58話 生贄と口説き



 さて、なんの手がかりも無く生贄さんを探さなければいけない。聞き込みをしてもいいけど、大事な生贄の居場所をそう簡単に教えてくれると思えないしな。


「……だ……し……ない!」


「……かし……なこと……」


 何か言い争っている声が聞こえる。ここの家からだ。少し覗いてみようかな。


「もう知らない!!!!」


 バタンッ



 ドレスのようなものを着た藍色の髪の美人さんがドアを勢いよく開けて南の方に走っていった。生贄さんかな?



「マリー! 帰ってきてくれ! 頼むから!」



 修羅場ですか? いいね。カップルは漏れなく爆発しておくれー。



「何かお手伝いしましょうか?」


「君は?」


「お手伝いが大好きな旅人ですよー」


「村のやつらには言わないで欲しいんだが、娘のマリーが逃げてしまってね。捜索を手伝って欲しいんだ」



 これシナリオのやつかな? ていうか親子かよ。お父さん若々しくてその選択肢は無かったよ。



「分かったよ」


「すまないね」


「見つけたら娘さんをください」


「見つけてくれてら何だってす……は?」



 シナリオで想定されていない行動って無性にしたくなるよね。自由度が高いのが悪いんだよ!



「えーと、とりあえず娘を見つけてから決めようか」


「お任せあれ」



 イベントフィールドでお嫁さんができたら連れて帰れるのかな?


 なんてことを考えながらマリーさんが走っていった方向に走っていく。あ、いた。そんなに離れてないな。あれか、子供の癇癪的な一時的な反抗っぽいやつか。


 マリーさんはおそらく姉さんと同い年ぐらいだしまだ反抗期でもおかしくは無い。



「おはよう、いい天気だね」


「誰よ、あんた。パパの差し金?」


「そうだよ」


「え?」


「変なこと言ったかい?」


「……いや、変なやつだなって」


「酷い言い草だね」



 意外性からのアプローチ。さぁ、効くかな?



「それで、連れて帰るの?」


「それもいいけど、実は連れて帰ったらお嫁に貰うと約束してね」


「は?」



 大嘘。既成事実って大事だと思うんだ。本人のいない所で外堀から埋めてく詐欺師のようなテクニック。とくと味わうがよい!


『【詐術】のレベルが上がりました』


 うるさいやい。



「初対面よね?」


「一目惚れだったんだ。運命を感じてね。この人しかいないってボクの全身が痙攣を起こして伝えてきたんだ」


「……私、明日死ぬのよ?」


「ボクが死なせない」


「生贄だから、私が役目を果たさないと村の人達はみんな死んじゃうのよ?」


「君さえ生きていればそれでいいよ」


「……私は生贄の家系で……だから……」


「それを強いる獣なんてボクが倒すよ」


「…………」



 このゲーム、いつからギャルゲに変わった? 歯の浮きそうなセリフ吐きすぎて、恥ずかしさで自殺したいレベル。誰か早くこの地獄を終わらせて……


「分かったわ。あなたがそこまで愛してくれるって言うなら私も腹を括るわ。一緒に守護獣様、いいえ、獣を倒しましょう」



 あれれ? 承諾しちゃったよ。チョロくない? 大丈夫?



「ありがとう。でも戦いに参加させるわけにはいかない。君を失いたくない」


「そうね、私に戦う力なんて無いし足でまといになっちゃうわね」


「情報だけでいいよ。何か弱らせる方法を知らない?」


「弱らせる方法に関しては、私は知らないけどパパなら知ってるかもしれないわ」



 遠回りだな。面倒臭い。



「戻って聞いてみるよ。君はここで待っていてくれ」


「私も着いて行くわ。生贄の広場で時間を稼ぐぐらいはできるもの」


「……わかった、お願い」


「ええ!」



 少し心配だな。覚悟を聞いてみようかね。



「もし必要に迫れば村人、父親も含めて見殺しにできる?」


「パパも?」


「もちろん、ボクは君なら守りきるけどお義父さんまで守りきれる自信は無いよ」


「分からないわ……」



 残念。まぁ、俺も他人ならともかく、家族を見殺しにするのはできないと思うが。


「まあいいや。戻ろうか」


「そうね」

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