モーリ、オレは人間じゃないんだ
女王陛下側の控え室にノックがあり、女性が入室してくる。
「失礼します、隊長よろしいでしょうか」
「どうなった」
「城内および城壁外の国民は滞りなく城壁内に入ってきてます。それと衛兵隊長の指揮のもと、城壁上に
「偵察隊は」
「3人組で、近隣の村と[大地の嘲笑い]にそれぞれ出してあります。報告は早くても3日後かと」
「わかった。我々も万が一の準備をしておけ」
「はっ、失礼します」
女性が部屋から出ていくと、ゾフィはあらためて問いかける。
「さて、先ほどの矛盾点をどう説明するのかな。自称勇者の仲間さん」
「なによそれ、ユーリがウソついているっていうの」
アディが腰を浮かし中腰になって、噛みつくように言う。
「仕方ないだろう、生き証人もいなければ証拠も無い。このエルフだって何100年も生きている事すら、証明できないではないか」
「ユーリの言っている事がウソっぱちだっていうの、ちょっとアンタ、この女の雇い主でしょ、なんとか言ったらどうなの」
「キサマ、女王陛下に対してなんて口のきき方をするっ、それだけで極刑ものだぞっ」
「はん、コッチの言ってる事がホントかどうかも分からないのに、なにが女王よ」
「キサマっ」
ゾフィが腰に帯びている剣を抜こうとするが、女王陛下がそれを止め、アディもオレがたしなめる。
「御客人」
エルザ女王が厳かに話す。
「そろそろお腹が空いてきたませんか。食事を用意させますので、いちど時間を取りましょう」
「仰せのままに」
返事として適当であったか分からないが、アディのアタマを冷やす必要があるから、申し出を受け入れる事にした。
「……牢屋に戻されるとは思わなかったな」
控室で待っていたモーリと一緒に、また牢屋に入れられてしまった。
「食事もねえ。手のひらくらいの大きさの固いパンと水だけじゃないの」
アディが憤慨する。
「まあまあ、我々はまだ判決が出ていないから、扱いが変えられないんですよ。しかし、話を聞く限りでは、とんでもない事になってますな」
そう言いながら、モーリはパンをちぎって水に浸して口に運ぶ。
「ねえモーリ、大丈夫なの。毒とか入れられてない」
「大丈夫、大丈夫、そんな姑息な真似はしませんよ、あの子は。それよりは皆さんは食べないのですか」
「ああ、オレとアディは水だけでじゅうぶんだ。ユーリは」
「食べる気がしない、モーリ、私のぶんも食べてもいいぞ」
「それじゃ遠慮なく」
モーリは、オレ達のパンもむしゃむしゃと食べてしまった。その剛胆ぶりにオレは呆れた。
「さて、どうします。クッキーさん達はこのまま成り行きにまかせますか」
「ジョーダンじゃないわよ、こんなトコにいつまでも居られるもんですか。それにあのゾフィってのに言い返してやらないと気がすまないわっ」
アディの言葉に珍しくユーリも同意する。
「言い返す云々はともかく、アディの言う通りこんな所にいつまでも居られないな。さっきは頭に血が上り殺してしまったが、300年目にやって来た好機なんだ。今度こそカイマを捕まえてやる」
「クッキーさんは?」
「もちろん、オレも成り行きにまかせる気はない。ユーリとついでにアディの願いをかなえよう」
「なんでアタシはついでなのよ、いちばん重要でしょうが」
憤慨するアディを無視してモーリに話し続ける。
「さしあたっては」
「その前にモーリに訊きたいんだが、オレ達の言うことを何で信じているんだ? ゾフィ隊長の言う通り、オレ達がカイマの仲間かもしれないだろう? それにしては落ち着いている。何故なんだい」
「そりゃ簡単です、
訊いてみれば当たり前で単純な理由だった。ささくれ立っていたアディとユーリも、その言葉にくすりと笑ってしまった。
「ついでに言わせてもらうと、たぶんヒト族とは違うとみてますが」
オレはモーリなら受け入れてくれるだろうと判断して、正体を話すことにした。自分は世界樹であるということを。
「はあ、世界樹ですか」
ピンとこなかったらしい、オレは自分の手の部分を躯体の素材に戻した。それにはさすがにモーリは驚いた。
「100年くらい前に手に入れた躯体でね、それに
「さすがにそうだとは思いませんでした。……うん、どうやら今日は私の人生の転機のようですな」
良い方に変わればよいが。
というかオレ達も転機かもしれないんだよな。モーリの為にもオレ達の為にもやるか。
「今のところ、ここから出られないから情報の整理をしよう。アディ、ここから抜け出してどこまで行ける?」
「アタシはクッキーと違うから、どこまでも大丈夫よ」
「よし、じゃあまた
わかったというが早いか、アディは躯体から離れ精霊体となって壁を抜けていった。
「あの方も世界樹なのですか」
残ったアディの躯体を、まじまじと見ながらモーリは尋ねる。
「アディはドライアドという樹木の精霊で、オレのまあ お目付け役かな」
「いま気がついたが、クッキーは大丈夫なのか」
ユーリが、いつも通りだが少し心配そうなニュアンスで訊いてきた。
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