第22話
「そうそう、これ渡そうと思ってたの忘れてた。加工とか間に合わなかったから、素材そのままで不格好だけど」
そう言ってフィアに精霊石を手渡す。この精霊石はただの精霊石じゃなくて、フェムトと物に権能を付与する練習をした時に出来たもので、自分の権能である『停止』が付与されている。
何でも止めたりは出来ないけど、精神支配等の、精神に作用するような魔法、スキルを感知したら効果を停止させ無効化することが出来る。
防具とかでは守ることが出来ない精神を守るためのアイテムって訳だ。
2人っきりじゃないのでこの説明はしないけど、お守りとして持ち歩いといてとでも言えば、何となく察して持ち歩いてくれるだろう。
「精霊石?もちろん受け取るが、何故このタイミングで?」
「渡そうと思ってたんだけど、忘れてて今思い出したから、忘れない内にって今渡しただけだよ。お守りとして持ち歩いといて」
フィアはその説明で納得したのか、精霊石をしまった。
会議室が見えてきたので、これ以上は喋らず、少しだけ歩くスピードをあげて、会議室に入る。
用意された席に座り、会議が始まるのを待つのだった。
今回からは会議に出席して欲しいと頼まれたので、なんか色々聞かれたりするのかと思ったけど、そんな事は全くなく後ろの方にちょこんと座って暇をしていた。
(寝ててもバレなそうだし、少し寝てようかな)
会議という言葉だけで眠くなるし、テンションが下がる。そして権能が使えるようになって、完全に油断していた。その結果、突然目の前に現れて、フィアをさらって行った男に対応できなかった。
「は?」
突然の事すぎて間抜けな声を出してしまう。
だが、直ぐに気を取り戻して行動を開始する。
「ディアーネ、王として命令する。力を貸してほしい」
今回、自重するつもりは一切無かった。コウの正体を知らない人からはいつも自重をしてないと思われていたが、そんなことは無い。
その気になれば一瞬でこの大陸全体を永久凍土に出来るのだから。
そして、自らが精霊王である事を隠す気も無くなった。
知られる事で、怖がられたり、面倒な事になると思っていたため隠していたが、フィアを助けられればどうでもいい事だ。
だが、この行動をした事によって、
(『水の精霊王の卵』が『水の精霊王』へと進化しました。ステータスの上昇が行われます)卵から成長し、真の精霊王へと進化した。
実は、実力的には権能を持っていたりと特殊な条件のおかげではあるが、とっくに卵など卒業していてもおかしくない実力を持っている。
だが、別に卵のままでも困らないし、このままでいっか、寧ろ卵を卒業した結果仕事が増えたりしたらやだしと思っていたので、進化していなかったのだ。
今回、フィアがさらわれた事によって色々吹っ切れた。結果、精霊王になる事を認めたため、今このタイミングで進化する事となった。
「ようやくご自身が、王である事を、お認めになりましたか、精霊王になるのを面倒臭いと拒否した私が言うのもなんですが、時間かかり過ぎです」
精霊王になるのを断った上位精霊ってディアーネさんだったのかよ!まあフェムトともある程度本音で話せる仲みたいだし、考えたことがないといえば嘘になるけど。
「今は長々話をするつもりは無いです。結局手伝ってくれるの?」
「王、冷静そうに見えてマジでキレてますね。余計な事を言ってると私にも飛び火しそうです。水の精霊に属する者は全て王の眷属です。手伝わないと言う選択肢はございません。何なりとご命令ください」
この時、ディアーネの言った冷静そうという言葉に会議室にいた人間は全員そんな訳ないだろう!と心の中で突っ込んでいた。
フィアがさらわれてから、コウからありえないレベルで魔力が放出されていて、ディアーネ以外は放出されている魔力のせいで動く事すら出来なかった。この状態でキレて無いとか有り得ないだろ!と言う気持ちでいっぱいだった。
「水の精霊達全員で俺に魔力供給して欲しいんだけど出来る?」
「その程度お易い御用です」
そう言ってコウに対して魔力が供給され始める。
10分ぐらい無言で魔力供給を受けていたコウが喋りだした。
「このぐらい有ればなんとかなるかな?そのままじゃ使えないから、俺の魔力に変換したりと時間がかかったけど、これ以上時間はかけない『停止』」
コウが水の精霊達から集めた魔力を使って権能を発動する。
その結果、人間界全体の時が止まった。
「精霊石を渡しておいたおかげで、何処にいるか分かってるし、時間が止まってるとしても早く助けに行こう」
それにしても、随分遠くに転移したな。
普通の人間だったら、魔力が足りないと思うんだけど。
そんな事考えるよりフィアを助けるのが先だと、それ以上考えるのをやめて、精霊石の反応がある場所に転移した。
「コウ!」
転移した瞬間フィアに抱きつかれた。無事みたいで一安心だ。
いや待て。なんでフィアが動いてるの!
今、人間界の時間は止まってるので、フィアだって動けないはずなのに普通に動いてる。
「なんで普通に動いてるの?俺以外は動けないと思ってたんだけど」
「やっぱりこれはコウの仕業か、別に私は何もしてないぞ、てっきりコウのくれた精霊石を持ってたから動けるんだと思ったんだが」
あ〜、それかも?まあ、無事フィアが助かったし、そういうの考えるのは後にしよう。
「犯人はもしかしてと思ったけど、ほんとに日本人だったか」
どう殺してくれようと考えながら、石像のように動かない男を睨みつけた。
読んでいただきありがとうございます。
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