第41話 一貫性
「どういうことだ?」と訊ねられ、九条は僕らの身に起きていることを伝えた。。
「なるほど、口封じか。それで救援を要請したんだな。うむ、考えれば確かに怪しい」とは言ったものの、すぐに表情を変え続けた。
「でもさ、毎回記憶が書き換えられるわけだし、同じクローンと出会ってるかも知れないぞ」彼の言う理屈は、今は同じ器が見当たらなくとも、過去の任務では出会ってるかも知れない。と言うことだ。もしかしたら、今の器も、最初の任務で使っていたかも知れないと言うのだ。確かに、あり得ない話ではない。
任務ごとに記憶が書き換えられるのならば、覚えてなくとも当然だからだ。
しかし、本当にそうだろうか。
「仮に……」と言ったところで、視線が一斉に僕に注がれた。
「仮にそうだとしても、それは人間界に派遣される実働部隊だけで済むのはないか?それとも、広間で働く者たちにも当てはまるのか?」
「どういうこと?」
「彼らにも定期的に器を交換しているのか?ってことさ。だって任務の区切りがないだろ?実働部隊のように」僕の言葉に、小暮は目を見開き、
「悪い。そのことには全く関心がなかった。単なる器と思っていたからな」と答えた。恐らく指摘しなければ誰も気が付かないはずだ。
「そう。単なる器だよな。でも、全員が同じ顔を持っていない。それが解せないんだ」
「そうだな。俺たちが気にも留めないようなことに、上層部が気を使うとは思えん。第一、同じクローンを使っても何の問題も起きないはずだ」
「なんなら、服に番号でも振っておけば済む話だ。だから、その点から見ても、我々も毎回違うクローンを使っているように思うんだ」と言ったとき、
「そもそも、本当にクローンって作ってるの?」と康子が言い出した。
「どういう意味?」
「記憶の事から言っても、近藤さんの言うように生身の人間と言った方がしっくりくるのよ」
「だな、食べ物にも好き嫌いがあるし、酒だって」と小林が言った。
「僕もそれを思っていた。違い過ぎるんだ」
「違うって当然なんじゃないか?」と、小暮は食い下がった。
「でも、記憶を操作してるんだろ?だったら、一貫性を持たせるはずだ。価値観とか最低限必要なもののね」
「そうだな。日本人らしく振舞いうために、早くから派遣するというのが上層部の考えだが、派遣する中身の記憶にばらつきが多い」秋葉も自分が感じた違和感を口にした。
「そのばらつきこそが個性と言え、人類と変わらないから疑問視するんだ」と、僕は言い切った。単なるクローンならば、個性があっても普通だろう。本体の思想や癖なども引き継ぐはずだからだ。けれども、ここのクローンには記憶の操作までが行われている。一貫性を持たせるのは容易いはずだ。まさに今、言い合っている状態も根拠にするには十分なことだ。
「それじゃ、あの再生は?」生身の身体だけでは再生はできない。それは僕も理解はしている。人類にはそんな能力は備わってはいないからだ。しかし、
「それは遺伝子でも操作すれば可能だろ。地球上には尻尾を切られても再生する生き物だっている。進んだ文明の持ち主ならば問題にならないだろう」と、僕は康子の問いかけに答えた。
「実際にクローンを見たものは居るのか?」と小林が訊ねると、
「この身体がそうだろ?」と、小暮はまだクローン説を信じたい様子だ。
「いや、統合される前の器だけの状態のだ」と言うと、九条たちは顔を見合わせ、ゆっくりと首を振った。
「私たちの中にはいないみたいね」
「立ち入り禁止の区間はあるがね」と近藤が思い出したように言うと、
「クローンを作っているのなら、そこだろうな」と、秋葉が続けた。
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