135話 お礼と吸収

 



 パキッと砕ける音が聞こえる。




 聖剣が、浄化の光をも吸収し、より一層輝く。



「眩しっ」

「きやっ」



 瞬間的に目が潰れそうな程輝いたので、目をつむる。



「うわぁ……」

「すごい……」



 そんな感想しか出てこないほど幻想的な光景が、目を開けると広がっていた。



 黒ずんでいたものが少しずつ、でも確かに、無色透明に変わっていく。



 時間切れか、幼児化してしまったが、そんなのどうでも良くなるほどの美しさだ。



「イテッ!」

「っ!」




 二人揃って見蕩れていたら、空中居たのをすっかり忘れていて、地面と衝突してしまった。




「綺麗ですね……」

「だねー」



 お互い相手の顔を見ず、ただ目の前の超自然的な現象を目に焼き付けようと仰向けになって眺める。



 黒が消えていく度に日が差し込み、無色透明なのも相まって水が虚空を飛んでいるように見える。



「お疲れ様です、お兄様、ハクさん」



 自称妹が来たようだ。立ち上がる。




「あれ? 他は?」


「皆さん神経を張り詰めていたので、お二人と同じように寝そべっていますよ」



 本当に頭上がらんわー。上げてるけど。



「最後の仕上げです。お兄様も協力してください」


「私はいらない?」


「私とお兄様しかできない技ですので」



「ならもう戻ってますね」



 ハクが立ち上がり、来た道を戻っていく――



「ちょい待ち」


 ――のを腕を掴んで止める。




「はい?」


「ありがとう。助かった」




「!」


「そんなに驚く?」



 口をあんぐり開けている。酷いな。そんな薄情な人間に見えてたのかねー?



「ふふっ! いえ……ッッッ!」



 そんなツボることある? 面白い要素全く無かったくない?



「あまりにも真面目な顔で見つめられたので。ッ!」




 これはぴえんと言っても悪くないシチュエーションだな。言わんけど。



「友達に礼を言うのは当たり前だから。それだけだからもう行っていいよ」


 手を離して少し押しやる。



「そうですね。どういたしまして!」



 ニコニコして今度こそ立ち去る。




「いいですか?」


「いいけど、何すんの? 小さくなっててあんまりアグレッシブなのはできないと思うんだけど」



「ご心配なく。ここに漂っている魔を吸収するんです」



「てことは、お前も魔司人そめられびとなのか?」



「そうです。さあ、やりましょう」


「ああ」



 透明な球体の反対側に回り込む自称妹。無色透明だから向こうの顔までハッキリ見える。



 その面影から、どこかで見たことがあるような既視感を覚える。



「やりますよー!」

「うん」



 お互い大股三歩ほどの間隔を開け、両手を上に上げる。



【操魔】のスキルを使って、ここ一帯に散らばっている魔を目の前の球体に集める。



 お風呂の栓を抜いた時のような、銀河の形のような渦巻きで集ってくる。



 また見蕩れそうになるも、掻き集めるのに意識を向ける。



 幼児化した影響で筋肉が衰えてるのか、腕を上げてるのがいつもより辛いが、耐える。




「あと少しです」



 遠くの魔は集めれた。あとはほんの少し。



「完璧です。あとは半分に分けて吸収です」



 球体を半分に分け、お互いの近くに引き寄せる。



「手を入れればやりやすいです」



 お手本とばかりに、自称妹は手を入れ――――




「ご苦労さま」



 入る前に、自称妹の平らな胸から腕が突き出る。その手には心臓が。


「カハッ……くっ」



 後ろをチラ見し、諦めずに震える手を球体に――


「だーめ」



 ブチッと嫌な音が聞こえた。差し伸ばした手は、あと数ミリのところで引きちぎられた。




「ソフィ!!!!」



 自称妹は崩れ落ち、叫ぶ。


 背後に居たのは、ソフィと名乗っていたあの怪しい女だ。金と黒の髪が風で広がっている。




 よくわからないが、俺は既に魔の球体に手を入れて吸収した。力が溢れてくるが、そんな悦に浸れる状況では無い。



わめかないでよ、マナンティア。【強欲の血糊ちのり】」



 そう言いながら、引き抜いた心臓を豊かな胸に当て、取り込んだ。



「お兄様、早く私の分も――」



「これは頂くよー」



 ソフィが魔の球体に手を入れる。


 球体が吸収された。




「残念、油断したね。君らしくない。どうだい? 僕にひれ伏す気分は、マナンティア。いや、今はオリジンだったね」




「よくも、ゴホッ!」



「あの時と立場が逆転しているねー。僕は優しいから、痛みを感じさせずにトドメを刺してあげる」



 手を上に掲げると、魔法陣が描かれる。


 その中から、巨大な火の玉が出てくる。



 自称妹が焼き尽くされる。



「いいねー。実質神能の感覚で魔術が使える」



「お前は敵か?」


 横取り程ムカつくことは無い。俺がされた訳ではないが、目の前でやられたらイラッとするのは当たり前だろう。



「そんなことはないよ。君のお父さんが死んだと君から聞いて、よく考えたんだよ。もう久しぶりに頭をこねくり回してねー。色々考え、葛藤した結果、遊ぼうと思ってね」



「遊ぶ?」



 意味が分からない。理解できる気もしないし、したくもない。



「手始めに君たちのような面白い子達でね。あ、君は特別だから、連れて行こうとも考えてるんだー」




「行くかよ。ブス」




 嫌な予感しかしない。




「…………フフフッ! その顔でそれはやめてくれよ。それだけは許されないよ。禁句だよ。それではここまでしてきた僕が報われないじゃないか。積み上げた全てが台無しに感じてしまうじゃないか。二度としないでよ」





 地雷踏んだみたいだ。



「嫌だ。ブース」



「調子に乗らないでよ」


「グバッ!?」



 腹を殴られたのか? 全く目で追えなかった。クソ痛ぇ。



「一回殺してから連れて行くとしよう。二度と言えないようにジワジワと苦しめてね」



 やっばい。こんなに実力差あるのかよ。




「女神ヘカテーよ、灰燼と化せ〖スカーレットフレア〗!!!!」



 巨大な火の玉が横から俺を守るように飛んできた。


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