第33話
夕方の平原を男女2人で狼に乗って駆ける。
中々素晴らしいシュチュエーションだ。
…魔物が妨害して来なければ。
「虫が鬱陶しいし。進路妨害してくれるモグラもいやらしい。おかげでロデオ状態なんだけど」
前方からはハエみたいな魔物が集団で飛んできて、更に地中からモグラっぽい魔物が地面を盛り上げたり、穴を開けたりして全力疾走するボスの足を止めようとしてくる。
ボスはAランクの魔物だし。そこら辺にいる魔物は襲いかかって来ないと思ってたんだけど、実際はさっきから魔物の襲撃がずっと続いている。
まだプロテクトツリーの効果範囲内だからボスに勝てるような魔物はいないはずだし。
「ボス相手に襲いかかってくる魔物はいないと思ってたんだけどな…」
「ボス一体だけだし、背中に生き物を乗せてるから今なら勝てるかもって思ってるのかも?まぁ、昆虫系の魔物はそんなことを考える知能無いだろうし、そんなの関係なしに襲って来てるんじゃない?」
特に俺たちが対応しなくても、ボスが倒してくれてるし。落ちないようにしっかりハンドルを掴んでおくことに集中しておくだけで良い。と言っても乗馬すらろくにしたことが無い俺には戦闘よりそっちの方が大変だけど。
だって、さっきからモグラが作り出す落とし穴とかを避けるためにかなりアクロバテックな動きをボスがしてるし。
気を抜くと俺でも投げ飛ばされそうなんだけど?
これなら1度止まって魔物の相手をした方が良いと思っちゃうレベルだ。
「虫の魔物が群がってくるのは、日が完全に落ちて真っ暗になれば収まるから。もうちょっと我慢して」
魔界は全く詳しくないし。エリーがそう言うなら、頑張って捕まっておこう。
「それにしてもコウは乗馬得意じゃないんだね。そんなにガチガチじゃあ、疲れちゃうよ。落ちそうって力が入るのはわかるけど、あえて若干力を抜いてボスの動きに合わせる様にした方が楽だよ?」
さすが毎日ボスに乗って辺りを駆け回っているだけはあって、全速力のまま飛んだり直角カーブもお手の物らしい。
そして俺は、乗馬できた方が良いよね?と思ってフィア達に教えて貰ってたけど。
「コウは自分で飛ぶことができるし、転移魔法を使うこともできる。乗馬は必要無いかもな」って遠回しに乗馬の才能まじで無いから
これ以上練習しても無駄かも?って言われてるからな。
すぐにアドバイス通りに適度に力を抜けるなら、そんな事言われないだろう。
魔物の襲撃が落ち着くまで、全力で体に力を入れて振り落とされないように耐えることになった。
「やっと魔物の襲撃が落ち着いた…」
魔物と正面から戦うより疲れた。手の握力が可笑しくなってる。
それにしても力を入れすぎてハンドルを握りつぶしちゃった時はどうしようかと思った。
鞍自体を掴むことで何とかなったけど。
まじで投げ飛ばされると思った。
「コウにも苦手なことがあるって、初めて実感したよ」
みんな、俺の事を神聖視し過ぎなんだよね。
俺なんか出来ないことだらけで、しょっちゅう周りの人に力を貸して貰ってるから。
むしろいちばん得意なのは周りの人に仕事を丸投げすることかもしれない。
「そりゃそうだよ。むしろ苦手なことだらけで、いつも皆に助けて貰ってるからね。
これからはエリーにも大いに助けてもらう事になると思うよ?」
「そっか、じゃあそれを楽しみしてるね。ここからは歩きだから、ボスは先に村に帰すね」
魔物創造のスキルで使える能力の1つを使ってボスを村へと転移させる。
召喚と送還もできるってやっぱり便利だよね。
「辺りはほぼ真っ暗で明るくしないと足元ぐらいしか見えないので、収納魔法からランタンを取り出す」
するとだいたい川幅が5mぐらいで流れはゆっくりとした川が現れた。
「ここから30分ぐらい上流に向かって歩くと、お目当ての景色が見れるかも?」
かも?なの…。いやまぁ自然現象だろうし。100パーセントは有り得ないって事だろう。
ここに来るまでもわちゃわちゃして面白かったし。見れなかったらまた今度見に来れば良いだろう。今度からは転移で来れるし。
上流に向かって2人で歩く。
夜行性の魔物が一定の距離を保ってついてきている。
襲われないように若干殺気を飛ばしているので、様子を見ている感じだろう。
「コウ、ここ辺りから殺気を飛ばすのをやめてもらって良い?殺気を飛ばしたままだと。お目当ての景色が見れなくなっちゃうから」
エリーが言うなら仕方ない。殺気を飛ばすのを辞める。その瞬間待てを解除された犬みたいに、こちらの様子を伺っていた魔物たちが一斉に走ってくる。
あまり大きな音を立てたりしないように、最小限の魔力で氷漬けにした。
その後苔むした岩や木が沢山あって、まさに清流って感じの場所にたどり着くとエリーが足を止める。
「ここが目的地。さっきの戦闘にビックリして逃げちゃっただろうから、ちょっとここで待ってれば、戻ってきてくれるはずだよ」
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