風邪

 …今、キノコが喋ったよね?


 ゴホゴホ


 驚きでむせて、更に咳き込む。

 風邪引いて幻聴が聞こえ始めたの? ああ。どうしよう? ボッチ過ぎて頭がおかしくなった? カエデ遂に発狂したの巻か!?


 急に起き上がったので、頭がガンガンする。一旦横になろう。

 顔がポーッとするのに悪寒がある。完全に風邪だね。不思議水を飲む。怠さが少し緩和する。


(人族の娘のカエデよ。聞こえるかえ?)


 ブフォ


「…この声は、キノコなの?」

(カエデよ。水を含んだまま話すと、我に水が掛かってしまう)


 キノコの声が直接頭に響いてくる。見かけによらず、鈴を転がすような可愛らしい声だ。話し方は偉そうだが。昨日のフルフルのしおらしい態度とは違い、胸を張り堂々とした佇まいだ。多分…あの辺が胸だろう。

 吹き出した水で濡れてしまったキノコを拭く。

 何か特別なキノコだよね? 会話できてるし…


「本当にキノコの声なんだね」

(正確には、キノコではなく妖精女王だ)

「キノコの?」

(キノコから離れよ!)


 どこからどう見てもキノコだし…

 ファンタジー要素が強すぎる。

 それに、妖精ってこうさ…可愛い女の子に羽が生えた感じを想像していたんだけど…コレジャナイ感が凄い。

 考えてみれば、久しぶりの対人…対キノコの会話だ。ユキたちとは一方通行の会話だったから、日に日に独り言が増えていってたんだよね。

 ん? キノコなんで私の名前知ってるんだ?


(よく独り言で、自分事を呼んでいたぞえ)

「あ…ああ。そうなんだ。ん? キノコ私の考えてる事がわかるの?」

(これでも妖精女王なのでな)


 キノコの妖精女王は、今までの経緯を話してくれた。森にある日突然、魔力の爆発が起こって調べに来たら、ログハウスと私がいたそうだ。この森は、人族が滅多に来れない魔物が多く住まう場所で、キノコの女王は私の為に、害をもたらす者を通さない膜を張ってくれたらしい。それなら初めからその話をしてくれたら良かったものの…


(結界を張るのに力を使い過ぎて、小さくなり話をする事が出来なかったのだ)


 なんの義理もないのに…キノコの妖精女王凄く良い人?だ! 膜がなかったら、二日と持たなかったよ。確実に死んでた。


「妖精女王さん。ありがとう」


 妖精女王は、力が戻るまで、自分も膜内に待機して私を見守っていたらしい。一度、意思疎通を図ろうとしたが…ギラギラした私の目に危機感を感じて逃げたらしい。確かに食べ物って認識だったので、知らずに捕まえていたら、スープかソテーにしていたと思う。

 キノコの妖精女王は、魔力の爆発の理由は分からない様で、無論日本への帰り方も知らなかった。


(それから…言いにくい知らせだが…結界はそう長くは持たん)



「えええええええええええええええええ!?」






 

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