5-5. 【行者ニンニク】のテッサイ

 テッサイは、かつて「役立たず」として売られた元奴隷だった。


 成人の儀式で授かったスキル【行者ニンニク】。

 その基本効果は「ギョウジャニンニクを上手に扱う」という物。


 低レベル時は余りにも限定された効果。

 何より問題だったのは、テッサイら犬耳獣人が、ネギやギョウジャニンニクといったユリ科植物を摂取することで、溶血性貧血や急性腎障害を引き起こすこと。

 何の役にも立たない外れスキルだとされた。


 むしろ一族に害を為す存在として、儀式を終えたその日の内に、奴隷として売り払われた。


 全ては成人の儀式のあの日、外れスキルを授かったせいだ。


 奴隷商人の馬車が横転した隙に、同じ境遇の3人と逃げ出したカルロスは、しばらく不遇な暮らしを送っていたが――何の因果か、突然そのスキルがする。


 いつの間にかレベル999になっていたテッサイは、外れスキル四天王として、世界への復讐を決めたのだった。




「しかし、どうしたものか……騒ぎを起こすにしても、我がスキルでは出来ることが限られる」


 よくギョウジャニンニクと間違われるイヌサフランやスズランなら、ヒュームにとっても毒となる。だが、ギョウジャニンニク自体は単なる食用植物だ。

 一応破魔の効果があり、護符としても使える。しかし積極的に幸運を呼ぶような効果はない。


 独特の強い臭気があるため、大量に生成してばら撒けば異臭騒ぎにはなるだろう。

 また、ヒュームには無害でも犬耳獣人や猫耳獣人にとっては有毒で、口に入れば嘔吐や下痢の症状を引き起こし、最悪死に至る場合もある。人口の大半がヒュームであるこの都市では、大きな効果は期待できないが。


「ともあれ、まずは撒いてみるか」


 魔力効率としては、虚空からそのままギョウジャニンニクを生成するよりは、種だけを生成して急速成長させる方が割りが良い。

 水辺が近く、日当たりの良い場所なら更に効率的だ。

 テッサイも魔力の多い方ではないので、その手の節約はどうしても必要だった。


 パースリー市内には、非常用水の溜池がある。

 最近造られたばかりで、貯水量にはまだ多少の不足があるが、テッサイの用途には十分だった。


「芽吹け、増えよ、地に満ちよ!」


 池の周りへ雑に蒔いた種が水を吸い、一気に成長する。

 土が渇いてひび割れ、池の水量は目に見えて減り、周囲にニンニクに似た臭いが漂い始める。

 スキルの効果で臭いに耐性のあるテッサイはともかく、鼻の良い種族とっては既にテロ行為に等しい。


「クック……育てよ育て、憎き当たりスキル共への復讐のため……!」


 そこへ、4足歩行のドワーフに跨ったエルフの女が現れた。


「疫病ですか? テロですか?」


 


 四天王会議で聞いた「ソロの配達者」という情報とは異なるが、テッサイは直観的に、これが『外れスキル狩り』だと判断した。


 近頃よく見る目をしている。

 他の四天王の仲間達と同じ目だ。

 自分とは違う、絶大な力を手に入れた者。

 力に溺れた者に特有の、淀んだ目。


 そのエルフ――エリーは、同居人の少年ジローがあまりに自分の顔を褒めるので、自分の目はまあまあ綺麗なんじゃないかと誤認している。

 が、そもそもジローは目の話なんてしていない。顔の話をしているのだ。

 ジローは人の心の美しさではなく、顔の美しさの話をしているのである。

 エリーの目は当然のごとく、力に溺れた者の淀み方をしていた。


 テッサイは見事に目的であった『外れエルフ狩り』のおびき出しに成功したが、それを撃退するだけの力はない。


「ここは撤退あるのみ!」


 地面に向けてギョウジャニンニク煙幕を投げつけ、臭気と煙で相手が怯んだ隙に、全力で逃亡した。

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