4-16 医務室

 カチコチカチコチ…


何処かで時計の音が聞こえている…。

薄っすらと目を開けると、今まで一度も見たことが無かった天井が目に入った。


「…?」


不思議に思い、周囲を見渡すと周りは白いカーテンで覆われている。私は堅いベッドの上で寝かされていた。ここは…一体どこだろう?まるで医務室の様に見える。

その時、カーテンの奥で人の気配を感じた。起き上がろうと、ベッドに肘をついたものの身体が思うように動かせない。まるで自分の身体では無いようだ。


嘘…!ど、どうして…?


堪らなく不安になってきた。まさか声まで出ないのでは無いだろうか?試しに声を出してみよう。


「あ…」


出せた!するとカーテンの奥で人が動く気配を感じた。


「え?!目が覚めたのか?」


え…?その声は…?


次の瞬間―。


シャッ!


目の前の仕切りカーテンが開けられて、キリアンが現れた。彼は心配そうな眼つきで私を見下ろしている。


「あ…キリアン…様…」


身体は思うように動かせなかったけれども、言葉は話す事が出来た。


「よ、良かった…」


キリアンはガクッと首を項垂れてため息をついた。


「意識が戻らなかったらどうしようかと思った…」


ベッドの傍に置いてある椅子に座ると彼は言った。


「どうも…ご心配をおかけしてしまったようで…」


話しながら思った。

あれからどのくらい経過していたのだろう?よく見ればキリアンは上着を脱いでいた。腰には剣が差され、はめていた白い手袋はそのままになっている。


「目が覚めたようですね」


すると次にカーテンの奥から白衣を着た初老の男性が顔を覗かせて来た。


「先生、助けて頂きどうもありがとうございました」


キリアンは白衣の男性に頭を下げて礼を言う。


「いえ、発見が早くて良かったです。後もう少し遅ければ手遅れになっていたかもしれないですから。それにしても運が良かった。たまたま血清が残っていましたから」


私は2人の話を未だぼんやりする頭で聞いていた。


手遅れ…?血清…?一体どういう事だろう…?


そこで意識を失う直前の出来事を思い出した。


「!そ、そうだわ!私…確か部屋の中で蛇に噛まれて…!」


するとキリアンが言った。


「俺が部屋に戻ったら君は足首を毒蛇に噛まれていたんだ。すぐに剣で蛇の頭を切り落としたんだが…君は真っ青な顔で身体も冷たくなっていて…それで慌てて医務室へ連れて来たんだ。」


「医務室…やっぱりここは医務室だったんですね…」


「ここは特殊な医務室でね…王族の人々は常に命を狙われているから様々な毒消しの薬や、毒蛇の事も考えて血清も置いてあるんだよ。たまたま今日はストックがあったから君に使う事が出来たんだ。君は運が良かったよ。もう少し遅ければ手遅れになる処だった」


白衣の先生は言った。


「でも本当に良かった…もう助からないんじゃないかと思ったよ。ここに運んできた時はシルビアの身体は氷の様に冷たくなって、顔面も蒼白になっていたんだ」


キリアンの言葉を私は黙って聞いていた。そうか…私はそれ程の猛毒の蛇に噛まれて、あの時死んだんだ…。ひょっとしたら私は最悪、今回死んでいたかもしれないのだ。私はキリアンを見た。


「ありがとうございます、キリアン様。貴方は私の命の恩人です。何とお礼を申し上げればよいか…」


「御礼なんかいいさ。俺は君の護衛騎士だからね。どうだ?ユベールなんかよりも俺の方がずっと頼りになると思わないか?」


キリアンは何処か引っかかるような言い方をした―。




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