第128話 エルフの里
「やっぱりこの家庭菜園、残しておいてよかった」
以前、依頼のために訪れたモリア村。
その近くの山の頂上に置いていた家庭菜園へ、僕たちは転移してきた。
どうやらエルフの里は、この村を経由していくと近いらしい。
……ちなみにシーファさんのお父さんが一緒ではないのは、シーファさんの祖父に当たる義父との仲が悪くて、エルフの里への立ち入りが禁じられているせいだ。
僕たちがエルフの里に行くと告げると、自分も行きたいと必死に訴えてきた。
でも結局シーファさんに「殺されるからダメ」と止められてしまった。
殺されるって……。
「あそこに見える、広大な森林地帯。そのどこかに里がある」
山の上から北方を見渡し、シーファさんが言う。
僕はその言葉に少し違和感を覚えた。
「どこか……? シーファさん、里には行ったことがあるんですよね?」
「二回くらい」
「じゃあ、どのあたりに里があるのか分かりますよね」
「……たぶん」
たぶんって、ちょっと、いや、かなり不安なんだけど……。
なにせ端が見えないほどの森林なのだ。
もし迷ったら遭難しかねない。
「いつもはママが迎えに来てくれていたけど……」
つまりエルフの案内もなく、あの森林のどこかにある里へと辿り着かなければならないらしい。
「大丈夫。何となくだけど、覚えている」
「不安しかないんだけど……」
何となくと言いながら胸を張るシーファさんに、アニィが半眼を向ける。
「最悪、ジオさんの菜園で空に飛べば、遭難する心配はないと思いますが……」
「なるほど。確かにそうですね」
サラッサさんの言う通りだ。
もちろん遭難しないからといって、この広大な森から里を見つけるのは容易ではないだろう……シーファさん次第だけど。
「こっち……の気がする」
のっけから不安になる言い方で、シーファさんがある方向を指さす。
他に当てもないので、僕はそちらへ家庭菜園を進めていくことにした。
鬱蒼と茂った森の中。
普通なら歩くだけでも大変だろうけど、家庭菜園は木々の合間を縫ってすいすい進んでいく。
結界と隠蔽を施しているので、邪魔な枝や下草なんて妨害にもならず、魔物もこちらには気づかない。
このギフト、どうやら森の移動にも適しているみたいだ。
「なんだろう……森の様子が、少しおかしい」
不意にシーファさんが呟く。
「え? もしかしてルートを間違えましたか?」
「そうじゃない。……森そのものが、以前来たときと違う。なんていうか……元気がない感じがする」
僕にはまったく分からなかった。
アニィやサラッサさんも首を傾げているので、シーファさんにしか分からない感覚なのだろう。
ちなみにセナは寝ている。
「ね る な(怒)」
「むぐぐぐっ!? ぶはっ!」
鼻と口を同時に塞いでやったら目を覚ました。
「きっとこっち。何となく、覚えている」
シーファさんの口調が、最初よりも自信が伺えるようになってきた。
どうやら間違っていなかったらしい。
それにしても、森の中の光景なんてどこも一緒に見えるのに、よく覚えているなぁ。
「間違いない。この先に里がある」
やがてシーファさんが確信を持って告げた。
「急に現れたら驚くと思う。エルフは警戒心も強い。だからここからは歩いていった方がいい」
ということだったので、家庭菜園をそこに待機させて、そこからは徒歩で里へと近づいていくことに。
だけど菜園の結界から出た瞬間、僕はある違和感に襲われた。
「何かちょっと、息が苦しいような……?」
「わ、私もです」
どうやら僕だけじゃなく、みんな同じことを感じているらしい。
「んー? 何も感じないけど?」
唯一、平気そうなのはセナだけだ。
まぁこいつは鈍感だからだろう。
身体も重く、ちょっと歩いただけで息が上がってきてしまう。
特に体力のない僕とサラッサさんは、それが顕著だった。
と、そこでアニィが何かに気づく。
「誰か来るわ。エルフかしら?」
すぐに前方から武装した二人組が現れた。
「「止まれ!」」
僕も初めて見たのだけれど、恐らくエルフ族だろう。
確かに耳が長く尖っていて、びっくりするくらい美形だ。
「人族が何の用だ!」
「ここは我らの神聖な森であるぞ!」
武器を手に、秀麗な顔を厳しくして叫ぶエルフたち。
シーファさんが前に出た。
「私はシーファ。シーナの娘」
「なにっ……?」
「ママに会いに来た。おじいちゃんから、ママが病気だって聞いて」
その言葉に、エルフたちが武器を降ろした。
「なるほど、あのときの子供か。随分と大きくなったな」
シーファさんのことを覚えていたようだ。
「ママは無事?」
「……容体はあまりよくないと聞いている」
「そう」
「付いてくるがいい」
そうして僕たちはエルフの二人組に案内され、やがて里へと辿り着く。
「わー、かわいいおうち!」
セナが目を輝かせるのは、エルフの里の家々だ。
丸太を組み立ててできた木造なのだけれど、キノコがモチーフのようで、屋根が帽子のような丸い形をしていた。
「それで、シーファさんの家は……」
「あの家。……ママ!」
淡いオレンジ色の屋根の家を見つけると、シーファさんが居ても経ってもいられず、走っていく。
僕たちはすぐにその後を追いかけた。
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