クセになる味

クセになる味①

 夏の終わりに差し掛かった9月末。母方の祖父が急逝したとの連絡を受け、津田 翔平つだ しょうへいは父、母と共に東京から怪奇町へと向かった。


 祖父の死因は自宅階段での転倒。二階から降りようとしていたところ足を滑らせ、階段を転げ落ち、頭を強打。買い物から帰ってきた祖母に発見され、病院に搬送されたもの死亡が確認された。享年七十九歳。


 今年で八歳になる翔平。祖父のことはもちろん知っているが、顔を合わせたのは数回程度。母の地元である怪奇町に帰ってくるのは年一回ほどだったし、赤ちゃんだった頃の記憶は、翔平にはほとんどない。


 葬式が始まり多くの人が涙を流したが、翔平は悲しいという気持ちにならなかった。大勢の大人が集まり、何かしているということ以外、よくわからない。


 お坊さんがお経を読み、難しい言葉を並べて親族に説法を行う。幼い翔平には何が何だかわからない。真面目そうなハゲ頭が宇宙人の言葉を喋ってるように感じた。


 退屈さすら感じていた祖父の葬儀。唯一印象に残ったのは、祖父の遺体を焼いて残った骨だ。年の割に骨は丈夫だったようで、ほとんど焼け残っていた。初めて見る人骨を、翔平はスナック菓子のようだと思った。


 母方である大川家おおかわけの墓がある『音無寺おとなしでら』に納骨する。祖父の骨は大きく、係の人が墓石の下に押し込むようにして骨を無理やり詰め込んでいた。


 翔平と同じく、状況をいまいち飲み込めていない者がいた。いとこの大川 竜おおかわ りゅうだ。翔平より三歳上で、親戚で顔を合わせる際はいつも遊んでもらっていた。兄弟のいない翔平にとって、竜はお兄さんのような存在だったのである。


 葬儀から納骨が行われるまで、翔平とその両親、竜とその両親(翔平の叔父と叔母)は、祖母の家に泊まることになった。翔平と竜が寝るのは二階にあった祖父の部屋。つい先日亡くなり、骨になった祖父の部屋。オバケが苦手な翔平にとって、この部屋で寝るのは気が引けた。しかし竜も一緒にいてくれることを考えると、心強く感じた。


ーーーーーーーーーー


「なぁ翔平。肝試しやらないか?」


 寝る寸前、竜は翔平に小さな声で提案した。階下にいる両親や叔父、叔母に聞こえないよう配慮してのことだろう。


「肝試し?どこで?」


「やっぱり墓場がいいよな!じいちゃんの葬式やった『音無寺』、あそこの裏手に墓場があっただろ?今日、じいちゃんの骨を埋めたところ!あそこでやろうぜ!」


「いいけど……怒られるんじゃない?」


「大丈夫だって!父さんたちが寝たら家を出て、朝になる前に帰ってくれば!」


「違うよ!お坊さんにだよ!」


「それも大丈夫!だってオレもあの墓にいつか入るんだぜ?お客様ってことだろ?むしろ歓迎してくれるんじゃねーかな?」


 竜の勢いに流されるがまま、翔平は肝試し計画の片棒を担ぐことになった

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