112話裏 苦戦と観戦 (ネア視点)



「折角の祭りが台無しじゃな」


 荒らして回っていたら突然老人が現れた。



「……誰?」


「儂の名は仙老じゃ、お主の名は何という?」


「……教える義理……ない」


「ケケッ、残念じゃ」


「……」



 睨み合う。


「しっ」


「……っ!?」



 速い。それに剣の間合いじゃない。


 ギリギリで避ける。そのまま連続で斬りかかってくる。速い上に軌道が読みづらくて傷が増えていく。


 強い。私みたいなスキルでの絡め手ではなく、純粋な剣の技量が凄まじい。



「なかなか粘るのー」


「……負けない……火の槍よ〖ファイヤランス〗」



「しっ」



 剣で防がれるが、その隙に下がる。距離を詰めたら一瞬で死ぬ。まだ【彼岸花】は撃てない。時間稼ぎが必要。それなら……



 剣に手をかけた。仕掛けてくる。同時に使って反撃がベスト。



神薙かみなぎ流奥義・虚静恬淡きょせいてんたん


「……輪廻ノ外法其の……【無命歪曲むみょうわいきょく】」



 地面を歪め、相手との間に分厚い壁を作り、念の為屈んでおく。勿論壁に小さな二つの穴を開けてある。


 壁に一筋の線が描かれる。丁度さっきまで私の首があった場所。壁ごと斬って後ろの建物まで斬られている。とことん化け物。



「なんじゃ? 逃げるのかの?」


「…………」



 あと少し。十数秒で勝てる。



「……どこの陣営?」


「む? ああ、儂は一応竜の陣営じゃな。ここまで運んでくれたからのー」


「そう……」



 なら倒しても問題は無い。時間は足りた。これで終わり。壁を元の地面に戻す。




「隠れるのは終わりかの?」



 変わらず目で老人を捉え、


「……輪廻ノ外法其の壱……【彼岸花ヒガンバナ】」


 彼岸花が老人から無作法に生えてくる。


「ケケッ、奇怪な技じゃな。神薙流奥義・雲集霧散」



 赤い花が散る。斬られ、裂ける。体に根を張ったにも関わらずどういう仕組みか無傷のまま根をも斬られた。



「ヒヤッとしたわい」


「……意味分からない」


「それは武人からしたら褒め言葉じゃよ」



 どうしよう。まだ外法は弍までしか表示されていない。切り札は無い。壱と弍でも倒せるビジョンが見えない。転がってる死体を使ってもいいけど、有象無象なんてあの剣術の前にはあってないようなもの。やはり一か八かの賭けに出るしかなさそう。




「見つけたぞ」



 っ!? ここまで鳥肌が立ったのは初めて。尋常ではないほどの殺気。老人からではない。後ろから。



「……誰?」


「酒呑童子だ。お主が星熊、熊、虎熊、金の奴らを殺した人間だな?」



 居たのは紅いベリーショートの髪の巨女。紅い二本の角があったのだろうが、片方は半ばで折れている。身長は二、三メートルほど。


 挙げられたのは鬼ヶ島で私が瞬殺した鬼の名前。確かにそう名乗っていた。やっぱり酒呑童子の四天王だった。仇討ちで来たということ?



「……そう」


「ならば死ね」



 速い。見えない。……近くで金属の音がする?




「老木、何故邪魔をする?」


「強いやつと戦いたい主義でな。どうじゃ? 儂とやらんか?」



 老人が剣で酒呑童子の殴りを受け流したようだ。達人の域とはこのことみたい。辿り着ける気がしない。



「ふん! いいだろう」


「ケケッ、よろしくのー」



 静寂。まるでこの世の音が消え去ったような感覚に陥る。



「しっ!」

「らあ!!」




 両者の手の動きが全く見えない。力と技のぶつかり合い。余波でミシミシと建物がきしんでいる。


 ここでフェードアウトしたら今度こそ狙われるので大人しくここで待っていよう。時間はあるから【彼岸花】の準備をしておこう。確実に敵になるであろう鬼の方に目線を向ける。




「神薙流奥義・秋霜烈日しゅうそうれつじつ

「【絶華ぜっか】」



 一撃。両者のたった一撃が激突し、巨大なクレーターが地面に描かれる。周囲の建物は吹き飛んでいる。私も風に体を持っていかれそうになるが、踏ん張ってこらえる。


 素人だから互角に見えるが、実際どうなんだろうか。




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