第55話 隷属の腕輪 1
私の名前はウォルカ。
ここアーセルの街を拠点とするギャングの一員で、つい先日、新たな幹部に指名された男だ。
幹部になった私が、最初にボスから命じられたのは、とある女絡みのことだった。
この街で冒険者をしている、まだ十七、八かそこらの小娘だ。
以前からボスはその女に執着しているらしく、部下を使って手に入れようとしたそうだが、失敗に終わってしまう。
その責任を取る形で、それまで幹部だったハゼアという男が組織から追放された。
追放はすなわち死を意味しており、恐らくすでに消されてしまっているだろう。
そんな危険で重要な役割を、新幹部である私が任されることとなった。
ボスの期待の表れであると同時に、下手をすれば前任者の二の舞になりかねないハイリスクな仕事だ。
「ま、そんな心配は要らないがな」
なぜならこの私はハゼアと頭の出来が違う。
奴も色々と策は巡らせていたようだが、所詮は暴力頼りの脳筋だ。
私のように知略で伸し上がってきた人間から見れば、子供レベルの頭でしかない。
「くくく、すでに完璧な作戦を練ってある。失敗など万に一つもないはずだ」
早速それを実行するべく、私は部下を呼び出した。
「ここに〝隷属の腕輪〟と呼ばれる魔道具(マジックアイテム)がある。これをターゲットの腕につけてこい」
この隷属の腕輪は、もう一つの〝支配の腕輪〟と対を成している。
隷属の腕輪を装着した者は、支配の腕輪を付けた者の命令に逆らうことができないという代物で、あの女にこの隷属の腕輪を付けることができさえすれば、こちらの意のままに操ることが可能になるという寸法だ。
かつて王都の闇市で見つけた希少なアイテムで、今まで一度も使うことなく大切に保管してきた。
というのも、たった一回きりしか使用できないからだ。
だが今回、躊躇せずに使う。
ここぞという場面を正しく見極め、出し惜しみはしない。
それをやれる人間こそが上に行くことができるのだ。
この私のようにな。
しかし私の命令に、部下は難しそうな顔をした。
「……で、ですが、相手は冒険者。それもBランクです。力づくでは難しいかと……。しかも噂では、初めて難関エリアを――」
「貴様、この私に意見する気か?」
「っ……も、申し訳ありません……」
「Bランクと言えど、所詮は小娘だろう。やるならダンジョン内がいい。冒険中を狙い、多数で襲いかかれば容易いはずだ」
「わ、分かりました……」
ふん、この私に反論するなど身の程知らずな奴め。
馬鹿は何も考えずに、ただ私の言う通りにしていればいいのだ。
◇ ◇ ◇
「セナ! 横っ!」
「ほえ? わっ……えい」
「ッ!?」
横道からいきなり飛び出してきたスケルトンナイトの剣を躱したセナは、間髪入れずに反撃。
首と両足を斬り飛ばされ、アンデッドの戦士はあっさりと無力化された。
「スケルトンナイトを瞬殺……上級冒険者でも普通に苦戦する相手なのに……。あんた、まだ新人よね?」
「うーん、でもアニィちゃんが教えてくれなかったら危なかったかも?」
「むしろもっと早く察知するべきだったわ。まぁ、アンデッドだから気配が読みにくいんだけど……」
「このエリアはアンデッドが多い。油断してはだめ。気を引き締めていくべき」
シーファたちはいつものようにダンジョンに潜っていた。
石でできた通路が複雑に張り巡らされたここは、遺跡エリアと呼ばれていた。
攻略難度としては水中エリアや火山エリアに劣るものの、現れる魔物の強さは全エリアの中で随一と言われる難所である。
二つの難関エリアを攻略した彼女たちと言えど、油断は禁物だった。
やがて比較的安全な場所へ出たところで、しばしの休憩を取ることに。
出入り口が二か所しかない大きめの部屋なので、魔物が現れても対処は容易だろうとの判断だ。
「そう言えば、もうすぐだったわよね? あの子が戻ってくるの」
「うん。何事もなければ、そろそろ帰ってくるはず」
「あの子? 誰のことー?」
「前に話したでしょ? うちのパーティの魔法使い」
「覚えてるよーな、覚えてないよーな?」
「それくらい覚えておきなさいよ……。今は王都にある魔法学院に行ってるのよ」
「まほーがくいん?」
魔法学院というのは、この国において唯一、魔法を専門的に教えている学校だった。
「その卒業生なのよ」
「へー? でも卒業したのに何で?」
「あの子を指導した教授が熱心で、教え子は必ず数年に一度、学校に呼び出して今の実力をチェックするんだって。それで腕が落ちていたりなんかしたら、猛特訓を課せられるそうよ」
「ほえー、大変そー」
「わざわざ王都まで行かないといけないものね」
ここアーセルから王都までは、馬車でも一か月はかかるだろう。
「一か月かー」
セナには想像がつかなかった。
つい最近、初めて都市の外へ二泊三日の旅をしたばかりである。
もちろん王都になど行ったことすらない。
「一度でいいから行ってみたいなー」
「へえ? 極度のめんどくさがり屋のあんたにしては珍しいわね? 一か月の旅は大変よ? 馬車なんて乗り心地は悪いし、することがなくて暇だし、場合によっては野宿しないといけないし」
「え~。じゃー、いいや」
「諦め早っ!」
「あー、部屋で寝てたら勝手に王都に着いてくれたならなー」
「……あんたねぇ」
と、そのときだ。
話をしながらも油断なく見張っていた部屋の入り口から、集団が入ってきたのは。
「……冒険者? って、感じじゃなさそうね?」
「気をつけて。嫌な予感」
「もー、休憩中なのにー」
非友好的な雰囲気をすぐに察して、彼女たちは警戒心を強めた。
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