦闘経験ほぼなしの新人荷物持ちだと言う事を理解して欲しい! 子猫が虎のハートを持つのはいいんだけど…こっちは、その事故に巻き込まれるのは勘弁だよ! 

 しかし、洞窟は深いんだろうか? 誰も出てこない。石に弾丸の音はそれなりに響いたはずだけど…

 

「ユキ、吠えて」

「アウーーーン」


 全身がピリピリする。

 ユキの吠えは、コボルトのボスなんかの比にならないくらい威圧がある。

 『魔物だ』と洞窟から出てきた賊を、順次射殺する。なんか簡単に行きすぎてない? 残り十人程って言っていたけど、それだと洞窟の残りは後二人…

 最初に殲滅した賊首組が戦闘力で、洞窟組は貧弱だったのかな? 普通は、守りを固めない? 


「そこまでだよ! こいつがどうなってもいいのかい?」


 おお! なんかクイーンみたいなのが、人質と一緒に出てきた。人質は…ん? いやいや、まさかそんなはずないよね?

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