3−5 検証開始

ゴーン

ゴーン

ゴーン


部屋の中に大きく鐘の音が響いてきた。間違いない、あの箱の中には魔石が入っている。


「う…」


鐘の音が頭の中で鳴り響くせいで急激に気分が悪くなってくる。自然と足が震えはじめ、立っているのがやっとの状態になってきた。

あの音は自分の死の記憶を呼び起こすから。すると周囲で様子を伺っていた令嬢たちがヒソヒソと話を始めた。


「ねえ、見て。あの令嬢…」

「ええ。箱を見た途端青ざめたわね」

「やっぱり何か感じるのかしらね…」


「…!」


一方、コーネリアの方は唇をグッと噛み締め、箱を必死で見つめている。


「さあ、この5つの箱の中に1つだけ魔石が入っている箱があるよ。本当に魔力があるなら1回で当てられるはずだ。さあ、選んでくれるかい?」


アンリ王子が笑みを浮かべながらコーネリアに言う。


「わ、分かりました…」


コーネリアは箱に近づき、触れようとした途端…」


「言っておくけど箱に触れるのは無しだからね」


その声は驚くほど冷淡だった。


「え…?!」


コーネリアが驚いたように手を離した。


「恐らく君の事だ。箱を持って振ってみたり、重さを確認しようとするつもりだったなんじゃないか?でもそんな事をすれば誰だって分かるだろう?これは魔力があるかどうかの検証なんだ。少しでも手を触れることは許さないからね?」


「く…っ!」


コーネリアは悔しそうにうつむくと、やがて決意したのか箱をじっと注意深く見ている。私はその様子を鐘の音に必死で耐えながら見守っていた。


「こ、これですっ!この箱に魔石が入っています!」


コーネリアが真ん中の箱を指差した。


「そうか…君はこの箱の中に魔石が入っていると思うんだね?」


アンリ王子は笑みを浮かべて尋ねた。


「はい。そうです」


コーネリアは頷く。


「よし、分かった。それじゃ、シルビア。次は君の番だよ」


「は、はい…」


魔石に近づくのは怖いけど…アンリ王子の命令に歯向かうわけにはいかない。震える足で近づき、足元がふらついた時―。


「大丈夫か?」


突如、ユベールが私の背後に立って身体を支えてくれた。


「あ…ユベール様…」


「気分が悪いのだろう?ここからでも魔石の場所が分かるか?」


私と魔石の隠された箱の距離は目測で約2m程。


あの箱の何処かから音が聞こえてくるのは間違いない。けれど少し距離が空きすぎている。


「分かりません…もう少し近付いてみない事には…」


「そうか、もう少し側に寄れそうか?」


「は、はい」


ユベールに支えてもらいながら私は少しずつ箱に近づき、音に苦しめられながらも箱に集中した。そして音の出どころが分かった。


「魔石は…右から2番目に入っていると思います」


何とか私は答えた。するとアンリ王子は嬉しそうに笑みを浮かべる。


「え?!そんなっ!」


コーネリアが悲鳴じみた声をあげる。


「そうか、シルビアは右から2番目を選ぶんだな?よし、それでは左から順番に開けてみようか?」


アンリ王子は自ら箱の蓋に手を掛けた。そして蓋を開けると、中は空っぽだった。


「どうやら、この箱には魔石は無かったね。では次だ。」


2つ目の箱をアンリ王子は開けた。しかし、やはり箱は空だった。


「ふむ…これも違うね。よし、次は君が選んだ箱だ」


アンリ王子は蓋に手をかけた。そして周囲の人々の間に緊張が走る。


その瞬間―。


「あの!今から変更してもいいですか?どうもその箱の中には入っていない気がするのです!」


その言葉を聞いたアンリ王子は眉をしかめると言った。


「生憎だが、それはもう無理だよ。変更は出来ない。さあ、君が選んだ箱だ。開けるよ」


アンリ王子は躊躇うこともなく、一気に蓋を開けた。しかし中は空である。


「…!」


コーネリアは偶然当たる確率を狙っていたのだろうか?その表情には悔しさがにじみ出ている。周囲では令嬢たちのざわめきが起こっていた。


「やはり魔力なんか無かったのね…」

「図々しい女性ね」

「もう彼女はここで脱落ね」

「ライバルが減って良かったわ…」


その言葉を悔しそうに聞いているコーネリア。


「では、次の箱を開けようか?」


アンリ王子が私を見た―。








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