第104話 ヒドラ討伐 1
「何でそうなるのよっ!?」
「あたしたちが参加することに決まったでしょ! おかしいわ!」
「「そうよそうよ!」」
一斉に声を荒らげたのは、二十歳くらいの女性たちで構成された冒険者パーティだ。
彼女たちの剣幕に一瞬、男性は怯んだものの、
「それはあくまで、他に相応しいパーティがいなかったからです。端的に言って、ヒドラを戦うのに君たちでは実力不足。やはり危険です」
「実力って……こいつらだって怪しいものでしょ!」
パーティのリーダー格を思われる女性冒険者が、じろりとシーファさんたちを睨みつける。
「あんた、本当にBランクなの?」
「間違いない。Bランク二人にCランク二人」
「っ……」
「そっちは?」
「し、Cランク二人にDランク二人よっ!」
どうやらパーティとしての実力差は歴然のようだ。
「どうかご理解ください。我々もレイドを組むなら強いパーティがいいのです。命が懸かっていますからね」
「ぐぬぬ……」
さすがに言い返すことができないのか、彼女は悔しそうに歯噛みするだけだった。
「ああもうっ、時間を無駄にしたわっ! こんなことなら最初から別の依頼にしておくべきだったじゃないっ!」
そう捨て台詞を残して、彼女たちは部屋を出ていった。
まぁ、仕事を横取りされちゃったわけだし、怒る気持ちも分かるけどね……。
「気にしないでください。ギルドがちゃんとフォローしてくれるでしょうから。それより本当に助かります。元々、パーティメンバー全員がCランク以上というのが、最低条件の依頼でしたので」
「それなのに、なぜ彼女たちが?」
「なかなか集まらず、仕方なく手が空いていた彼女たちに参加してもらうことになったんです。最近、人手不足でして……」
聞けば、今までこの街を拠点としていた冒険者たちの多くが、アーセルの街に行ってしまったらしい。
最近になって、ダンジョンの難関エリアの攻略法が発見されたためだそうだ。
……それ、完全に僕たちのせいじゃないか。
「君たちは逆にアーセルの街から来たのですか? 珍しいですね」
まさかこの街の冒険者不足の原因が、シーファさんたちにあるとは思っていないみたいだ。
「ともかく、よろしくお願いします。私はロイン。Bランクの冒険者で、今回このレイドのリーダーをさせていただきます」
男性はそう自ら名乗ってから、パーティメンバーたちを紹介していく。
「私のパーティは全部で四人。右からマット、バルーゼ、ペルル。全員がBランクです」
「よろしく」
「よろしくな」
「よろしく~」
三十前後の男性ばかりで構成された、いかにも熟練といったパーティだ。
それからもう一つのパーティも自己紹介していく。
「僕はクリス。Bランク冒険者です。で、この三人が……」
「ラグナ、Cランクだ。よろしく頼む」
「ヤーンよ。同じくCランクね」
「Bランクのバルダであります」
こちらは男三、女一人。
最初の三人は二十代前半くらいだが、最後のバルダさんだけ四十代と、ちょっと歳が離れているようだ。
シーファさんたちも自己紹介していく。
「シーファ。Bランク」
「アニィよ。ランクはCね」
「えっと、サラッサと言います……Bランクです」
「あたしはセナ! Cランク?」
「何で疑問形なんだよ」
と、そこで全員の視線が僕に向いていることに気づいた。
「え? あ、すいません、僕は冒険者じゃないです……。その、妹の付き添いというか……」
注目されてしどろもどろに言うと、「シスコン?」「シスコンか」「シスコンだな。それも重度の」という呟きがあちこちから聞こえてくる。
変な勘違いをされてしまった……っ!
それから詳しい依頼内容を聞いた。
依頼主はここから馬車で一時間ほど行ったところにある小さな街だ。
近くの池にヒドラが住み着いて、討伐を依頼してきたという。
ヒドラは巨大な蛇の魔物だ。
しかも複数の頭部と、高い再生力を持つとされている。
「では各パーティ、明日の正午までに現地に集合してください。よろしくお願いします」
ロインさんがそう締めくくり、打ち合わせが終わった。
「明日の正午か。朝の十時頃にこの街を出発すれば十分ね」
「今日はどうする? もうアーセルに戻る?」
「せっかくだし、ちょっと街を観光してからでもいいと思うけど」
「それはいいですね。ここランダールにはお洒落な観光スポットが幾つかあるみたいです(……まぁ私が一番見たいのはこの街の男たちの筋肉ですけど)」
「わーい、かんこーかんこー♪」
そんなわけで、少しこの街を見て回ることになった。
「あ、じゃあ、僕はいったん戻ってますんで。後で迎えに来ます」
さすがに女子ばかりの観光に男一人は恥ずかしい。
明らかに浮きそうだし。
「えー、お兄ちゃんも行こうよ~」
「セナちゃん、こいつも男だし、一人で行きたいところがあるのよ。地元だとなかなか恥ずかしいけど、旅先なら知ってる人もいないからね」
「行かないから!?」
こいつ何を余計なこと言ってるんだよ!
「どこのこと?」
シーファさんがキョトンとして訊いてくる。
あなたは知らなくていいです!
「ぷぷぷ、なに慌ててんのよ? 一体どこだと思ってんのかしらね? わたしが言ってるのは武器屋よ、武器屋。冒険者じゃないのに入るのは恥ずかしいでしょ?」
「ぐっ……」
と、そんなやり取りをしている僕たちへ、近づいてくる集団があった。
「ちょっといいかしら」
「あ、さっきの……」
僕たちのせいで依頼から外されることになった、先ほどの女性パーティだ。
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