第21話 出会い
靴屋は洋品店の近くにあった。見ればそれだけではない。多くの店舗が軒を連ね、活気ある地下道だったと容易に想起できた。けれども、活気ある客に代わりに、地下道には無言で霧の無い者が多く横たわっていた。
靴も手に入れ、小林と康子は嬉しそうだ。勿論、僕も嬉しい。嬉しいと言うよりは、康子の裸に反応せずに済むのが大きな理由だ。ところが、小林の態度は全く違う。そこで何気なく彼に聞いてみることにした。康子は意気揚々と前方を歩いている。
「お前は康子を見ても何も感じなかったのか?」
「え?何を見たって?」康子の後ろをゆっくりと続く小林は、質問にはピンとこなかったらしい。
「いや、だから、その……」と、返答に困っていると、
「あー、裸か」と、小林は大笑いした。それに反応するかのように康子が振り向いたが、小林が『何でもないよ』手を振ったため、興味を失ったようだ。懐中電灯を片手に、率先して先頭を進んでいる。
「だって、気になっただろ?」
「別に。だって康子だぜ?しかも」
「しかもなんだ?」
「しかも俺たち、人間じゃねぇし」と言った。
「それはそうだけど……」
「いいか晴夫。俺たちは作られた存在だ。云わばロボットみたいなものさ。ロボットの裸に興味があるか?」
「いや、ないな」
「だろ?だから康子の裸にトキメキを感じないし、興奮もしない」
「いや、興奮はしないけど、目のやり場に困った」
「まぁ、お前は優しいからな」と、小林はプッと噴き出した。
「そうだとしても、今更、人間らしい感情は消えないよ」
「まぁな。それも分かるが、理解するべき時だ」と、小林は真顔で言った。
彼は『時と場合によっては人間を見捨てる』とでも言いたいのだろう。
その時、康子の声が聞こえた。
「止まって。誰か来る」生存者かと思ったが、近づく者たちは元気に見えた。そして、包んでいるはずの霧もなかった。
「あなた方たち、初出勤?」いきなりそう訊ねられ、僕たちは顔を見合わせた。
目の前に来た三人は僕たちと同じ、男二人と女一人だ。
「えっと。あなたたちは?」と訊ね返すと、
「同僚。とでも言えばいいのかな」と、声をかけてきた女が答えた。
「いや、意味がわかんないんだけど」と答えると、
「また不良品か」と、見下すように笑った。
「初出勤と言うことは、何度も経験しているの?」と、康子が聞くと、
「ええ。これで四度目よ」との返事が返って来た。
「申し遅れたけど、私は九条弘子。こっちが秋葉周作で、彼が近藤雄介。よろしくね。あくまでも今回の任務中はと言うことだけど」と、九条と名乗る人が仲間を紹介した。
「よっ。よろしくな」と、秋葉は人懐こそうな顔で手を振った。
「よろしくお願いします」と、近藤は丁寧に頭を下げ、どこかよそよそしい態度だった。眼鏡を掛ければ秀才にも見えそうなタイプだ。
「えっと、僕たちは初めてなのでよくわかってないんですが」と言うと、
「そっか。まぁ、知ってることなら教えられるわよ。先輩としてね」
「あ、ありがとうございます」
「じゃ、さっそく質問させてください」
「どうぞ。ちゃんとインプットされてないみたいだし」と笑った。どうやら、その点が不良品らしい。
「私たちってなんなんですか?」
「それね。難しい問題ね。説明も面倒だし」
「難しい?」
「ええ。地球の技術じゃないから、あなた達に説明しても分かるかどうか……」
「やっぱり、宇宙人の仕業か」
「それも答えに困るけど、これだけは言えるわ。あなた達は地球人よ。今はね」
と、小さく笑った。
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